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もしも、完璧世間知らず娘が現世に召喚されたら  作者: 神田優輝
学園編・続 ~新たな物語の幕開けになった件~
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第29話 人生初耳サプライズ

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 もう一度思い描いてみようか――今の状況を。

 より理解を深めるために目を閉じて、学園の屋上を想像してみよう。

 そこには、二人、ガスタンクの真下に涙を零す赤毛の少年とそれに慌しく動揺している黒髪のお兄さん。

 彼らの前でもう四人のグループが一つ。

 女性二人と男性二人。

 笑いを堪えようと必死に顔を(しか)める望と春香、翠玉の瞳を輝かせながら、叱るような仕草のアティラ、そして、ただただ無言で立ち尽くしている柔悟。

 さて、その四人が立ち会っている現状を如何様に想像する?

 勿論、望と春香はこの状況をちゃんと理解した上で面白半分に仁の立場を(わら)っている。

 しかし、純粋なアティラ、そして鈍感な柔悟に対して、この状況がどう映っているのかもお解かりになりましょう。

 つまり、仁の今の立場は――


(ヤバイ!!完全に俺が悪役だ!!)


 誤解を生み出し続けたここ最近、それを解くのに時間は掛かり、今でも定着しているもの多数存在するが、誤解を発生させる事は容易く広まるのに時間も掛からない。

 言葉から生まれる誤解、行動からよる誤解、そりゃ様々だが……今度は、何もしなくても誤解を発生する事に成功した。

 唯一言った事は、アティラの名ただ一つ。

 彼女の名前を知ったレオンがどれ程嬉しく思ったのかの知らず涙を流した。

 そこで運悪く立ち合わせてしまった四人――正しく、運の悪い少年だ。

 実に、不幸やトラブルに愛された者だ。


(神様、俺――こんな体質欲しくなかったです)


 今度は、仁が涙をする番だった。



 アティラは、レオンに近づき、優しく頭を撫でた。


「――ッ!!」


 涙に没頭していたレオンがやっと彼女の事に気づき、咄嗟にアティラの手を振り払い、後ろへ後ずさる。

 ガスタンクが屋上に入る扉の上にあるからして、その後ろの先には当然端に当たるのだが。


「うわっ!!」


 続く床もなく、気づくのにも遅く、手を滑らし、下へ落ちた。


 ドン!!


 高さはそんなにないため、対した怪我にはなっていないが、それなり痛いのである。


「イッタァァーー!!」


 悲鳴を上げ、レオンは頭を抱えたまま悶える。

 無理もない、ほぼ一直線に後頭部から直撃して痛まない人などいない。


「ちょっ、大丈夫か?」

「大丈夫ですか?」


 下を見下ろして、倒れているレオンに声を掛ける仁とアティラ。


「だ、大丈夫に決まっている!僕はそんなにやわじゃねぇんだ!」


 頭を抱え、半泣きな目で仁を睨み付ける。


「いや、そんな顔じゃ全然説得力ないから――ほら、取り合えず上がってきな話があるんだ」

「僕は、君と話す事なんてないんだ、放っておいて――」

「話があるのは隣だよ」


 仁が示す隣とは、アティラの事。

 それを聞いたレオンは、極度な緊張に苛まれ、一種の硬直状態になってしまった。


「あ、あ、アティラさんが、ですか?僕と話を……?」


 言葉にすると尚緊張が身体中を巡り出す。

 そして、口にした瞬間に訪れる実感。

 これが聞き逃しではなく、本当の事だと思い込ませる真実であるという実感が沸いて来る。


「ああ、そうだ」


 アティラは、にこりと微笑みながら、レオンに向けて手を振った。


 ドックン!!


 密かに息を呑み込み、レオンはすっかり痛みの事を忘れてもう一度皆がいる場所へ上った。



「……」


 ムズムズと、正座中の足を揺らし、顔を顰めている。

 特に正座はかなり足から膝に負荷が掛かり、慣れていない人に取っては、長い時間に姿勢を保つのは非常に辛い。

 だが一向に何も喋らないレオンは、自らその苦しみを継続させている張本人なのだ。


「ねぇ、レオン君、私――君に興味が沸いて来るの、そして、何故か懐かしくも感じるのだけど、どこかで知り合っているのでしょうか、私達?」


 真実なのか、それとも単なる偶然か、アティラの発言にレオンは困惑する。

 どこかで会っているのかと聞かれたら、彼は突如現れたあの人の事を連想する。

 しかし、見た目のみならず性格までもが違って見えるとなると、どうしても信じられない自分がいる事に気づく。

 データより頼りにできるものがないと信じて来た十五年の人生。

 データが全てであり、何者にもそれを覆す事などできない。

 そう思っていたのに――



 ――何故、僕は彼女の事、あの人だと信じられないのだろう?



 観測されたデータ、彼女自身の遺伝子まで使って特定したのに、それでもあの時感じた独特の感覚が湧き上がらない。

 思い悩んだ末、レオンはようやく口を開いた。


「僕は、ある女性を探しにこの学園にやってきた、だがこの学園に入学する術はなく、偶然ある人と出会った。その人の名前は、熊野明日香」

「な、何ィィィ!!」


 今度は、仁が困惑する番だった。

 レオンが話す相手は聞き間違えるはずがない、自分の母親の仕業だ。

 ここで、一つ沸いて来る疑念は、何故、自分の母親がこんなにもあっさり誰かをこの名高い名門校にじゃんじゃん転入生を入れられる事ができるのか、と。


「また、母さんが関わっているのか?!」


 この苦労は、誰にもわからないであろう。

 幼馴染である望と春香でさえ、明日香の普段の態度を知らない。

 明日香が単なる優しいお姉さんとして二人に接していたから、それも当たり前の事だろう。

 仁でさえまだ明日香が昔、どんな人生を送っていたのか知らない。


「えっ、明日香さんが?」

「どうして、ここで明日香さんの名前がでてくるんだ?」


 続いて発言した春香と望を見て、レオンは不思議そうな目で全員を見渡す。


「何、お前達、知っているの、明日香さんの事」

「知っているも何も、明日香さんはこいつの母さんだよ、チビ助」

「それは、本当か?」


 こうなってしまうと、運命を感じる。

 全てが繋がって一直線の大通りに集結するような感じ。


(幾ら様々な位置に歯車をおいても、結局は運命という巨大な歯車の一部でしかない結果になるように感じる不快な気持ちになる)


「――自分が選んでいるつもりの道がだた単に誘導されて、知らない内にまるで操り人形みたいに。俺の運命の場合は、母さんかもしれないな~――」

「仁、お前」

「心の声、聞こえているぞ」


 哲学的な考えをぼそぼそといいながら、仁が抱く運命=母親まで辿り着く。

 その本音を知らずに口にしていた事を恥ずかしく感じて、一人隅でうずくまる。


「それじゃ、お前達は、僕が異世界から来たって事ばれてんの?」


 口を滑らし、レオンは掘り出さなくてもいい話を自ら自白してしまった。


「「「「えっ!?」」」」


 だが、それを全く予想だにせず唐突に聞いた真実に全員の頭上一斉に『!?』のマークが付く。


「……あれ?もしかして、知らなかった、の?」


 点目で向けられた表情でレオンは問い返す。


「もしかするんだよ。どうこう考えたらそんな話になるんだよ!!」

「だって、明日香さんの知り合いなら、広まっててもしかたないじゃない……」


(うっ、こいつも経験者だ!!)


 自分の母親の本性を知っている人は珍しい。


(共通の友ができそうな気がする)



 ピンポンパンポーン



『緊急公告を執り行います。全校生徒は、至急体育館へ集合して下さい』


 昼休みの終わり頃、その呼び鈴が鳴った。

 生徒は訳も分からず指示に従い体育館に集まった。


(悪い予感がする)


 何故かこの一言が頭全体に広がる仁。

 壇上の演台に立っていたのは学園長先生と薄暗く後ろに立つ人影。

 細足からして、女性なのだろう。

 しかし、凛々しい立ち姿、きっちりとした姿勢、真面目そうなイメージを思い浮かばせる印象を与えてくれる。


『ええ~、唐突な呼び出しに驚かれるかもしれませんが、私、星ノ宮学園長の(こよみ)智久(ともひさ) は、本日を持って退職いたします』


 学園長の唐突な退職宣言、全校生徒はどう反応したらいいのかも分からず沈黙のまま、学園長の話を続けて聞いた。


『ええ~、つきましては、次の学園長をこの場を借りて発表させてもらいます』


 先ほど後ろに立っていた女性が照明のある方へ躍り出る。

 きっちりと帰着したスーツ姿、長い黒髪をポニーテイルみたく括り上げ、威風堂々とした態度で演台の前に立つ。


(まさか!?)


 予感していた事が現実味が増し、演台に立つ女性が発言を開始された。


『諸君ら、この度、新しく任命された星ノ宮(ほしのみや)学園の次期学園長の星ノ宮(ほしのみや)明日香(あすか)だ。ここに立っていられる事、至極光栄に思う。これからも諸君らのような優秀な生徒と共に学園生活が送れる事を嬉しく感じ、更に楽しく青春を謳歌する若者達を見ていると私も頑張る気力にもなる。これからもこの学園を盛り上がって行こうぜ!!』


 歓声と拍手が競うように体育館内が反響する。

 若々しい姿に見惚れる男子にその美貌に憧れる女子。

 すっかりと前になる学園長先生は既に存在しないかのような盛り上がりようだ。

 けど、仁や望、春香、この三人にとって理解し難い問題があった。

 それは――


「「「星ノ宮(・・・)……!?」」」


 明日香が発表した姓に酷く驚愕する。


(へぇ?)


 真実を知らない現実とは唐突に訪れものだ。

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