第32話 突然変異?!
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クリスマスイベントの翌朝、仁は奇怪な現象に見舞われていた。
「本当に、アティラ、なの?」
朝食の準備が整い、仁がアティラを起こすために――現アティラの寝室に入った瞬間、まず己の目を疑った。
「どうかしました、熊さん?」
何の変化も感じないアティラは、首を傾げ問い返した。
眠そうな目で、目を擦り付け、起きたばかりのアティラは、まだ睡魔に取り憑かれていた。
頭にはひどい寝癖が幾つもピョコーンと逆立っていた。
しかし、劇的な変化は、むしろ、身体中に見受けられている。
それは、見る者が全員一斉に口の力が抜け、目の前の情景に顎が垂れ下がる。
そして、アティラがベッドから降りると、抱いていた違和感がより一層明快に、鮮明に視覚できた。
「あれ、熊さん?背、伸びたのですか?」
素朴な疑問を抱いたアティラは、頭二つ分の差まであった仁との身長差に驚く。
たとえ成長期の少年でも頭二つ分背が伸びるはずもなく、つまり――
ここで挙げられる可能性はたった一つしかあり得ない。
そして、仁はゆっくりと下へ視線を送った。
幼さを感じさせるもっちりとしたぷにぷにの肌。
クルリンと大きな目玉は子供とそっくり。
アティラの身長に関しても、事実――154cmあった筈が今や115cmあるかないかまでに縮んでいた。
「本当に、アティラなのか?」
二度仁がアティラに問い掛ける。
異次元過ぎるこの状況をどう判断すればいいだろう?
普通なら取り乱している所を己のあまりにも冷静、いや、冷静ではないが、パニックに陥っていない事に素直に驚く。
「何を言っているのですか、熊さん?私は、どっからどう見ても、アティ、ラ、で、す……よ……」
今度は、アティラが自分の姿を見て、驚愕のあまりに、言葉が途切れる。
一回り小さくなってしまった手、部屋が以前より少し大きく感じ取った理由、そして、目の前に立っている仁が何故急激な成長を遂げたと思い込んでしまったのも。
全てを理解し、結果――絶句しているのだ。
「く、く、熊さん!!私、わた――」
取り乱し始めたアティラの様子を見て、仁は。
(か、可愛いぃぃ!)
慌てふためくアティラの様子に見惚れてしまっていた。
「えへへへ~」
彼方に視線を向けながら、仁はボーっとし、アティラが自分を揺らしている事すら気づかずでいた。
「く~ま~さ~んってば~……返事してください~」
幼声で何度も呼び掛けるアティラにようやく自覚を持ったのか仁は我に返り、状況を再認識した。
この状況がもし、学園に通う事になっていたとしたら非常にマズかったのだが――幸いな事に先日、終業式を終えたばかり、つまりは、冬休みになったばかりなのだ。
天からの奇跡かは今や知らないが、感謝を捧げる姿勢で仁は、目を閉じ両手を合わせ祈っていた。
「ああ~、アティラが僕と同じ身長になっている!」
あまりにも時間が掛かり過ぎてしまったので明日香が良太を向かいに遣した。
そして、兄の名を呼び掛ける前にアティラの姿を見てしまい、興味がそっちに移ってしまった。
「良太、お前、何勝手に部屋に入っているんだよ!」
「だって、ママが仁兄が遅いから呼んで来いって……」
そこで、仁は今日初めて時計を見てしまったのだが、まさかアティラを呼びに行ってから、既に二十分も過ぎていたとは思いもしなかったのだろう。
確かに、隣に住んでいる人を呼ぶのに、二十分は掛かりすぎだ。
だが、良太を遣したのは不幸中の幸いだ。
もし、ここに明日香本人が入っていたとしたら、何が起きていたのやら……考えただけでも鳥肌が立ってしまいそうになる仁である。
「熊さん、私、どうしちゃったのかな?」
冷静さを取り戻したアティラに仁は問いかけられた。
しかし、当然の事に仁には、答えようのない質問だった。
何故、身体が縮んだのか?
身体に異変が起きたとしても、縮む何て想像できようものか。
「ううん、わかりません。アティラさんに何が起きたのか、何で縮んでしまったのかも、何も……だけど、治る方法がきっとある筈だから、それを一緒に探しましょう」
(我ながら驚きの連発……何故こんなに落ち着いていられるんだ?)
冷静な受け答え。
アティラにこれ以上パニックにさせないという無意識の意思が仁にそうさせているのか?
だが――
(ヤバイヤバイ、これは非常にヤバイィィィ!!)
安易に約束をしてしまった仁は、実に――なんの作戦も立ててなどいない。
言葉の重みを感じる瞬間は、正しくこういう時なのではないでしょうか?
言葉の中に責任が含まれた瞬間、それを自覚すれば非常なまでにその言葉の存在感が己の中に大きくなっていく。
これは単純な悩みや出来心で考えてはならない代物だ。
現在の科学で解決できない問題であろう身体の収縮なんぞ現役高校生である仁にできるだろうか?
答えは――否だ!!
この現象は、どっかの漫画のように薬でも飲まされたと考えたが、冷静に考えれば馬鹿馬鹿しい思考だと気づかずにはいられない。
だが、変な妄想の所為か、一つ解決に繋がるアイディアを浮かび上がる。
「そうだ!アイツなら何としれくれるかもしれない!!」
早速人を頼る仁なのであった。




