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もしも、完璧世間知らず娘が現世に召喚されたら  作者: 神田優輝
異世界転移編 ~熊さん、異世界体験譚~
61/70

~アティラ組側~ 第2話 秘密への一歩と謎の追加

 58


『機材は~……確かにここって街から海岸に近かったはず。あっ、あれだな!』


 現時刻、午前2時12分。

 闇に包まれて歩いている足すら見えにくい夜に電柱の僅かな光を頼りに海岸を目指すレオンが機材調達に向かっていた。


「今までこの国の資料を読み漁ってこういった場所が滅多にないことを知って、万が一のために見つけておいてよかった」


 そして、目指したその場所には、近づくと月を覆い尽くす黒い影としてその巨大さをアピールしていた。


「ゴミだね。しかも、嬉しいことに機械関連ばかり……開発者にとっての宝の宝庫だ!」


 機材を持ち帰り、そのまま時空渡りの改造を開始した。

 バチバチ、と溶接機や金切のこぎりで金属から流れ落ちる火花を避けつつ作業を続ける。


「まったく、一日といったけど、無茶だったかな……いや、天才の僕に不可能はない!」


 黙々と作業を進ませるレオン。

 暗闇から湧き出る閃光、それがもしや妖精の仕業さと一時期噂が立った。


 ■■■■


「さ~て、ここからが本番っな訳だけど……どうしたもんかな~」


 アティラを仁の家まで送った望だが、彼がそこにいる理由は見送りだけではなかった。

 何かを覚悟するような真剣な目で、扉の前をノックする。


「は~い、って望ではないか。どうしたの、アティラを見送ってきたのかな?……しかし、あの馬鹿息子はどこにも見当たらないのだが……」


 考えて見れば妙な組み合わせの二人、そんな違和感に気づかない母ではない。

 そして、気まずそうな顔をする望とボーっと呆けてるアティラの様子を見て、直感的に何かを悟った明日香は目の色を変えて冷めた口調で呟く。


「二人共、家に入って、暖かいスープでも飲んで」



 湯気が沸き立つコンポタージュを口に押し込み、その熱が身体中へ巡回する感覚を味わう。


「ふわ~、身体暖まる~!!」

「……はむっ……」

「そうか、おいしいか。でも、それはどこにでもある市販のポタージュだけどね」

「明日香さん、それ言うと折角のポタージュが……」

「何、まずくでもなるの?」

「……お、美味しいけど」


 和むような会話の中、黙々と食べ進むアティラに目を配りながら明日香は本題に入った。


「――で、仁のことなんだけど、何かあったんでしょう、望君」

「明日香さん、すみません!!」

「ちょっと、どうしたの?いきなり謝って……」


「仁は……信じ難いかもしれないけど、妙な光の門の中に連れ去られて、それから……」


 ありのままの事実を口にして、望は自身の不甲斐なさを嘆いた。

 今にでも泣きそうな顔しながら、明日香は彼の頭を優しく撫で下ろす。


「謝らなくていいのよ、(のぞむ)君。それよりも、本当のことを話してくれて、ありがとうね。本当のことを言うのは、割と勇気がいるものよ」

「明日香さん、俺、俺は……」

「しかし、まさか、そんな早く来る(・・・・・・・)とは……」


 聞き取れない音量でそう囁く明日香は、一層真剣な目で何かを見据えるように、その更に向こうを見るような、そんな目をして。


「なるほどね、だからアティラちゃんがあんなにボーっとしているんだね」

「明日香さんは、強い人だね……」

「どうしてそう思うのかしら?」

「だって、息子が行方不明になって、本当ならもっと気を乱したりするだろ……だけど、明日香さんはいつも冷静で、凄く大人だな~って思ってて――」

「そりゃ~、心配だし怖いよ。折角あの時に注意したばかりなのに――あ~あ、もう何だかむしろ怒りが湧き上がって――!!」


 クリスマス回の終盤、全ての生徒が体育館を去って最後に注意をしたことを明日香は思い出す。


「明日香さんって……」

「ん?」

「いや、なんでもない……」


 何かを言いたそうに、だが強く唇を噛み締めて耐える。


「まあ~、何はともあれ、望君。そろそろ、家に帰らないと、家の人が心配するわよ」

「そうだな。明日香さん、スープありがとう。身体、とても温まったよ!!」

「ああ、いつでも来てもいいんだぞ。昔みたいに」

「おう、また今度な」


 にんまりといい笑顔で望は手を振りながら家を去った。

 残された明日香は、ただ彼の背中を見続けた。

 夕闇に溶け込み、その姿が消えるその瞬間まで。


 ――ドン


 壁に強く叩きつけた。


「やっぱり、私には守れないみたいだよ……レイラ」

「母ちゃん?」


 物音に目を覚ました仁の弟の良太、目を擦り付けながら、眠そうにあくびをする。


「あら、起こしちゃったのね、良太(りょうた)。なんでもないのよ。ほら、もう夜も遅いし、早く寝ようね♪」

「は~い」


 力なく応じる良太は、ゆたゆたと自分の部屋に戻ろうとしていた。

 しかし、急に足を止め、明日香に尋ねる。


「そういえば、仁兄が見当たらないけど……」


 鋭い子供の観察眼、少しの戸惑いを抱えながら良太と同じ目線まで(かが)み微笑みながら答える。


「仁兄は、今ちょっと遠い場所に旅行へ行ったんだ。だからしばらくは帰ってこない」

「そう、なんだ……僕、ベッドに戻る」

「そうか、お休み。良太」


 明日香は、良太の前髪を手で持ち上げ、額にお休みキスをした。

 良太が部屋に戻ると、明日香は立ち上がり、一人でぽつりと呟く。


「私も、動かないといけないな」

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