[発作]
[発作]
「ドアが閉まります。ご注意ください。」
感情のない女性の声とともに扉が閉まり、電車が発車した。
僕はこれから1時間半くらい電車に乗り帰宅しなければならない。
本来なら苦痛な時間であるが、今日は車内がそれほど混んでいなく、
座る席も確保できたので幾分気が楽である。
電車が発車して、今日の出来事をなんとなく思い出してなんともいえない楽しさを感じていた。
ただ、間もなく疲れとアルコールのせいか眠気が遅いうとうとし、
心地よい眠りに入ることができそうだった。
数分か数十分か眠ってしまった時に急に胃に鈍痛が走った。
僕は目を覚ました。
きたか。
僕はまるで相棒のように声を体に掛けた。
この痛みは知っている。いつもの痛みの前兆である。
僕はすぐにバックから薬を取り出した。
僕の常備薬である。
特に医者から処方された薬ではなく、
市販薬で、これも子供の頃から慣れしたんでいる昔からの腹痛用の薬だ。
何回か医者に見てもらい様々な薬を処方されたが、これといって効くものがなく、
この昔ながらの市販薬の薬が一番僕に相性がよい。
薬をいつものように口に入れ、持っていたお茶で胃に流し込んだ。
10分くらいの我慢だな。
自分に言い聞かせるように、鈍痛に耐える心の準備をした。
10分くらい経っただろうか。
腹痛との闘いの時間は、1分が1時間にも感じる。
時計を見ると、10分は経過していた。
お、おかしい。
腹痛が治まらない。
いや一層強くなっている気がする。
アルコールのせいで薬の効きが良くないのだろうか。
食べ過ぎのせいか、などとこの状況に至っては意味のない自問自答を繰り返していた。
やばい。
数分後、さらに痛みが増してきた。
額に脂汗が出てきた。気持ち悪さもある。
これ以上痛みが激しくなると意識を失うかもしれない。
ここで何かあったら前田君に責任が及んでしまう。
それだけは避けなければならない。
僕は、痛みの中朦朧としながらもそのことだけは頭に残っていた。
今、どこなのかわからない。
とりあえず降りなければ。
次の駅に着いた時、僕はほぼ意識のないふらふらの状態で
電車を降りた。そして、視界に入ってきた数個並んだベンチ椅子に倒れこんだ。
多分、他の乗客たちは単なる酔っ払いにしか見えていないのだろう。
電車から降りて僕を介護してくれようとした人は誰もいなかった。
間もなく、電車は次の駅へと発車した。
構内は人の気配がなかった。
意識が朦朧としている為、それ以外の状況は把握できなかった。
逆に人がいなくて良かった。
僕はそう思い。痛みの強さに限界を超え意識を失った。