[帰り際]
[帰り際]
帰り際、会計をしようと春風ハルがマスターに声を掛けた。
春風ハル「マスターご馳走様でした。やっぱり私払います。こんなにおいいしいものを食べさせてもらってお金を払わないわけにはなりません。」
僕もその言葉に納得して、思わず頷いた。
しかし、マスターは足払うように首を振り僕らに言った。
マスター「ハルちゃん今日はいいんだよ。その気持ちだけでも受け取っておくよ。
そんなにお金を払いたいなら、またその彼氏と一緒に来な。」
春風ハルは、慌てたようにマスターに言葉を返した。
春風ハル「マスター大木さんは彼氏じゃないです。大木さんに失礼じゃないですか。」
そんなにイヤではない様子に、マスターと洋子さんは暖かく笑った。
マスター「ハルちゃん、自分にはわかってないかもしれないけど、十分魅力的な女性だぞ。
そうやって自分で壁をつくっては駄目だって言ったろう。そうすりゃあ、男の一人や二人簡単にできるぞ。」
マスターが言い切らないうちに春風ハルは、顔を赤くして言い返した。
春風ハル「マスターもういいです。その話は…もうお手洗いお借りします。」
そう言って彼女はトイレに向かおうとした。
洋子さんは手馴れたようにすぐに春風ハルに付き添って行った。
春風ハルは、洋子さんにお礼を言いながら逃げるように行ってしまった。
マスターと二人きりになった僕は、とりあえず食事のお礼を言った。
とてもおいしかったことと、ハルさんが良ければまた来たいことを伝えた。
マスターは、真剣な顔つきで話してきた。
マスター「食事の件はもういいよ。
俺は何よりハルちゃんが男を連れてきたことにびっくりしたし、うれしかった。
彼女はああいう性格なんでね、自分がハンディを持っていることを負い目にして、
積極的に人と話すことはしないんだ。特に男に対してはそうなんだ。
俺は、目が見えるからなこう簡単に言っているが、ハルちゃんは本人は本当に大変なことであって、それが彼女にそうさせているのだからそれを言う資格はないんだがね。
大木君だっけな、君は彼女はいるのかね?」
僕は首を振った。
マスター「ははは、そうか。君も少しハルちゃんと同じにおいがするな。」
マスターは少し微笑んで言った。
僕は、そんなことを言われたが、特に嫌味には感じなかった。
マスター「気を悪くしたらすまんな。これは俺の個人的なお願いなんだが聞いてくれるか。」
僕は頷いた。
マスター「別にハルちゃんと男女の仲になってほしいとは言わない。
これからも、ハルちゃんと付き合って言ってくれないか。君になら俺もなぜか安心できる。
たぶん、ハルちゃんは君と接していくうちに何か変わるきっかけをつくれるかもしれない。
今日のハルちゃんの様子を見ていると、
あの子にも何か生きがいが見つけられるかもしれないと感じたんだ。
…とは言ってもそんなに重く考えなくてもいい。
大木君にただハルちゃんの友達になってほしいということだ。どうかね。」
僕は少し考えた。
僕「ハルちゃんの友達になるのは構いません。ただそれをハルさんが望んでいるならですが…
あと、僕はそんなたいした人間じゃないですよ。そんなマスターの希望に添えるかわかりません。」
僕は、マスターの目を真っ直ぐ見ながら答えた。
マスターはそんな僕を見ながら笑った。
マスター「わははは。やっぱり俺が思っていた通りの奴だな。わははは。お前はたいした奴だよ。まあ、それがわかってなくても構わないがね。」
マスターは今日一番の大笑いをしていた。
僕は、意味がわからずただその大きな笑い声を聞いていた。
そこに春風ハルが戻ってきた。
春風ハル「何をそんなに笑っているのですか。何かおもしろいことでもあったのですか。」
マスターは春風ハルの頭をグリグリして言った。
マスター「わはは。なんでもねえよハルちゃん。ハルちゃん、いい男見つけてきたなあ。」
春風ハル「ちょっとマスター頭ぐちゃぐちゃにしないでくださいよ。
訳のわからないこといってるし、大木さんに失礼ですよ。」
マスター「ほう。そんなに大木君が気になるか。」
その返しに、春風ハルは少し頬を赤らめ、バシッとマスターを叩いて出口に向かって行ってしまった。
マスターはうれしそうに叩かれたお尻を撫でていた。
僕は、急いでハルさんの後を追いかけお店の出口に行った。
春風ハル「マスター、洋子さん今日はごちそうさまでした。また来ます。」
と言って頭を下げた。
僕もハルさんと同じように言った。
マスターと洋子さんがまた来いよと僕らに言った後、ドアを閉め店を後にした。




