[社長の娘]
[社長の娘]
社長は、僕の目をじっと見据え、それから出された茶を手に取った。
社長「君もお茶を飲みたまえ、我が社の淹れたての茶はおいしいぞ。」
そう言って、今までとは違ったやさしい笑顔を見せた。
僕は、いただきますと言って一口飲んだ。
社長の言う通り、そこらへんの安いお茶ではないくらいのことは僕でもわかった。
僕「本当においしいですね。」
社長は、そうだろうって言うような笑顔で応えた。
社長「大木君と言ったな。君はめずらしいな。
特に、商社として強気な態度を見せることなく、だからと言って媚びてくる様子もない。
自分の意思をしっかりもっている。
初めて見た顔だと思ったからどんな奴かと思ったが、君の会社の人材の選択はよかった。
私という人物を少しは理解しているようだね。」
僕は、素直にお礼を述べた。
…
少し間があってから社長から口を開いた。
社長「ちょっと長くなるが娘の話をしていいかね。」
僕「はい。もちろんです。」
社長「うちの娘は、実は目が見えんのだ。
小さいときから弱視でな、小学校に入る頃にはもう完全に失明してしまった。
私の妻も、病でその頃に亡くなってしまった…。
私は、娘を一人でなんとか今まで育ててきた。
ただ、世間はそう甘くない。学校にいけば目を理由にいじめられることもあった。
国は、障害者に対してそれなりの制度を設けて力になっていると言うが、
実際にはそんなものは微々たるもので、障害者に対する、ハードの面、
ましてやソフトの面では全くもって足りていない。
私は、残念ながら娘よりは長くは生きていけない。
だから私は、娘が私がいなくなっても生きていけるように必死に育ててきた。
…まあ、娘にとっては口うるさくて面倒な親父だと思っているだろうが。」
社長は、少し寂しそうな顔をした。
社長「それで、娘が今後の生活の中で苦しむことが少なくなるのならば、私は娘に嫌われても構わない。」
社長「娘は今、私の会社で私の秘書として働かせている。
親ばかだと思われるかもしれないが、やはり心配でな。
娘は、私の元を離れて一人でやっていくと言っているのだが、
小さい時から娘が受けてきた仕打ちを考えると許可できんかった。」
社長「私は娘の意思を酌むことをせず、半ば強制的に私の会社に入社させた。」
社長「もちろんそのことについて…娘のことを社内でよく思っていない者もいることも知っている。
それによって娘も苦しんでいることも…」
社長「私は間違っていたのかもしれないな…」
そこまで話すと、ため息を付きまたお茶に手を伸ばした。




