[目が見える]
[目が見える]
春風ハルは数を数えている。
私を助けてくれた男、そして男として気になり始めている大木強志を探すために。
春風ハル「…56、57、58、59、60」
春風ハル「60数えましたよ~。じゃあ探します。」
春風ハルは耳を研ぎ澄まし、発する音に集中した。
公園を通り抜ける風の音。
その風でなびく木々の音。
遠い町並みから聞こえてくるクラクションの音。
数十秒集中したが、春風ハルは人の気配を感じることができなかった。
春風ハル「大木さん。います?手ごわいですね。」
彼女は少し笑いながらもう一度耳を澄ました。
…
やはり、人の気配を感じ取ることはできなかった。
春風ハルは、観念し負けを認めようとした。
春風ハル「大木さん私の負けです。大木さんの影の薄さには勝てませんでした。」
春風ハルは、そう言えば大木さんが出てきてくれると思っていた。
しかし、誰も自分に近づいてくる気配はなかった。
春風ハルは大きい声で言った。
春風ハル「大木さん!私の負けです。出てきてください。」
春風ハルは、少し焦った。
自分は今、一人では何もできなかったからだ。
春風ハルは、大木さんの姿を探そうと
車椅子に手をかけたとき信じられないことが起きた。
闇の世界しか知らない私の視界に何か見えはじめたのだ。
春風ハルは、状況が掴めず少しパニック状態になった。
目の前に自分の足が見える。
手を顔の前に出すと自分の手が見える。
顔を上げた。
目の前には、公園から一望できる街並の風景が見える。
春風ハル「す、すごい。綺麗。」
春風ハルは、車椅子に寄りかかり景色に見とれていた。
…
空を見上げた。
少し、目に入る太陽が眩しかった。
眩しいってこんな感覚なんだ。
春風ハルは目に入る一つ一つの情報に感激していた。
目が少し慣れると、そこには雲ひとつない綺麗な空が広がっていた。
大木さんが言った通りの快晴だ。
そう思った時、春風ハルは我に帰った。
春風ハル「大木さん。大木さんはどこなの。
大木さんが私の目を治してくれたの?」
夢中になって車椅子を立ち上がった。
その勢いで前のめりになり、車椅子から数歩前によろけて転んでしまった。
春風ハル「きゃあ。
車椅子のこと忘れていた。足大丈夫かな。」
目の前に入ってくる情報一つ一つが全て新しいことと、今まで、感覚で物事を捉え行動していたのと違い目から受け入れた情報で動くことには慣れていない為、バランスがうまく取れないのだ。
その中でも、怪我した足は気になった。
マスターが処置してくれた包帯が目に入った。
患部を手で車椅子に戻ろうと数歩歩いた時に違和感を感じた。
春風ハル「あ、あれ。足に痛みを感じない。」
春風ハルは、車椅子に戻り座ったが、もう一度立って恐る恐る立って歩いてみた。
春風ハル「やっぱり痛くない。」
春風ハルは、もう一度車椅子に戻り、深呼吸した。
自分は何か夢をみているのかもしれないと思った。
試しに自分の顔を何度か両手で強めに叩いた。
春風ハル「い、痛い…夢じゃないのよね…」
春風ハルは、自分で叩いて真っ赤になった頬をさすりながら呟いた。




