[駅で会った女性]
[駅で会った女性]
僕「社長、私も少しお話してもよろしいでしょうか。」
社長「ああ、構わないよ。」
そう言って手に持っていたお茶をテーブルの上に置き、僕に目を向けた。
僕「最近の話ですが、一人の盲目の女性とお会いしました。
社長は「ほうっ」と言ったような顔つきで話に興味を持ち始めた。
僕「その女性とは駅の構内で出会いました。
きっかけは、その女性がちょっとしたきっかけで足を怪我してしまい、
私が少し手助けをしたことです。
その女性は、怪我をして、その際に手放してしまった白い補助棒がないにも関わらず、
焦らず冷静にその場を対応していました。
その後も、その街に土地勘のない私を丁寧に案内してくれました。
その様は、まるで目が見えているかのように感じました。
そして、食事がてら健常者の知人を紹介してくれ、仲を取り持ってくれました。
私がその時にいた女性は、食事をそつなくこなすだけでなく、
社交性もしっかりと兼ね備えとても素晴らしいと感じました。」
僕「その女性も、父親から大分厳しく育てられたと言っていました。
父親を嫌っている素振りは確かにありました。
しかし、彼女自身はまだ気づいていないかもしれませんが、
普段私たちがしていること社会生活に近いことを、
目が見ないというハンデを持ちながらこなすということは、
私にとって驚き以上のなにものでもありません。」
僕「その女性は、年を重ね、親元から手が離れてしまった時に、
必ず今まで自分が行ってきた行動の価値に気づき、
父親への感謝と尊敬の気持ちを持つことになると思います。」
…
僕は、今一度社長の目を見据えた。
僕「社長、これは私が言うべき立場ではないかもしれません。
ただ、これだけは確かに言えることがあります。
社長が娘さんに対してやってきたことは決して間違ったことではないと思います。
たぶん、それは今まで娘さんと接してきた皆が誰もが感じることではないでしょうか。」
僕は話し終えると、ふうと息を吐いた。
そして、僕は今言った言葉に気づき慌てて言葉を続けた。
僕「社長。申し訳ございません。でしゃばった真似をしまいました。」
社長は僕の顔を見てにっこり笑った。
社長「いや、別に構わんよ。
私も、君に言って少しはスッキリした。
他人からはそういう感じ方もあるのかと知って安心した。」
社長「それはそうと、うちの娘に似た境遇の女性もおるもんだな。
是非、紹介してもらいたいもんだ。」
社長は顎に左手をやり、擦りながら言った。
…
社長「話は少しそれてしまったが、私はうちの商品はうちの娘と同じように思っておる。
何かあったらすぐに手のひら返されたらたまったもんじゃないからな。
大木君、そのことを肝に銘じておくように。」
社長はニヤと笑みを浮かべ、僕に挑戦を吹っかけてきた。
僕はと言うと、少し熱くなって語ったことに冷やりとしたが、
結果的に社長の心の内が覗けたことに大きな収穫を得たと感じた。
社長「さて、本当にうちの娘はどこほっつき歩いているんだ。まったく、親の気も知らんで…」
社長は一ボヤキ入れた。
その後の商談は、娘さんの話を中心に世間話といった感じで進んで行くのであった。




