[春風ハル]
[春風ハル]
春風ハルは少し落ち着いてきたようで、テーブル上を手探りし、メニューを取り
僕に手渡した。
春風ハル「ごめんね。急に泣いてしまって。ちょっと感極まっちゃった。お腹空いたよね。なんでも好きなものを注文して。」
僕はメニューを受け取って言った。
僕「ありがとう。マスターとお上さんいい人だね。」
春風ハル「うん。私を娘のように扱ってくれている。とは言っても会ったのは会社に入ってからだから、5年になるかな。」
春風ハル「ちなみに私は25歳です。」
頭を掻き笑いながら言った。
春風ハル「あ~ごめんね。注文は何する?」
ちょうどその時マスターが水を持ってやってきた。
マスター「ほらお水。」
僕は、どうも言って少し頭を下げた。
マスターは春風ハルの右手に少しコップを当てながら水を置いた。
春風ハル「ありがとう。」
マスター「メニューは俺に任せてもらっていいかな?その代わり、お代は俺がもつから。」
春風ハル「マスターいいですよ。私がおごるって大木さんに約束したのですから。」
マスター「今回は、ハルちゃんを助けてもらったし、さっきの俺が取った失礼な態度のお詫びだ。遠慮はいらない。」
春風ハル「もうマスターったら、そんなことしているとお店潰れちゃうよ。」
マスター「余計なお世話だ。」
そう言い、春風ハルの頭を軽くチョップをして立ち去っていった。
春風ハルは、うれしそうにチョップされた頭を自分で撫でた。
…
料理がくるまでに春風ハルと色々な話をした。
自分が、生まれながら弱視で小学生になる頃にはもう完全に見えなくなったこと。
目が見えないことで幾度となくいじめにあってきたこと。
幼い頃に母を亡くし、父一人で育ててくれたこと。
会社に入り、仕事も対人関係もうまくいかなかったこと。
マスターとの出会いのこと。
マスターとは会社や生活のことがいやになり、どうしようもなくなって公園にいたところに、
たまたまマスターとお上さんが散歩をしていて声を掛けてくれこと。
マスターのこと。
自分のハンディキャップを特別なこととは捉えず、ごく普通に接してくれたこと。
マスターにはよくおこられたって言ってた。
目が見えないことで自分を特別視し、自ら塀を作るんじゃないってさ。
でもね、そんな私に一番甘いのがマスターだってお上さんが言ってた。
春風ハルは、うれしそうに、そして懐かしそうに話をした。
そして、小さくこう呟いた。
春風ハル「ああ、マスターとお上さんの顔をみたいなあ」
僕はその言葉を聞いて、自分の右手のひらを見た。
力になってやりたい。
僕はそう素直思った。




