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僕の大事な人  作者: ミラクルマーム
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第三話

祐一が小学の頃から始まったコメの配給制は、育ち盛りには辛い。

一日一人、二合五勺と言われた量は、元々下級武士が俸禄米を朝夕五合を食べたところから来たらしいが、一合150g(ご飯茶碗一杯程度)で考えれば、あながち少ない量とは言えない。

だが、これが20日も欠配が続けば、芋が多くなり、ゆるゆるの重湯状態になる。


そもそも江戸時代、農民は一日一升食べていたと言うから、いつも飢餓感を持っているのが通常だった。

だが、元々食の細い祐一にはその心配がなかった。

内心進まない食欲を、嬉しく思っていたくらいだった。


弱った体力を気力で押して…力尽き、病室という隔離された所で祐一が生活をしているうちに

そこら中の若者が姿を消え始め、老人と幼子ばかりになる…

学校でさえ、現に繰り上げと言われ一学期は半年で終わりを告げ、祐一はこの春卒業になる。


知らぬ間に確実に時は、祐一の周りのあらゆるものに、紛れ込んでいた。




陸軍幼年学校の入校募集要項は、中学教育相当の学力の十三歳から十五歳までである。

定員は五〇名だったのが、増員されていた。

まだギリギリ猶予が有る。

その範疇に、祐一はいた。


今からでも十分間に合う。

制服の襟についた金星のマークから「星の生徒」と呼ばれる。

その制服を…… お前は着るんだ。


祐一は病室で受験対策を再開し、漸く府立在籍のまま陸幼進学をもぎ取った。

それでも今、祐一は自分の人生の先を考えられない。

いつか自分もお国のため…と考えてしまうのだ。




その間ずっと祐一の力になってくれたのが、瀬戸口だった。

父光佑の里の瀬戸口家の遠縁になる瀬戸口は、一人っ子の祐一にとって兄と慕う人だった。

年は、祐一より十ほど、離れている。


祐一の幼い頃から、瀬戸口は家におり、常に祐一のそばで祐一を支え、

瀬戸口が師範学校を出ると、祐一の家庭教師となってくれていたのだ。



今年こそ胸を張って… あの制服を…

漸く見えてきた明かり


だが、そろそろ退院が許される頃になって、

来年の四月から無期限に授業停止になるという話で病棟内は、もちきりだった。




祐一は療養中にあっても、父親が軍人という事もあって、それなりに優遇されていた。

それでも医師は頻繁に入れ替わったし、看護師の数はいつも不足していた。


昨夜書いた履歴書を、脳内に広げて反芻する。

薄紙に、氏名、本籍、現住所、生年月日、それに現住所を丁寧に書き、

通知表を持参した。



これで、良かったんだろうか……

湧き上がる不安が、いくらでも胸をよぎり始めたらキリがない。


いつ終わるとも知れぬ戦いの日々の中、祐一は意を決してその門をくぐる。


微かな光……

あの人に近づける……


昭和一九年 春、それは祐一の新しい幕開けだった。




今回は、短めになりました。


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