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もしも、完璧世間知らず娘が現世に召喚されたら  作者: 神田優輝
異世界転移編 ~熊さん、異世界体験譚~
68/70

~熊野仁側~ 第8話 面影

 65


《回想》


「リリー、貴方の思うままにやればいい……」


 優しく頬を撫でるレイラの手は、どこまでも温かく、切ない気持ちを湧き立たせていた。


「レイラ、私は……」

「幾多の困難に当たり、何度も挫けそうになろうとも、貴方ならきっと大丈夫」


 別れ際の最後の言葉のように、リリオーネはレイラの言葉をしっかりと胸の中に刻む。

 風で周りにいる木の葉が揺らぎ音を奏でる。

 レイラは、リリオーネが腕の中で抱える豹を眺め、微笑む。


「その子を見捨てられないのだろう」

「だから、一緒に連れて――」

「さっきも言ったけど、それはできない。私達の旅の先には、この子が住む環境とは全く異なる。返って体調を悪化してしまう」


 リリオーネとレイラの旅の最中で、重傷の豹の子供を見つけた。

 放ってはおけないとリリオーネは、すぐさま豹の子に手当を施す。

 レイラの操る、植物で何とか危機を回避できたものの、仲間とはぐれた豹の子の生存率は絶望的だ。

 豹の子を助けるために、リリオーネはレイラに一緒に同行するように提案したが、レイラはそれを良しとはしなかった。


「……じゃあ、この子が治って、仲間を探すまで一緒にいられないのか?!」

「リリー……」


 ならば、一層のこと豹の仲間と再会させるまで一緒にいようと提案する。

 レイラは、しばらくの間沈黙し、歯を食いしばる。


「貴方の、誰かを助けたい気持ちはとても大切な感情だ。それを妨げることは、私とてやりたくないが……貴方の提案には賛同できない」

「どうして?!」


 納得のいかない様子のリリオーネは、ひどく反発する。


「詳しいことは言えないけれど、私は次の目的を果たすために一刻でも早くこの先に行かねばならない……だから――許して」


 リリオーネは、目を擦り付けて、キリッとまっすぐレイラの両眼(りょうめ)を見る。


「レイラ、私――決めたわ」


 レイラは、リリオーネの目を見た瞬間に悟る。


「私は、この子が生きるだけの力が付くまで傍にいるわ!」

「……そっか……それが、貴方の答えなら、私は何も言うことはない……少し名残惜しいんだがな――」


 レイラはリリオーネから少し離れて、ちょうど太陽がレイラの顔を影で隠す。

 リリオーネは、きょとんとした顔で首を傾げ、何か胸騒ぎを感じ取る。


「リリー、ここでお別れだ」

「ッ――!!」


 覚悟はしていた。

 その胸騒ぎの正体を知りながらも、いざ直接耳で聞くと思いがけない重みをズシンと身体にのしかかる。

 リリオーネの胸を握りしめる何かに気づき、顔を下げる。

 そこに荒々しい息遣いの子供の豹が持てる力の全部を手に込め、だがそれも足りずに爪だけでリリオーネの服を引っ張る。


「ダメなの……離れないで、そばにいて……」


 リリオーネにしか聞こえない豹の子の声は、自分に向けられた言葉ではないことに気づく。

 動物は、人以上に感情が伝わりやすい。

 リリオーネがレイラから別れると聞かされた瞬間に溢れ出した悲しい感情が豹の子が感じ取り、ひたすら必死でレイラに目掛けて離れないように呼び掛ける。


 自然と込み上げるリリオーネの涙。

 彼女の中に彼女の決意がより強く固められる。


「いいんだ……私が決めたのだから、君は休んでて……ありがとうね、私を心配してくれて」


 それを聞いた豹の子は、安心したのかパタリと鳴き止み、瞼を閉じて眠りに落ちた。


 ――長い時を過ごし、そして、旅立ちの(とき)(きた)る。止まっていた時間が次第と動き出し、気づけば後ろには、辿ってきた道がくっきりと跡を残す。迷いも苦悩も共にあれど、これから先、何があろうともきっと大丈夫。


「それじゃあ、私は行くわ」

「レイラ!!」


 レイラはフードを被り、歩み出す。


「いつかまたどこかで……」


 どこか、切ない感情が溢れて豹の子は、眠りながら感じ取った。


 ――いつかきっと会える……しかし、多分その頃私はきっと……


 顔が隠れるほんの一瞬、繊細までに脆い笑みを浮かべ、先立つその背中には触れようとすればどこかに消えていきそうな感じがした。


 《回想終了》


 懐かしむように頬杖を付きながらリリオーネは、多くの戦士に茶化される仁を見ながらにししと笑う。


「何故だろうな。君を見ているとあの人を思い出してしまう」

「え、なに!あの人、ってか、もういい加減にしろよ、お前ら!!」


 すっかりと馴染んでいる様子の仁とリリオーネの配下達。

 そして、リリオーネは仁にレイラ(あの人)の面影を重ねていた。

 性格も容姿も性別さえも違うというのに、それでも何故か、と自分に問い掛ける。


「まさか、ね……」


 リリオーネの脳裏に本来結び付けない可能性が過ぎった。

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