表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしも、完璧世間知らず娘が現世に召喚されたら  作者: 神田優輝
漂流編 ~右も左も判らなかった件~
7/70

第05話 もっと、一緒に......

  7


「サンキューな、奢って貰って」

「なーに言ってんだ、付けだ付け!!金が揃ったら早く払い上がれ、この貧乏学生が!」

「んだと!」


 他愛もない会話を店の外で話す仁と望。

 そんな二人に和って入るようにアティラも望に面と向かって一言、彼に伝えたいという思いを乗せて呟いた。


「本当にありがとうございました。こんな美味しい食料は、本当に初めてで、上手く言葉には、できませんが、いろいろと暖かい気持ちを思い出しました」

「いえいえ、アティラちゃんの為ですから、いつでも来てね、君にだけだったら奢っても構わない」


 仁との何たる態度の格差。

 けれど、そんな理由も知らないアティラに取っては、なんとも頼もしい言葉なのだろう。

 今まで、苦労して取っていた食料もここに来れば、難なく美味しい食事ができる。


「是非、お願いします」


 彼女の笑顔に再度、心を打たれる望であった。


 辺りは暗く、既に日は沈みきっていた。

 二人で帰る道のりで、仁の内側ではとんでもない激情に駆られていた。


(女の子と二人っきりで帰るのって何年ぶりだ!あれは、確か小学生の頃だったか……)


 まだ男女の関係に疎い頃に一緒に帰っていた女友達も、時の流れで疎遠になってしまう。

 勿論例外もあろうが、大体の流れで、男は男と、女は女との友情関係が深まるばかり。

 故に、こうして男女が二人っきりになると、誰しもが浮かれて思ってしまう事はないだろうか?


(傍から見れば俺達って、つ、付き合っている風に見えるのだか)


 下心全開の思いに仁は、鼻の下を伸ばしながら目を閉じる。


《妄想》


 街明かりの綺麗な夜にジンの隣にアティラが歩く。

 腕と腕がくっつきそうな距離に街に歩いている人達の声耳に聞こえて来る。


「まあ、初々しいカップルですこと」

「これは、付き合い始めたばかりね、昔の私を思い出すわ」

「あんな可愛い()と付き合っているなんて羨ましすぎる!!」


 そんな声がアティラにも聞こえていたらしく、少し俯けながら小声で照れ臭そうに言う。


「何か恥かしいね、か、カップルなんて、ね……」


 最後の語尾を言うと同時に首を傾げ、赤く染まった頬を見ながら、仁は、アティラの手を繋ぐ。


「別に、構いませんよ。俺としては、その誤解が本当であれば良かったのに、と少し残念に思っていますから」

「……仁さん……」


 (ほう)けた顔で仁を真っ直ぐ見るアティラは、一段と可愛さが増しているように見える。


「仁さん、私で良ければ――」


《妄想終了》


「熊さん、もう~、熊さんったら。返事して下さい」


 妄想の世界でのみ()けるような台詞。

 我を取り戻した仁が再びアティラの顔を見ると、どうしても、さっきの妄想が頭に()ぎる。


(考えてみれば、あんな台詞絶対言えないよ、何処のホストだってんだ!!)

「どうかしましたか、アティラさん」


 顔に出ないように必死で恥かしさを堪えながら、アティラに問いかける仁。


「ですから、今度は、どんな場所に連れて行くんですか?」


 こんな夜遅く、本来なら駅に着いて、そこでお別れの筈なのに、彼女とまだ一緒にいたい気持ちが伝わったのかと錯覚してしまうような台詞を言うアティラに再び仁の妄想スイッチを入れる――


【どんな場所に――場所に――場所に――】


 脳内自動再生機能でアティラの言葉を聞き返しながら、再び激情が走る。

 妄想スイッチがオンになりそうになろうとしていた時、今日、一日中アティラと過ごした時間が再生する。

 そして、彼女の行動の不思議さ、ありえない発言を思い出し、彼女の言ってる言葉には、特別な意味がないと自覚する。

 スイッチの傾きが完全にオフモードに切り替わる。


「もう、夜も遅いですし、帰りましょうか?」


 これ以上の妄想をすれば何れ暴走しかねない。

 なら一層の事、ここで別れれば被害が彼女に及ばない。

 これは、自分に取ってのラッキーデーなのだから。

 彼女は、彼女の道を進むだけ。

 できるのであれば、またこうして、街案内でも――

 仁は、そんな別れと奇跡の再会を考えながら、最後にとアティラの顔に視線を向けた。

 しかし、彼女の表情には、切なさと悲しさが写っていた。

 アティラは、そっと仁の服に手を握り、涙目で口を開けた。


「もっと、一緒にいても、駄目?」


 そんな彼女の言葉を聞いた仁は、雷でも打たれたかのような驚愕を味わっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ