~アティラ組み側~ 第1話 救出隊、出動!
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「おい、どういう事だよこれ!」
不可思議な現象を目の当たりにした望は怒りを覚え咆えた。
唯一無二の親友を目の前に消えてしまい冷静を保てられる訳がない。
だが、この現象を説明できる者はアティラを除いて誰一人もいない。
しかし、彼女は眼を見開いたまま、愕然としていて、説明できる状態ではない。
口許は動いているものの声らしい声は見受けられない。
ただ同じ動作で口をぱくぱくと開閉し続けていた。
――『く』『ま』『さ』『ん』、と。
繰り返されるその言葉に彼女がどれだけのショックを受けているのかは容易に考えられた。
しかし、そのショックの大きさまではわからない。
仁は、アティラに取ってこの世界で初めて出会った人だ。
だから、仁の存在が彼女の中で日々大きくなっていくのはもはや必然的だろう。
「駄目だ、アティラちゃん、全然反応しない」
そうため息吐く望だが、レオンははっと思い付く。
「あれを使えばあるいは――」
机の上両手で叩き付け立ち上がる。
そして、視線をアティラに向けて。
「アティラ」
呆然と魂の抜けた濡れた瞳を向けたアティラだが、レオンは手を差し伸べ叫ぶ。
「迎えに行くぞ、仁を!」
■■■■
暗い路地裏で、こそこそと物陰を探るように黙々と手を動かすレオンの姿がいた。
「ねぇ~、レオンく~ん。何を探しているの~?」
上体を傾けて顔をレオンに接近させる鈴菜は尋ねる。
「ちょっ!?顔近いよ、鈴菜……こほん、僕がこの世界に来る際に使用した時空渡り――時空の裂け目を生み出し、定められた座標を入力し、そこへ行き来する機械の事だ」
そう淡々と語り出すレオンは真剣な表情で暗闇の更に奥に手を伸ばし続ける。
その傍らにレオンの話す内容に要領が負えないのか、点目で唖然とした表情でいる鈴菜と望。
「あ、あった!!」
闇の底から取り出したのは手の平サイズの小型な、それはプラモのような戦闘機模型だった。
「おいおい、レオンよ。それに乗れってのか?無理あるだろう、それ」
そう発言した望にレオンの凍てつくような視線を浴びる。
半眼で光を一切灯っていない、そんな眼で。
「おい、その眼止めろい!」
抵抗を試みる望である。
「確か、ここのボタンを押して機体に連動させて――起動音が聞こえたタイミングで、ここをこう……よしっ!」
レオンが携帯している端末に表示されている幾つかの未知の文字を操作し、プラモの戦闘機から駆動音が確かに聞こえ出してきた。
そして、直後から見る見ると巨大化する機体を仰天した表情で見る望とアティラ。
唯一レオンの信頼を持つ鈴菜のみが驚く素振りをしなかった。
「……」
仰天から一変して、輝く星々のように煌く眼で見やる望とアティラ。
それを呆れた顔で眺めるレオンにその傍らで微笑む鈴菜。
場が和み出し、機体も本来の大きさを取り戻し、ある事に一同は気づく。
「これって……」
「うん」
「あれだね」
「まあ、そういう反応をすると思ってたよ」
明らかに人数オーバーな機体に対して一同は顔を見合わせこくりと頷く。
機体制限人数一名。
それの理由は明白である。
何故なら、元はレオン一人のみが扱う機体であるから。
と、まあ、これはこれとして……
「どうするんだよ、これ」
このままじゃ全員が乗っていける訳がない。
だからそんな疑念を抱かずにはいられない望である。
「心配いらないよ、望君」
「鈴菜先輩……どういう事ですか?」
微笑みながらそう断言する鈴菜に首を傾げる望。
しかし、彼女の意図を悟ったレオンは、苦笑しながら応える。
「はは、簡単に言ってくれるな――え~っと……」
手を顎に当てて考え始めたレオンは、すぐさまニヤッと口角を上げた。
「一日だ。明日、またここに集合しよう。詳しい時間は追って連絡する」
一同は数秒熟考した末、呟く。
何をするのかというツッコミはなく、望達は頷き合い、一旦解散した。




