表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の大事な人  作者: ミラクルマーム
9/9

第九話

味噌汁とご飯、それに梅干し

慣れた手つきで、椀に盛る。


富美が慌てて帰ってから、

加瀬とは顔も見ない日が続いている。


淡々と自分に課した事柄をこなし、一人で過ごす。


初めて本土に爆撃を受けた夜から、幼いながら

いつでも逃げられるように就寝時には着衣のままが当然になっていたし

平和ではない日が続いている。

それが、祐一にとっては日常だ。


今更、寂しいとか… そういったことなど言えはしない。


あれほど会いたいと思った加瀬だった。

それが奇しくも同居することになり、

加瀬と言う人物を、もっと知ることが出来ると思った。

だが、現実はスレ違いの生活で、何一つ知ることは出来ていない。


祐一に分かったことは、

並んでいる文学全集や、時折会う時に話した少ない会話から

加瀬が、情報精通には幼い頃の読書が役に立っている

と考えている事。

結構洒落者で、服や身の回りの品にこだわっていてそれぞれにお気に入りがあり

軍服に至っては、特注であるということ。

話の進め方に特徴があり、結論を先にいう事。

そしてこちらの反応を見て、

理由を説明する必要があるか…否かを判断すること。


これは

軍に身を置く加瀬にとっては、いちいち部下に説明をするわけではないので、

恐らく、祐一の事を保護する立場である現状に沿って

加瀬なりに気を使っているのだと祐一は、思っている。


頭脳明晰な人間の特徴であろうが

総じて、加瀬は、判断が素早く瞬時に場の空気を読む。

その上、自身の意図する所へ誘導する術を心得ている。

そういった加瀬のぶれない論理的な能力は、

今いる部署で遺憾なく発揮されるのだろう。

だが

祐一が知りたいと思うことは、杳として掴めない。


影に隠された加瀬の生身の感情や心情…


これは加瀬にはないもののように祐一には、かけらも見せない。


まぁ…それは当たり前だろう。

父と知り合いだと言うだけで、

祐一を引き受けることになった加瀬の立場から見れば

そこまで開襟を開く謂れなどない。

ましてや、年の差もあるのだ。

対等に話せるはずもない。



祐一は、父のことに思いを及ばせた。


手紙に、短く書かれていたのは


「生きることを考えろ」


だった。


祐一が父に対し、恥じるような気持ちでいた事を父は察しており

言葉には出さないまでも、陸幼断念する事に至ったことを

誠に残念だったとは思うが、父は内心ホッとしていた。

そう書かれていたのだ。


何事にも始まりがあれば、終りがある。

いずれ、戦争は終わる時が来る。

そうなった時、国は人を求める。

その時お国のために働くのは、

お前たち、昭和生まれなんだ。


コレまでの男たちがしてきたように

妻、母、祖母を支える男が必要だということを

旨に、日々研鑽をつむのだ。

死に急ぐことばかりが、国の役に立つわけではない。


これから死出の旅へ行こうとする父からの言葉だと思うと、涙しかなかった。


明治二十七年生まれ

日本は正にこの年、清国に対し朝鮮の独立を確保するために戦うことを宣言し

日清戦争を始めている。

光佑は、生まれたての明治新政府のちょうど中間地点とも言うべき時に生まれ、

それから大正という一時代を経て、昭和を生き

激動の中にあってこそ、細やかでいて、豪胆さを失わず

ブレずに俯瞰する力を持たなければいけなかった明治の男の典型だった。


戦争まみれの昭和に生まれた自分は、どう生きるべきなのか……



昨日の仏飯に上げたご飯を、重湯寸前の芋粥にした膳を前に

祐一は、しっかりと手を合わせた。


「頂きます」



ぼ~っと粥を見つめたっきり箸を取る気もおきず…

祐一は、動かなかった。



その時

音もなく障子が開き、加瀬が突然姿を表した。



「間に合ったな」


驚いて目をやった祐一に、加瀬が安堵したように呟いた。


昨晩は帰らずじまいだった加瀬が、戻ってきたのだ。



春らしい日差しがそろそろ顔見せる時間

久しぶりの二人の朝ごはんになる… 


頬が、嬉しさに上気するのが、分かった。



「今、御膳用意します」



「いや。これがある」


差し出した風呂敷づつみを、渡された。


「お裾分けだ」


怪訝に顔を覗き込むと


「富美さんが、実家に帰ると言ってきた」


「じゃぁ、やっぱりおめでただったんですね」


「そのようだ。

旦那さんの出征が決まり、

ここで一人頑張るよりも、実家に戻って出産と言う事に話が決まったそうだ

こっちは、食糧事情もあるし…な」


「広島でしたよね?」


「そうらしい。

戻ったら、スグに手紙を書くと言ってたから

お前からも、何か言ってやるといい」


「はい」


赤飯とは名ばかりの小豆ともち米ちょっぴりに白米、麦それに芋まで入っている節米料理である。


「隣保組の奥さん方が、作ってくれたそうだ」



お目出度いはずの赤飯を、富美さんはしっかり食べたのだろうか…


祐一は優しかった富美の姿が浮かび

複雑な思いで、胸がいっぱいになる。


「男だったら、お父さんの名前の一字を取って…

でも、私は女の子だといいなって思ってるの」


「料理上手で、お裁縫も上手で、なんでも出来る富美さん似の女の子ですか?」


「あら、坊っちゃん」


そう言って小さなエクボを浮かべて笑っていた富美さん。

今の時代、田舎でも食料は不足していると聞いている。


ざわざわと、祐一の周辺も人が入れ替わり毎日様相が変化している。



「…… だから…」



祐一も入学式の日が迫っている……



「おい… お~~~い」


慌てて顔をあげると


「聞いてなかったようだな」


加瀬が祐一を、見つめていた。


「す すいません」


慌てたように居住まいをただし、箸を置いた。


「もう何度も言わんからな。大丈夫か

そんなことで、三年間耐えられるのか?

あそこに入ったら

ラッパで起き、ラッパで行動し、寝なきゃいけないんだぞ。

しっかりしてくれよ」


加瀬にしては、珍しく苛立った様子だった。

うなだれて頭を垂れる祐一を見つめ、

気を取り直したように、続けた。


「建武台(東京幼年学校の通称)が、引っ越し準備に入っている。

3月中には八王子郊外に移る。

今全校生徒上げて、戸山台から急ピッチで搬出作業中だ


この所空襲も頻度が増して、生徒の安全を期して言わば、疎開だ」



瀬戸口を通して学徒の集団疎開などは、見知ってはいたものの

これから自分が赴こうとする所は、敵から見たら標的になる場所であることに

気付かされ、いよいよ熾烈を極めていることを祐一に実感させた。


「一度、一緒に見学に行くか?」



「はい」


緊張した面持ちで、強く頷く。


「よし」


満足そうに頷くと加瀬は、その前に色々教えておいてやろうとばかり

幼年学校生活での心得話を始めたのだった。



ちょっとグダグダになっていますが、

宜しく願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ