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入廷

 

 そろそろ時間ね、と女がつぶやいた。


「立ちなさい。裁判がはじまるわ」


「はじまるって……どこで……うお!?」


 僕の正面に扉が出現した。両開きの扉だ。

 突然のことに声がでない。


「どうなってんだよ……」


「説明しません。どうせあなたたちの文明レベルでは理解できないでしょうから」


 笑みを浮かべていう。いちいち(しゃく)(さわ)る女だ。


 ともあれ、僕は女に促されて、扉の真ん前に立った。


 僕の背丈の2倍ほどはある巨大な扉。

 威圧するようにそびえ立っている。


「被告人、入廷――」


 扉の向こうから声が響いた。

 不思議と扉に邪魔されることなく、僕の鼓膜を揺らした。


「扉に触れて」


 女の苛ついた声。

 いや、ケンケンされても、段取りとかいっさい聞いていないけど。


 文句をいっても無駄そうなので、言われたとおりにする。

 重量などはじめからないように、両開きの扉が静かに開く。


 爆弾が僕を襲った。

 いや、比喩である。それくらいびっくりしたのだ。


 ()()()()――。

 突風が吹きつきるように僕の顔面に突き刺さる。


 僕の常識にある裁判とはまったく異なる光景が眼前には広がっていた。


 喧噪、喧噪、喧噪――。

 叫ぶ声。怒鳴(どな)る声。鳴く声。

 そのすべてがどうやら僕に向けられているようだった。


 いくつか人間のものとは思えない、うなり声や動物的な悲鳴が混じっている。


「はやく行って」


 女が急かす。


「ええ……だって、なんかものすごいやじられてますよ」


「いつものことだから」


「いつものことなんですか。ならば、止めてくださいよ」


「嫌よ」


「職務怠慢ですね」


「なんとでもいうがいいわ」


 女はいっこうに取り合わない。

 あろうことか、首だけではやく法廷に入室するように促す始末だ。

 態度がわるすぎるだろ。なんか恨みでもあんのか。


 諦めて、扉の向こうに足を踏み出す。


 喧噪が僕の全身を包み込む。

 音に圧迫される、というはじめての感覚に目眩を覚えた。


 いつの間にか背後には真っ黒なスーツ姿の刑務官らしき男が2名。

 僕の背後をがっちりと固めていた。


 裁判所の全景はテレビで見たことあるものと大きく違わなかった。

 正面の高い位置に裁判官と陪審員らしき者たちが数名。

 横一列に並び、陪審員たちが僕に好奇の視線を注ぐ。


 少し下がったところに人間――おそらく裁判所書記官というやつだろう。

 そんな役回りがあることを、テレビのドキュメンタリーで見たことがある。

 打って変わって、無表情でこちらを眺めていた。


 両側にはおそらく検察官と裁判官のブースだろう。

 真剣な面持ちで開廷されるのを待っている。


 さて、ここまではふつうの裁判所とはなにも変わらない。

 しかし、僕は先ほど『陪審員らしき()』と言った。


 人、とはひと言もいっていない。

 彼らの中の何名かは()()ではなかった。


 そして、先ほどの騒音の正体。


 裁判所には傍聴人席がある。一般国民が裁判を見物する席だ。

 ふつう、法廷の最後部に置かれている。

 しかし、この法廷ではそこに傍聴人席が置かれていなかった。


 上方から裁判所を取り囲むように――見下ろすように。

 そう、それはまるでコロッセオで剣闘士たちの死闘を見物するローマ人のよう。


 ゲームのRPGなどで見たことがある――オークであり、エルフであり、獣人であった。

 彼らが僕に怒声を口々に怒声を浴びせかけていたのだ。


「僕の知ってる裁判じゃねえ」

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