[彼女の名前]
[彼女の名前]
彼女に肩を貸して歩いていると、向こうから駅員が車椅子を押しながら走ってきた。
駅員「お客様。申し訳ありません。怪我した女性がいるとの通報がありましたのが、
そちらの女性の方がそうでしょうか。」
僕「うん。そうだよ、少し足を捻ってしまったようです。」
駅員「そうですか。これをお使いください。」
そう言うと駅員は車椅子を僕と彼女の前に置いた。
駅員「これは駅のものですので、後でお返ししていただければ大丈夫です。」
僕は彼女に言った。
僕「一時的に車椅子をお借りしようか。これは後で、僕が返しておくから」
そういうと彼女は頷いた。
「いえ、返却は私の会社の者にさせますから。それでは少し間お借りします。ありがとうございます。」
駅員「いえ、こちらも申し訳ございませんでした。それでは失礼いたします。」
深々と頭を下げて去って行った。
彼女を、車椅子に乗せ、駅員に教えられたエレベーターに向かって歩き出した。
…
…
女性「私の名前は春風ハルと言います。あなたの名前教えてもらってもいいですか。」
僕「僕は、大木強志です。」
僕「春風ハルっていい名前ですね。なんかほんわかした感じで。」
春風ハル「ハルでいいです。あたなこそ、とても強そうな名前でいいですよ。」
僕「僕は完全に名前負けしているですけどね。多分、見たらびっくりしますよ。」
春風ハル「…」
僕は、ハッとした。彼女には言ってはいけないことを言ってしまった。
僕「ハルさん。ごめんなさい。その悪気があったわけでなくて…」
春風ハル「わかっているわ。あ~見たかったなあ。大木強志を。」
少し笑いながら言った。
春風ハル「私はどう?名前負けしてます?」
僕「いや、もうその名前の通り。なんか暖かい感じがしますね。」
春風ハル「そう。よく言われるけど実際はそうでもないです。大木さんと似た者同士です。
小さいことですぐに落ち込んでしまうし、しかもそれを長く引きずってしまいます。」
僕「そうなんですか。そういう時もありますよ。今はそんな風には全然見えませんよ。」
春風ハル「今日はですよ。今日は…いいことありましたから。」
春風ハルは、そう言った自分に少し恥ずかしくなってうつむいた。
…
春風ハルに道案内され、改札口を出た。
春風ハル「駅の近くにすごくおいしくてお気に入りのお店があるんです。そこでもいいですか。」
僕はもちろんと答えた。
彼女は、その後もまるで目が見えているかのように周りの景色や建物を目印としてお店の場所を案内してくれた。
僕は驚いた。
これだけの情報量を目が見えないのにどうやって把握しているのか不思議でたまらなかった。
春風ハル「黄色看板のカレー屋さんがありますね?そこの細い路地を右に曲がったところにあるボーノっていうお店がそうです。」




