[逃走]
[逃走]
僕、大木強志は焦っていた。
春風ハルとはもう二度と会わないと思い、見えない目を手当てした。
しかし、その春風ハルが営業先の会社の社長娘として、もうこの会社の中にいる。
多分、彼女はうすうす僕がしたことに気づいているだろう。
目が見るまでの接点が僕しかいないのだから。
僕がしたことが、社長やこの会社のみんなに知れ渡ったら、その噂は広まり
僕はこの社会の中で生きていけなくなるのではなかろうか。
そんな事を考えていたら、急に寒気がしてきた。
…
なんとしても今はハルちゃんに会わないようにしなければならない。
僕はすぐに近くのメモ用紙に書き始めた。
「これで良し!」
誰も居ない応接室を出て、隣にある秘書室に向かった。
春風ハルの件でほとんどの人が出払っていたが、一人事務員が残っていた。
コンコン
扉は開いていたが一応ノックをし顔を出した。
「あのーすいません。先ほどまで、春風社長と応接室にいた者ですが…」
そう言うと、事務員が焦った感じで、席を立ちこちらに小走りで近づいてきた。
「本当にもうしわけございません。社長が急に席をはずしてしまって。」
事務員は丁寧に頭を下げお詫びをした。
「いえいえ、何か娘さんのことであったみたいのでしょうがないですよ。
今日は日が悪いみたいですから、また改めて伺わせてもらってもよろしいですか?」
「本当にお手間をとらせて申し訳ありません。社長には私からお伝えしておきます。」
「はい。宜しくお願いします。これ社長にお渡しお願いできますか?」
僕はそう言って先ほど書いたメモを事務員に手渡した。
「わかりました。必ずお渡しします。」
「それでは、私はこれで失礼します。」
僕は、事務員の方に頭を下げ、来たエレベーターに乗り1階まで降りていった。
1階まで降り、ゲストカードを返却しようと受付のところに近づくと声が聞こえてきた。
受付嬢①「ハルちゃん見た?本当びっくりした。」
受付嬢②「杖も持たないで、目を開けて普通に歩いて帰って来るんだもん。」
受付嬢①「そんなことありえるの?数時間前は目が見えなかったのに?」
受付嬢②「それよりハルちゃん目がパッチリで綺麗だった。あんなに印象って変わるもの?」
ハルちゃんに関する話で湧いていた。
僕が近づき
「ゲストカードお返しします。今日はありがとうございました。」
そう告げると、受付嬢の二人は急に声のトーンが変わり
「あ、申し訳ございません。本日はありがとうございました。気をつけてお帰りください。」
そう言って、二人揃ってお辞儀をし、僕を見送った。
会社から出て、外の空気に触れると安堵感から大きく一息ついた。
ただこの場にいるとまた何かあると困るので足早に駅のほうに歩くことにした。
さて…どうすればいいのだろう。
自分で考えるのも怖いし、かと言ってこんな悩みを相談する相手もいない。
…いや、一人いる。家に帰ったら連絡してみよう。
何にせよ、明日何かがおきて、それに対応しなければならないのは確かだ。
明日が勝負か…
冷静に考え、行動している自分がなんだか自分でないような気がして
「我ながら気が強くなったな」
そう独り言を呟き、苦笑いし帰宅の電車に乗り込んだ。




