[目が回る]
[目が回る]
私の名前は春風ハル、ついさっきまで目が見えなかった。
それが、今は目が見える。
理由はわからない。ただ確かに言える事は、目が見えていることだけ。
もう一つ現実的な問題がある。
そう、会社に戻らなければならない。
私は、目が見えないときも一人の社会人として働いてきた。
買出しで出かけ、最寄の駅に戻ってきたのが昼頃。
私はそこで足を怪我して、助けてくれた人とお礼にと食事をした。
「大木強志さん…」
私はそう口に出して呟いた。
私は、彼なら何か知っていると感じていた。
もちろん何の根拠もないのだが。
…
私は首を横に強く振った。
「いけない。今は帰ることだけを考えなくちゃ。」
私は、そう自分に言い聞かせて、自分の乗っていた車椅子を押して
大通り脇の道を歩き進んでいた。
目が見えるようになってすぐは真っ直ぐ立っているのがやっとだった。
今は、少しふらつく感じはあるが歩けるようにはなった。
目の前に大通りが見える。
私は自然と足取りが速くなっていった。
…
大通りについた春風ハルは少し顔をあげて見上げた。
目の前に、立ち並ぶ高いビル、数多くの看板・広告があった。
少し目を下げると、何台もの車が目の前を通り過ぎ、歩道には人波のごとく人が歩いていた。
春風ハルは、普段想像していたものが目に見えていた。
あまりのことに圧巻され、足が止まった。
それと同時にものすごい立ち眩みがした。
目が回るってこういうことなのかと春風ハルは身を持って体験した。
気分も悪くなってきた私は、車椅子に寄りかかるようにしゃがんだ。
今まで、封印されてきた脳に情報量が一気に入ってきた為、
春風ハルの脳は混乱していたに違いない。
春風ハルは、少し息を整えた。
そして再び立ち上がり前を向いた。
また、立ち眩みし始めた。
「こんなの無理…」
春風ハルは泣きそうになった。
目が見えることによってこんな副作用があるなんて思いもしなかった。
しかし、春風ハルは泣き言を言うわけにはいかなかった。
私は、子どもじゃない。
今、ある現実は受け入れて生きていかなければならない。
春風ハルはそう自分に言い聞かせ
目の前にある人波に入ろうと決意し、立ち上がった。




