[意識回復]
[意識回復]
病室に入ると、担当医師がご両親と話をしていた。
僕は、話の邪魔をしないように入り口の扉の側で見守ることにした。
会話が少し耳に入ってくる。
どうやら、今後の経過診察について話をしているようだ。
僕は、話が終えたらそろそろ失礼しようかと考えていた。
奥のベッドで眠っている脇にはたけし君が座っていた。
先にたけし君に挨拶しようと近づいた。
「たけし君!ちさとちゃんが無事でよかったね。」
たけし君は、僕を見てにっこりと笑った。
「うん。だけど、ちさとはいつ目を覚ますのかな。早く遊びたいな。」
「身体には異常はないっていっていたから早いうちに目を覚ますじゃないかな。」
僕がそう答えるとたけし君はちさとちゃんの寝ている布団に前から倒れこんだ。
「あーちさと。にいちゃんは暇だぞ。早くは遊ぼうぜ。」
駄々をこねているように頭を布団にぐりぐりした。
僕は軽く笑った。
「たけし君。僕はちさとちゃんが無事だったし、たけし君のお父さんお母さんに挨拶したら帰ることにするね。
「また会えるの?」
たけし君は寂しそうに言った。
僕は、もう会うことはないだろうなと思いながらもたけし君に言った。
「そうだね。家もお互いそんなに遠いわけじゃないから、また会えると思うよ。」
「じゃあ次に会った時は、ちさとと一緒に遊ぼう。約束だよ!」
僕はやさしく頷いた。
…
ご両親が医師との話を終えて、ちさとちゃんのベッドに近づいてきた。
僕は軽く頭を下げた。
「ちさとちゃんがご無事で良かったですね。」
「はい。色々とお世話になりありがとうございました。」
父親が言った。
「ご家族のお邪魔になってはと思いますので、僕はそろそろ失礼したいと思います。」
「何かお礼をしたいのでお名前とご連絡先を教えてもらえませんか。」
「あっ!申し遅れました。私は「大木強志」といいます。」
「お礼は特にいいです。僕は特に何もしていませんから。」
すると母親が言った。
「そんなことはないです。ちさともたけしもあなたがいなかったら、もっとつらい思いをしたと思います。せめてお礼だけでもさせてください。」
母親は食い下がらなかった。
僕は、少し迷いこう提案した。
「先ほど、たけし君と約束したのです。もしも、ちさとちゃんが元気になって
会うことができたら一緒に遊ぼうって。ですから、もし何かの縁でもう一度会えたら
一度たけし君とちさとちゃんと遊ばせてもらってもよろしいでしょうか。」
隣にいるたけし君をチラッと見ると、うれしそうに微笑んでいる。
ご両親はお互い顔を合わせ、仕方がないと頷いた。
「そこまでおっしゃるならそれで構いません。
今度是非二人の遊び相手になってやってください。よろしくお願いします。」
父親が言った。
母親が続けて
「うちの子供たちと遊ぶのは体力と根性がいりますよ。覚悟していてくださいね。」
と笑って言った。
「覚悟しておきます。」
僕は笑いながら答えた。
僕はそれではと言い、その場を後にしようと背を向けた。
すると、突然ちさとちゃんが上半身だけ起こして起きた。
「!?」
背をむけた僕以外は驚きのあまり何も言えず固まってしまった。
ちさとちゃんは寝起きとは思えないほどパッチリとした目で僕の背中を見据えた。
僕は気づかない。
ご両親、たけし君は動けない。
ちさとちゃんは僕に向かって声を掛けた。
「おにいさん!」
僕はその声にびっくりして振り返る。
そこには上半身を起こし、しっかりとした目で僕を見ているちさとちゃんがいた。
僕は驚きのあまり声がでなかった。
ちさとちゃんは、そんな僕に構わず話を続けた。
「おにいさん。ちさとを助けてくれてありがとう。
ちさとはおにいさんの名前は知らない。
…
ちさとは痛かった。
怖かった。
死ぬのかなと思った。
でも、おにいさんが暖かいやさしい手でちさとを包んでくれた。
すごく気持ちよかった。」
僕に向かってしゃべり終わった後、ちさとちゃんは隣にいるおとうさん、おかあさん、そしてたけし君に顔を向けた。
「おとうさん。おかあさん。ちさとは元気だから。心配かけてごめんなさい。」
「おにいちゃん。おにいちゃんの分のおかし、ちさとにちょうだいね。」
少し悪い笑みを浮かべて言った。
それだけしゃべり終わると、ちさとちゃんは後ろに倒れてしまった。
…
時が止まってしまったかのような僕たちは我に帰った。
ちさとちゃんは瞼を閉じて、また眠ってしまっているように見える。
母親は、ちさとちゃんの名前を呼び続けた。
ちさとちゃんは反応しない。
父親は急いで医師を呼んでくると駆け出していった。
たけし君は呆然とちさとちゃんを見続けていた。
僕は、慌ただしくなってきた病室から知らぬ間に出ていた。
後ろから、色々な人達の大きな声が聞こえる。
しかし、僕はもう引き返さなかった。
僕は病院から出た。
もう辺りは真っ暗だった。
顔を上げると丸く綺麗な月が目の前にあった。
ちさとちゃんが最後に言った言葉で
僕は自分にある力に確信を持たざるを得なかった。
月を見上げながら僕は両手を握り締めた。




