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もしも、完璧世間知らず娘が現世に召喚されたら  作者: 神田優輝
異世界転移編 ~熊さん、異世界体験譚~
60/70

 EX3‐1 ~ハロウィーンフェスタ~①※

 EX3


 ハロウィーン、由来は古代ケルト人が起源と考えられる祭りのことだそうだ。元々は、秋の収穫を祝い、悪霊などを追い出す宗教的な意味合いを持つ行事でもあったそうだ。


 しかし、現在では、アメリカ合衆国で、民間行事として、定着して、祝祭本来の宗教的な意味合いが殆どなくなっている。カボチャに顔の形に刳り貫いたり、子供が魔女やヴァンパイア、ゾンビやミーラなどに仮想し、周辺の家に訪れて『Trick or Treat』と言いお菓子をもらっていた。


 今では、アニメのキャラクターや人気者の格好をしたりして、面白おかしく楽しむ行事へと変わっていった。


「――と、まあ、こんな感じに現代のハロウィーンが祝われている」


 細かく丁寧にハロウィーンの説明をしていたのは意外にもレオンだった。


「わっ、俺達より詳しくねーか。異世界人のくせに」

「なんか敗北した気分」


 自分達の世界の文化祭の筈なのに、と蹲る望と春香。

 だが、冷静に平静を保っている仁と柔悟はただ『へぇ~』と感心していた。


「そうだったのか……」

「意外と身近にある物って奥が深いんだな」


 逆にレオンの説明を聞いて納得している様子だった。


「おいおい、仁君、柔悟君。悔しくね~の!俺達よりアイツの方が俺達の世界に詳しいことに!」


 仁は、だが、パチクリと目を数回瞬かせて呟く。


「いや、別に。普通だろ?」


 何が普通なのか、何故そんな思考にたどり着いたのか許容量を超えた望の頭が一瞬シャットアウトし、ぽつりと『へっ?』と零す。


「何が『普通だろ?』っだ!意味がわからん!!」


 だが、仁は答えに戸惑うこともなく――


「だってそうだろ。望だって知らないものがあったら調べるだろ?由来とか、上面な情報だけでなく、そのものについてもっと深く――中途半端に知っている知識程、割と知らなかったことの方が多い――」


 例えるなら、クリスマスがプレゼントをもらう日ではなく、イエス・キリストの誕生祭であるように。

 バレンタインデーがチョコレートを好きな人や大切な人に感謝を込めて渡す日ではなく、若者が結婚ができなかった3世紀ローマの時代に密かに結婚をさせていた聖バレンタインが処刑された日を称える日となったように。


 時代とともに様々な伝統行事が行き先々で変化していった。

 その情報を現在の人達が受け入れ、真実であると認識していった。


「――この世界に詳しくないからこそ、情報を集め、何故と自問するんだ。だから、始めに探すとすればその行事の起源、つまりはすべての始まりって訳だ。理解したか、我が友、望よ」


「ぬっ、何か俺が阿呆みたいではないか!?」


 至極真っ当な理由を述べられ、反論の入る余地など与えず、己を恥じるように四つん這いに落ち込む。


「まあ、例えるなら、日本人より外国人の方が日本に詳しい例もあるし」


 好奇心の成せる業というもの、単純にものに対する知識欲があるかないかの話である。


「じゃあ、さ。柔悟は、何で、関心したんだ?」


 仁の言い分は半ば無視して、感心を抱いたもう一人に尋ねる。


「何、自慢ではないが、俺は誰よりも頭が悪い。俺が知らないことがあって当然だろう」


 自信満々の笑みで、言い張るその勇ましさに、眩しさすら感じ寄せる。


「俺は、お前の方がすげぇと思うぞ、柔悟」


 望は、彼の肩に手を沿え、深々と柔悟を称えた。


「それで、アティラさんは、どうですか?ハロウィーンのこと」

「はい、熊さん。とても勉強になりました」

「教えたのは、僕なんだけどね……」


 そもそもの話、何故ハロウィーンについて説明があったかというと――

 アティラが街中で聞いた『もうすぐ、ハロウィーンだね~』という、歩行者から聞いたことから始まった。

 そこで居合わせたレオンが説明をしながら学園と向かい、次第にいつものメンバーが集い、現在に至る。


 数日後に控えるハロウィーン。

 仁は、クリスマス回のことを思い出し、この学園の現学園長兼母親の熊野明日香を不意に脳裏を(よぎ)る。


 その瞬間――


 ピンポンパンポン――


『生徒の皆さん、学園長からの大事なお知らせです。速やかに体育館に集合してください』


「おい、仁。また、お前の母ちゃんが何かを企んでいるぞ」

「みなまで言うな、望よ。そんな予感はしていた」


 何もせずのハロウィーンで終わるはずもなく、明日香は、またもや学校行事を一つ増やす。


『一応ここって進学校だよな。最近こういった行事が増えたのって、やっぱり学園長が変わってからだよな』


 所々飛び交う、生徒の学園に対する声。

 難関校として、規律に厳しく、名大学に入学するために設立したこの学校も、今や、明日香の大きなおもちゃ箱と化していた。


 だが、一方で、ただ勉強する学校のイメージが変わりつつあり、生徒の表情には確かに明るい印象が強くなっていった。

 それも、新学園長になってからだ。

 授業内容も以前と何も変わっておらず、難しいままではあるが、それは些細な問題に過ぎない。


 体育館に入る生徒達、その大半が入り終わった頃に仁達が体育館付近まで近づいて、ある違和感を覚える。


「ね、静かすぎない?」


 総勢454人の生徒、その半分以上が体育館に集まっている。

 普段の体育館内でのお授業ですら教室まで生徒の声が届くというのに、僅か数メートルの距離に立っていて音一つ聞こえないなど、あるはずがない。


 また、と仁は思うしかない。

 母の仕業、それも人類が考えうる事柄ですら超越して、やってのける何かが目の前の漆黒の天幕が告げていた。

 唯一安心できる点については、決して他人に危害を加えない……


 ――安心できねぇーー!!


 またもやクリスマスイベントでの出来事を思い出す。


 《振り返り》


 別名:レッド・クロスマス。

 これは、レッド・クロス=赤十字(病院)とクリスマスを掛け合わせた、全校生徒半数病院送り事件として、名を学園周辺まで広ませた。

 それでも学園への批判はなく、世界初レッドイベントとして何故か話題になったのだが、それはまた別の話。

 だが、一番応えたのが、冬休み開けの、年始の挨拶だった。


『生徒諸君、冬休みは、如何過ごしたのかな?私の持つ研究チームが調合してくれた薬で即行に具合を治してくれてただろうけど、学園長としてのけじめ、ここで皆さんに深く謝罪をしよう。すまなかった。――ここで、私から、今回のペナルティーの創作を担った人物を紹介したいと思う――』


「災難だな、仁」


 半ば笑いながら、嘲笑する望に、拳を作って、今にでも殴って掛かりそうな仁は、どうにかその拳を押さえた。


「そう、だな!」


 ため息を吐く、春香とその隣で何も聞いていないであろう柔悟の真面目な眼差しは、明日香が立つ壇上へ向けられていた。


『では、壇上に上がってもらおう。私の息子、熊野仁に盛大な拍手を』


 だが、飛び交うのは罵倒とブーイング。

 当然、病院送りにした張本人である仁が賞賛を届くはずもない。

 本意とは違ったが、ハズレくじ(あの料理)を振舞ったのは紛れもない事実。

 涙目で壇上に上がるその姿はまるで、戦地を生き抜いた二等兵が最後の力を振り絞って前へ進もうとしているように、だが顔は絶望そのものを表していた。

 死んだ魚の目とはよくいうが、まさにその表現が当てはまる状況ではないだろうか。


 悪評が学園全体に広まる中、光も映さない目で壇上の上を立つ仁。

 望と柔悟は思う。

 彼がどんな悪評がぶつかりどんなに学園の生徒から嫌われようとも、ずっと味方でいようと。

 手を組合、その意志を伝えようと、まっすぐ仁を見つめる。

 それに気づいた仁は、その目に僅かな光が灯された。


 ――お前ら、こんな俺を見捨てずに一緒にいてくれるのか?


 仁の心の声に応えるかのように、二人して頷き返す。


 《振り返り終了》


「行くか、皆――」


 漆黒の天幕を潜り抜ける前に、仁は皆の確認を取る。

 何が待ち受けているのかわからない天幕の向こう側。

 その中に他の生徒の声はなく、不気味さ満天を漂わせる。


「じゃあ、行くぞ!!」


 天幕をたくし上げ、その中へと吸い込まれるように、視界が黒に染まる。

 気絶したのだろう、意識がはっきりするまでに数秒間かかった。

 そうして、目覚めた一同は、体育館内とは思えない、湿り気と床の感触を覚える。


「な、何がどうなって……!?」


 最初に声を上げたのは、望だった。

 ようやく意識がはっきりとして仁は、辺りを見渡す。

 床と思っていた場所は湿った土、大気中には、自然の木の葉の香りが漂っていた。


「体育館内が、ジャングルになっている!!」


 だが、望の見立てとは違っていた。


「いや、そうじゃなくて。仁も、お前達の格好がどうしたんだよ!!」


 仁は、確かに頭に妙な重みを感じていたが、それすら、気にならない程、周辺の変貌が驚異的だった。

 ――のだが、起き始めた全員の格好を見て、更なる衝撃を受ける。


「な、みんなして、どうしたんだよ、その恰好?!」

「ん~、何か頭がぐらぐらしますわね」

「一体、どんな状況なんだ?意識が遠のいて、それから……」

「仁、お前の頭、ぷっふ!!」


 仁は、速やかに、自分頭部を確認する。

 違和感を感じていたその頭には、その二倍ほどの大きさのかぼちゃの被り物がめり込んでいた。

 視線の前に、幅50センチの間からギザギザとしたかぼちゃの削り痕から被っているかぼちゃが、ハロウィーン恒例のあのジャック・オー・ランタンとはすぐに分かった。


「ん?ん~ん!!……はぁ、はぁ……んん~ん!!――あれ?」

「どうしたんだ、仁?」


 仁は、手をかぼちゃの下部に強く押し返す。

 しかし――


「と、取れない、とういうより、取ろうとすると若干首元が痛い」

「どれどれ、う~ん。おい、何か、かぼちゃの根っこ見たいのが、お前の首と連結してんぞ!!」


 ――しーん……


 しばしの沈黙。


「もうだめだ。何もかも……かぼちゃを生やした人なんて、人じゃないんだ。そうだ、俺は、もう怪物なんだな~、あははは」

「おい、気をしっかり持て、仁!!」


 新人類誕生か、あるいは突然変異になるのか、自身を見失いそうな彼に、必死で呼び止める柔悟。

 だが、ぶらぶらと揺らされる身体で仁が目にするは、毛むじゃらになって、口元が長細く伸びた一匹の人狼であった。


「お前、柔悟か?」

「何を言って、ワおぉ!!」


 驚き方まで、何気に人狼ぽく雄たけびを上げる。

 しかし、変化していたのは彼だけじゃなかった。


 黒い的に、紫がかった銀色の長髪に鋭く輝かしく光る牙と目付き。


「お前、もしかして、春香か?」

「ん?そうみたい。だけど、何故かした、少し歯が疼いちゃうわ」


 繁栄されるのは、恰好だけでなく、その資質まで。


「俺に関しては、ミーラだぞミーラ!!」


 包帯に包まれた格好で、それ以外に目立ったものはない望。


「あら~、レオン君の向こう側が見えね」

「レオン君は、幽霊ってことだね」

「ああ、学者に取っては、なんとも複雑な気分だよ」

「何故だ?」

「科学的根拠もない存在になってしまったからな。物理法則を無視して、物体あるものすべてをすり抜けられるみたいだ……一体、どんな原理があってこのようなことに……」


 独り言を始めたレオンを余所に、レオンを指摘した鈴奈は、黒の猫耳に、黒猫の尻尾が二つに分かれていた。


「鈴奈先輩は、化け猫ッスか。そそられますな~」

「望、おじさんみたいな発言は、止めろ!」

「ふふ、可愛らしい恰好だけど、ちょっと露出度が高いかな、恥ずかしい」


 胸と股関節周り以外肌を露出させていることで、いわゆるエロ可愛さが極まっていた。


「そういえば、アティラさんはどこだ?さっきから静かだけど」


 ハロウィーンに関して興味を抱いていた本人が――斜め上の出来事だが――正真正銘、これぞハロウィーンと言っていい程を前に、一言も発しないなんてあり得るだろうか。

 いつだって、一番に反応していた彼女が、どうしてこうも、黙り込んでいたが、アティラが被っている黒く大きなとんがり帽子と同じく漆黒に染めたマントとその中に紫色に包まれたドレスを纏い、ただ立ち尽くしていた。


「アティラさん、どうかしましたか?」


 ギローン、と仁の声を聴いた瞬間に振り向く。


「あら、熊さんじゃないですか。何、気安く私の名前を呼んでいるのですかね?」


 ポカーン、と。

 この場の誰もが言葉を失った。


「あ、アティラさん」

「アティラ様よ。私の名前を呼ぶに相応しい言葉と態度で示しなさい、下僕」


(ええー何!何がどうなっているの。目の前って本当にアティラさんか!?)


「そういえば、こういう時にいうですのよね――」


 アティラは、数歩進み、ちょうど月を背景に左手を胸に添え、冷たい、凍えるような口調で囁くような感じでつぶやく。


「トリック・オア・トリート。私の命令に従わなければ、お仕置き(いたずら)しちゃうわよ」


「「「なんで、こうなったーー!!」」」


 皆して、そんな声が体育館内?に広がった。


挿絵(By みてみん)

 どうも、神田優輝です。


 思っていた以上に長引きそうなのでここで一旦中断させてもらいます。

 衝撃的なラスト迎えての延長。一話で終わらせるつもりが……まあ、しかし、この話が終わるまでがハロウィーンってことで。

 皆さん、今日はいいハロウィーンを送りますよう、楽しく過ごしましょう!!

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