[好意]
[好意]
残された僕と前田雫。
前田雫は涙を拭きながら、幾分よくなった顔色で僕のところに寄ってきた。
「大木主任。この度は本当に申し訳ございません。」
僕はすかさず
「こっちこそ悪かったね。こんな大事になるとは思わなかったよ。
一体どんな感じで僕の特異体質について伝わっているのか心配になるよ」
「アルコールなんて何年ぶりに口にしたのだろう。思ったより気分いいよ。」
と笑いながら言った。
すると前田雫は急に真顔になって言った
「実は、私も主任の体質は知っていました。
ただ、もっと主任と話せるきっかけがほしくて…」
そう呟くと、耳まで赤くなり目をそむけ、顔を隠すようにウーロン茶を飲んだ。
彼女は、先ほどの一件の罰で今日はアルコール厳禁らしい。
僕はその言葉を聞いて
「そうなんだ。別に逃げやしないけどね…」
照れ笑いしながら頭をかいた。
彼女と楽しい一時を過ごしていると祝賀会はお開きの時間となった。
幹事の部下が簡単な挨拶した後、二次会の説明があった。
「主任は二次会どうしますか?」
「僕はやめておくよ。ちょっと飲んだ自分の体調も怖いしね。まっすぐ家に帰ることにする。」
「…そうですか。何かすいません。私のせいで。」
「こういう席は苦手だし。飲んでないとしても二次会以降はほとんど参加してからね。」
前田雫は、少し考え
「主任。私家まで付き添いましょうか?」
「いやいや。いいよ。そもそも時間も時間だし。来たら帰る時間がなくなるから。」
「私は、帰れなくてもいいですけど…」
また顔赤らめて、うつむいてしまった。
いい雰囲気の中、酔っ払って上機嫌の後輩達がやってきた。
「大木主任。前田。二次会行きましょう!」
「カラオケっす!明日は休みなので朝まで歌いますよ!」
「ありがたいけど、僕はちょっと遠慮しておくよ。体調悪くしたら迷惑かけるしな。」
「前田君。君は行ってきなさい。
普段接することが少ない先輩達と付き合うのも今後の糧になると思うよ。」
前田雫は、残念そうに肩を落とし。
観念したかのように愛想笑いを浮かべ
「行きます。私の美声で今日の失態を取り返す!」
拳を上に突き上げ元気よく答えた。
少し、彼らと話しをし
「では大木先輩気をつけて。私たちはもう少し遊んで帰ります。」
「おう。あんまり後輩たちを連れまわすなよ。」
笑いながら手を振り会場を後にした。
「とことん俺はいくじなしだな。」
吐くようにそう呟き、足早に駅に向かった。
これから起きることが人生の大きな分岐になるとは彼は知る由もなかった。