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もしも、完璧世間知らず娘が現世に召喚されたら  作者: 神田優輝
異世界転移編 ~熊さん、異世界体験譚~
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~熊野仁側~ 第4話 呪われた血と流離の旅人①

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「それは私が王座に付く数十年も前の話だ」


「リ、リリオーネ……様、おま、あなたは俺より歳うe……!!」


 今語り出すのは、途方もないリリオーネ=アスタルフィールドと名乗る前の小さく非力だった少女の過去の話。


「おい、ナレーター、何俺のコメントに無視決め込んでんd!!!」


 未知の力が働き、仁の後ろに異空間が出現し、その中から腕が現れ、仁の口を制す。

 その光景に驚愕を覚える豹戦士は、救いを求める眼差しの仁を無視する。


『何故か、関わってはいけないような気がする』


 ――てめー、無視してんじゃねぇよ!!


 一瞬目が合ったことを知った仁は、『んん~ん!!』と悶えながら、頭の中では罵倒の言葉を吐いていた。

 一方で、リリオーネの方を横目する豹戦士は、またもや驚愕する。

 この異様な光景を前に、平然と、まるで見えないように様子でいる彼女。


『やはり、アスタルフィールド様は偉大であるな』


 心の中で豹戦士のリリオーネへの好感度がアップする。


 それでは、茶番はさて置き、話に戻るとしよう。


「私は、何も最初から王座に就いていた訳ではない。――これは、私がまだ人間の家族と一緒に暮らし、そして、ある旅人と出会った時の話をしよう」


 ■■■■


 かつては、人間の集落にいたリリオーネ。

 裕福な家庭ではなかったものの、何不自由なく暮らしていた。

 村一番のパン職人である父、エドワーズ=エーベルフィールドと彼を支える妻、エドミナ。

 お淑やかな性格の彼らがリリオーネの両親。


 そうして、生まれたリリオーネにエーベルフィールド家に明るさを齎してくれた。

 幸福な家庭がより幸福に、過ぎ去る日々が、一日一日が大切に思え、ずっと続くとも思った。

 しかし、この時には、そんな幸せが崩れ去るとは誰も知る由もなかった。


 数年が経ち、リリオーネが自由に動ける歳にもなり、村はずれに家を建てているエーベルフィールド家には、すぐ側の森がリリオーネの遊び場となった。

 そして、数回も森を訪れるようになったリリオーネに森に棲む動物達は、彼女は危険ではないと判断し、近づくようになった。


 リリオーネの家の近くまで接近するような動物も現れては、会話をするかのように、リリオーネから多くの言葉が弾んだ。

 単なる子供の遊び、だが、彼女がそれで喜ぶのならばと、父も母も、そのまま笑顔で受け入れる。

 その軽はずみな慰みが、リリオーネに自信を与え、村中の人々にうち明かした。


 人の道から外れた力を持つ者を異人と呼ぶ。

 その風習は世界中に根付き、(それ)を持たぬ人間は恐怖を抱き拒んできた。

 結果として時が経ち、恐怖の拒絶の感情がいつの間にか憎しみに駆られていった。


 原因は時がだけではない。

 人間達から迫害された異人達は、復讐心に乗っ取られ、いくつかの村が滅ぼされた。


 異人達のその殆どが人に害する、故にリリオーネ見たいな動物と意思疎通ができる能力は一際穏やかに見えたのであろうエドワーズとエドミナは放っておいた。

 だがどんな力も使い手次第で毒にも薬にもなり得る。


 一見にして害がない能力。

 しかし、村人の中で、異人に対して強い畏怖を持つ者が叫んだ。


「異人だ!!獣と共闘してこの村を襲うつもりだ!!」

「ち、違う!リリーはこの力で皆の役に立てるかもって……」

五月蝿(うるさ)い、口を開くな!この異人め!!」


 棘ある声でリリオーネの胸に突き刺さる。

 世の理不尽さは果てがなく、差別対象である異人は、その渦中にある。

 リリオーネの必死の発言も全ては逆の解釈を取られる。

 言葉で説明する無意味さに気づきつつあったリリオーネは、村人の嫌悪の眼差しを浴びる。


「リリオーネ!!」

「リリー!!」


 駆け付けたエドワーズとエドミナはリリオーネを包むように抱きつく。


「お願いです。この子は何も悪くないんです!!どうかご慈悲を!」


 懇願する父に涙を見せる母。


「お父さん……お母さん……」


 混乱した頭でリリオーネは、父と母の温もりを感じる。

 だが――


「黙れ!異人を匿っていた裏切り者に貸す耳はない!」


 エドワーズの表情が一変し、刃物を持った老人を畏怖した目で見る。

 おそらくは、彼がこの村の村長であり、彼の言葉は、村全体の意見である。

 つまり、周りを見なくても、さっきの村長の言葉が全員の意見である。


「エドミナ!!リリオーネを連れて逃げろ!!」

「でも貴方が!」

「早く!!」


 エドワーズは期待を捨て、リリオーネをエドミナに託す。

 エドミナは、リリオーネを抱えてできるだけ遠くへ逃げた。


 ――それで、いい。エドミナ、リリオーネを頼んだぞ……


 エドミナは振り向かず、ただ一心に前進する。

 一方でリリオーネは、遠ざかる父の姿をただ見ることしかできなかった。


 ――なんで?なんでお父さんが殴られなければいけないの?


 抱いた疑問は、リリオーネの心の中で黒い靄として生まれる。


「悪いのは……全部、リリーのせいなのに……」

「リリーは、悪くない。決して、お母さんが保証するわ」


 父親が理不尽な暴行に見舞われるのをただ見るだけ。

 かと言って、助けに行こうとしても、何もできない、助けられない。


「おい、母親が異人を連れて逃げていくぞ!!」


 悪鬼に囚われた村人の鋭い感覚はリリオーネとエドミナを逃がすことを許さなかった。


 追いかけようとした男性にエドワーズは血塗れになりながらも必死でしがみ付く。


「止めてくれ!!妻と娘だけは……」

「放せ、裏切り者!!」


 だが、男は、エドワーズの望みに聞く耳を持たず、頭を蹴り飛ばした。

 当たりどころが悪くエドワーズは静かになった。


「おい、お前……これ」

「う、うるせぇ、どうせこうなっていたんだ!!」


 エドワーズのまさに命がけの時間稼ぎのおかげで、村人達はリリオーネとエドミナの姿を見失っていた。


「お母さん、お父さんがまだ広場に……」

「……」


 何も言わないエドミナ。

 彼女は、エドワースの言葉から悟ったのは、もう二度と会えないということだけ。

 だから――


 エドミナは、リリオーネを森の端まで連れて、汗ばんだ顔は青く染まって、だが冷静にリリオーネに呟く。


「リリー、よく聞いて。できるだけ、森の奥に進んで村の皆に見つからないように隠れて……」

「お、お母さんはどうするの?」

「お母さんは、お父さんを迎えに行かないといけないからね……」


 胸が痛む。

 これからのことを考えると余計に。

 そう思うエドミナは、だが、リリオーネが助かる道は、これしかないと。


「最後に、お母さんに約束してね、リリー。あの力を絶対に人に見せちゃだめだからね」

「でも……」

「リリー……リリーはいい子だから、お母さんのお願いを聞いてくるれると、嬉しい」

「う、うん、わかった」


 エドミナは微笑んで、右手でリリオーネの涙を拭う。

 そのまま手をほほに移し、優しく撫でる。


「ありがとう、大好きよ、リリー――時間がないわ。早く行って!!」

「また、会えるのよね!」


 エドミナは、何も言葉も発しないまま、ただ微笑んだ。

 今までで一番の笑顔を見せる母に、何故か悲しみの感情の方が伝わってくる。

 これも、自分の血の力なのかと思ったリリオーネだが、単なる気の所為だと割り切った。

 森の奥へ足を進ませ、母の姿がどんどん遠ざかっていく。


 ――ごめんね、リリー。お母さんは、これ以上はリリーを助けることはできそうにないみたい。でも……リリーになら、きっと森が力を貸してくれるから。


「今、私にできることとしたら、リリーが見つからないように時間を稼ぐだけみたい。ね、エドーワス――」


 エドミナは、リリオーネが森の奥へ消えるのを見送ってから、逆方向に、村の中央へと向かった。

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