[保護]
[保護]
春風ハルは、人波にもまれながら歩いていた。
立ち眩みの症状がでなくなったわけでない。
目を閉じながら歩いていたのだ。
元々目が見えなかった春風ハルは、この近所の地理だけでなく
周辺状況も熟知していた為、多少目を閉じて歩いていても支障はなかった。
春風ハルは、この状況に悔しい思いをしていた。
なぜ、目が見えるようになった今、目を閉じなかれば前に進めないのか。
誰もいなければ声を出して泣きたい。
春風ハルは、涙を堪えつつ、数分に一回少し目を開け状況を確認しつつ進んでいた。
それでも会社に戻る目的を第一に自分の気持ちを押し殺していた。
数分歩いた所で、自分が足を怪我した駅の構内に入った。
構内には相変わらず人が多くいたが、繁華街とは違い閉鎖的な空間だった。
そのせいか、春風ハルは目を開けて歩いていても倒れるような眩みがなかった。
それでも、この10分間足らずで何度も目眩の症状と戦ってきた春風ハルの体力は
かつてない疲労感が身体を蝕んでいた。
春風ハルは、やっとのことで車椅子を貸してくれた駅窓口に到着した。
意識が朦朧としている中、どうにかお礼を口に出来た。
その春風ハルの様子を感づいた駅員が言葉をかけてきた。
「大丈夫ですが?顔色が随分と悪いですよ」
「すごい汗を掻いてるじゃないですか。」
駅員は、春風ハルに声を掛けたが彼女にはもう声が届いていなかった。
春風ハルは、今まで借りていた車椅子に身体を預けながらなんとか歩いていたが
その支えもなくなり、今は構内の壁に身体を委ね、まるでゾンビのように歩いていた。
そんな様子を駅員は心配そうに見ていたが、あることに気づいて
手元にあるメモに書かれた電話番号に電話を掛け始めた。
プルルル…プルルル…
「もしもし、○○さんの携帯ですか?」
「先ほどメモを頂いた月暮里駅の○○です。」
「今、お客様のお探ししていた人の服装や特徴が似ている方がいらっしゃいまして
ご確認できますでしょうか。」
「彼女、ひどく体調が悪いように見えますので…」
…
「はい。はい。すぐ近くにいらっしゃいますか?」
「それは良かったです。ええ、そうです窓口の所となります。
それでは宜しくお願いします。」
駅員は電話を切ると、近くにいた駅員に声を掛け、壁を伝ってどうにか歩いている
彼女に駆け寄って行った。
…
…
春風ハルの近くに誰かが駆け寄って来た・
「もうすぐお知り合いの方が来ますので、頑張ってください。」
春風ハルには誰が来たのかも、何を言っているのかも、もうよくわかっていなかった。
ただ、なんとなく励ましているのかなと感じて頷くだけ頷いてみた。
数分後
「ハ、ハルちゃん!大丈夫?」
「何があったの?私誰だかわかる?ハルちゃん!」
彼女はものすごい勢いで話しかけてきた。
春風ハルは、それが誰かはわからなかったが、聞き覚えのある声だった。
それがわかった時、春風ハルは会社に帰れると安心した。
その瞬間、緊張していた糸は切れ、意識が遠のき暗い闇に飲み込まれていった。
「全部、夢だったのかな…」
一粒の涙が彼女の頬をつたって落ちていった。




