[力の正体]
[力の正体]
医者が、僕の目をじっと見たまま、顔を遠ざけ後ろの座席に座った。
「僕はわからない…。」
「何も知らない…。」
自分の手を見ながら言った。
視線を医者に移した。
「僕がやったことなのか?」
「僕はただ助かってほしいと念じただけだ。」
「特別なことはしていない。」
そして、震えた声で言った
「僕は、普通の人間だ…。」
医者から視線をずらし、目を伏せた。
医者は、僕の言動やわずかに震えている足の様を見据えた。
運転手の救急隊員が後ろに声を掛けた。
「病院に着きます。準備お願いします。」
「おう」
医者は短く答えた。
すぐに、運び出せるように準備を始めた。
タンカへの体の固定際、再びちさとちゃんの状態を確認していった。
…だいぶ良くなっている。
完治といっても過言ではない。
たぶん、病院についても精密検査してすぐに退院できるだろう。
医者はそう思うと共に、この現実にまた驚いた。
そして、大木に目線を移した。
大木の横に座り、肩を軽く叩いた。
大木はびくっとし、顔をこちらに向けた。
「俺は、一宮仁だ!」
と名刺を大木に渡した。
「気がむいたら俺に連絡してくれ」
「話がしたい。何か助けになるかもしれない。」
僕は名刺を恐る恐る受け取った。
返事はしなかった。
間もなく救急車の扉が開いた。
数名の医師と看護師が待機していた。
ちさとちゃんがストレッチャーに移された。
「俺は医者だ、状況を説明する。とりあえずICUに頼む。」
他の医者と共に歩きだした。
ちさとちゃんの状態は搬送中に病院に伝えられている。
だから、あれほどの人数の医者と看護師が待機していた。
伝えられた状態と今の状態とあまりに食い違う。
ちさとちゃんが良くなったのはうれしい。
それ以上に怖い。
僕は先行く一宮仁を心配そうに眺めていた。
それを察したのかどうかはわからないが一宮仁が急に振り返り止った。
僕は急に振り返ったのでびっくりした。
「おい、大木。たけし君を頼むぞ。」
「親御さんがもうすぐ到着すると思うから一緒にいてやってくれ。」
そう言われたとき、たけし君が僕の手を握って横に立っていた。
僕は、さっきの一件からたけし君の存在を忘れてしまっていた。
一宮仁がたけし君に向かって言った。
「たけし君!ちさとちゃんは大丈夫だ!安心して待っていな。」
その言葉を聞いてたけし君は満面の笑顔になった。
「おじちゃん本当!また、ちさとと遊べるの?」
「ああ!もちろんだ!」
そう答えた一宮仁は、目線を僕に向けた。
「大木!まかせておけ!」
そう言ってお世辞にも綺麗と言えない顔でウインクした。
僕は、何か安心した気持ちになり
少し苦笑いし首をたてに振った。
近くにいた看護師に、付き添いの方とお子さんはこちらでお待ちくださいと
行き先を促されたので二人で軽い足取りで歩き出した。




