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もしも、完璧世間知らず娘が現世に召喚されたら  作者: 神田優輝
異世界転移編 ~熊さん、異世界体験譚~
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~熊野仁側~ 第7話 呪われた血と流離の旅人④

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 数ヶ月の時が流れ――


「さて、リリー。出発の準備はもう整ったか?」

「待って、レイラ!食料の準備全然できてないよ!」


 飄々(ひょうひょう)と、出口まで移動したレイラは、何も持たずにリリオーネに出発を急かす。

 だが、そんなレイラの性格に慣れ始めたリリオーネは、レイラに欠落している部分を補う人に育った。


 頼りになるお姉さんの印象だったレイラは、共に過ごすうちにどんどん薄れていった。

 食事は、肉を好み野菜をほとんど食べない、肉が入っていないと駄々をこね出し、部屋の片づけはしないと来た。

 初めて、この家に来て、綺麗に見えたのは、レイラがそこに棲み付けたばかりだったからだそうだ。


「もう、いい加減にしてよね!!シャキッとしなさいシャキッと!!」

「だいぶうるさくなったな、リリー。最初はあんなに可愛かったのに」

「誰のせいだと思っているんだ!」


 とはいえ、レイラが今更性格を変えるとは思わないと悟ったリリオーネはその実半分以上諦めかけていた。

 毎日は忙しく、レイラの相手をするのも苦労の連続だけど……


 ――充実した、毎日だ!


 と以前の暮らしに近い幸福感を覚えたリリオーネであった。

 そして、今日――旅立ちの日が訪れた。


 ■■■■


「えっ?!これで終わり?」

「ん?そうだけど」


 回想が漸く一区切りがつき、語ったぞ!と満足そうな表情を浮かべたリリオーネ。

 だが、不満を抱いた仁は、彼女に突っかかり、更に追求する。


「いやいや、これからだろ話は!出会ったばかりだろ?王座はどうした?!豹戦士(こいつ)との出会いは?!」


 探せばキリがない、だが、一言もの申すと。


「旅立ちの日は、どこいったんだ!?」


 話の区切り、だが唐突に始まりに終わってしまった回想。

 好奇心旺盛でなくてもその続きは気になるのは当然。

 そこでストップされるのは、何としてももどかしいというもの、仁の連続のツッコミが炸裂しリリオーネは一瞬威圧されるが、こほんと咳払いして少し顔を赤らめる。


「冗談だ……全く、お前は冗談が通じぬ男だな~」


 逆にリリオーネ(じぶん)がバカみたいになってしまったこの状況に玉座に身体を丸ませ頭を膝にくっつける。

 凹んでしまった主を見て、豹戦士はしびれを切らして剣を鞘から引き出す。


「やはり貴様には、生きて返す選択肢はないようだ」


 すたすたと素早い足取りで仁に接近する豹戦士。

 勢いよく剣を掲げ、スーッと上段の構えで剣を振り下ろした。


 ――こ、殺される!!


 目を瞑り、その時が来るのを待った仁は、だが()()()()呼吸をしていた。


「あれ?生きている?」


 ゆっくりと目を開けるとカタカタと剣が何かに堰き止められているのを見た仁は、しかし、本のミリ秒遅ければ、頭と胴体が切断されていたと断言できる。


「相変わらずの過保護っぷりじゃな、オールドダスト」

「貴様も相変わらず硬いな、この化石ジジィが」


 頑丈な壁が突然現れたかのように思えた仁は、手でそれに触れる。

 見上げると、強固な壁には頭が存在し、鼻先には立派なツノが生えていた。


サイの戦士?」


 豪快で大きな口を開き仁に視線を移す。


「お主が噂の人間か?」


 いつどこで噂が広まったのかは定かではない、だがサイの戦士には、他の住民とは違う感情がその目に映っていた。


「あ、ああ、それがどうした?!」


 仁より3倍以上あるであろう身長に威圧感に押しつぶされそうになるが、必死の思いで強気に出たものの、声の震えを隠し通せなかった。


「ははは、リリー様の仰った通り面白い人間じゃないか」


 大気を揺るがす大きな笑い声に、仁は苦笑いを向ける。


「それで、兄ちゃん。話の続きなんだが……」


 突然話を切り出したリリオーネだが、不意に。


 ――ぐ、ぐぐぅ~。


「やっぱりな」


 腹を抑えて仁は、顔を赤らめる。


「そういえば、この世界に来てから何も食べていなかったな」

「まあ、とりあえず飯にするか!おい、皆の者、宴を始めるぞ!!」


 ドンドンと、重々しい足音が一斉に謁見の間中に鳴り響く。


 ――一体何人の兵士が隠れていたんだ!!


 厳重な警戒態勢。

 それに気づかずにいた仁は、なんとも命知らずと言えるだろうか。


 ■■■■


 大食堂に連なられた三列の長いテーブル。

 その上に乗るは豪勢な料理。

 流石森の王国、豊富な果物類がたくさん、そして、汁たっぷりと滲ませる肉が仁の空腹な腹に刺激を与える。


「……ごくり……」

「なんだ兄ちゃん?食べないのか?」


 豪快且つ優雅な食べっぷり――成立するとは思えないこの二つの要素を見事にこなして見せたリリオーネは、目線を仁に向けながら気にかける。


「確かに美味そうなんだが……一つ聞きたい」

「ん?なんだ?」

「ここの肉って……?」

「豚肉だけど」


 それを聞いた途端、仁は急に顔を青ざめる。

 それはその筈。

 なんたって、仁から見えるテーブルの前から三席の戦士が盛大に肉に手を伸ばし食いっぱぐれているのだから。


「あそこの戦士は、何肉かっていうのは知っているか?」


 仁は、震えながら彼が言う戦士に指を傾ける。


「ま~。見ての通りの豚の丸焼きだしな。それがどうした?」


 愕然と呆れ顔になった仁はドンっとテーブル叩き自分の今の心境を叫ぶ。


「いや、豚の戦士が豚の丸焼きを食べるかよ!と、共食いになっちゃうじゃん!!」


 豚の戦士がその筋肉に相応しい力で豚の丸焼きの足一本分を盛大に引きちぎり食らい付く。

 あまりにも悲しすぎる光景にだが、卓上の戦士全員が一斉に笑い出す。


「何を言っているんだ人間。この余は弱肉強食。それは、同族であったとしても同じことだ」


 仁に応えたのは、以外にもその同族を食っていた豚の戦士だった。


「けど、躊躇いもなく同族を食べるなど……狂ってる!!」

「よせ、兄ちゃん。ブルトスの言う通りだ。この世は所詮弱肉強食、強い奴は生き残り弱い奴は淘汰される」

「……っく!!」


 仁はリリオーネの言葉に反論はできなかった。

 それはどの世界でも同じで、その姿こそ人が、動物が築いてきた歴史そのものである。

 知っているからこそいざ目の前に行われていることに心が整理し切れなかった。

 ただそれだけの話。


 それにリリオーネの過去知った今、彼女の言葉の重みを超える言葉を仁にはなかった。

 強くなければ生き残れない。

 だからなのだろう、リリオーネは、仁の言う異常な光景はきっと……そうきっと――


「兄ちゃんの世界はよっぽど平和なんだろうね」

「リリオーネ、様……」

「いや、リリーでいいよ♪その方が兄ちゃんも楽でしょう?」


 未だに呼び慣れない様付けに、仁は少し照れながら呟く。


「……助かる、リリー」

「いいって、私も人と喋るのがレイラ以来だからさ――嬉しいんだ」


 宴は更に盛り上がり、日の出が出るまで続いたという。


 ――って、話の続きはどこ行ったんだ!!!


 そう叫ぶ仁に、彼の席のテーブルに、《中断》という文字が浮かび上がる。


「納得いかねーー!!」

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