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もしも、完璧世間知らず娘が現世に召喚されたら  作者: 神田優輝
学園編・続 ~新たな物語の幕開けになった件~
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第28話 ファーストコンタクト

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 教室から飛び出して行ったレオンは、何故か嬉しそうな表情だった。


(そんな顔をして、何故逃げ出すんだよ、あいつ?)


 変な奴――その時の仁は、レオンの事情もしる由もなくぽつりと思った。



「ん~ん、何故か逃げられてしまいました……何故なんでしょうか?」


 気難しそうな顔でアティラが連中の元へと戻る。


「確かに、聞いていたが、変な事は何も言ってなかったぞ、アティラ」

「そうだよ、アティラさん、あまり気を落とさないで、ね」

「え、私――別に落ち込んでいませんよ」


 フォローを入れたつもりの柔悟と春香だが、何も気にしていない様子のアティラに。


「「――えっ?!」」


 勿論このような唖然とする表情になっている。

 気難しそうに見えたのは、逃げ去った相手に落ち込んでいるからなのではなく、何故唐突に転入生が逃げ出したのかについてだった。


「んで、そのチビが本当に例の転入生なのか?迷い込んだ小学生じゃなくて?」


 特徴的な赤髪も小さな背丈も間違いなく例の転入生だ。

 しかし、小さいとは聞いていたものの、実際に目視するとその小ささに目を疑う。

 本当に小柄で着込んでいる制服は一番小さめの筈なのに一回り大きくさえ見えて来る。


「あっ、追い掛けないと」


 急かすようにアティラが言う。

 急ぐ理由がないからして、彼女の発言には驚くばかりだ。

 しかし、妙に不思議な感覚に駆られる。


(珍しいな、アティラが初めて誰かに興味を持つなんて……)


 赤髪少年の探索が開始された。



〈Side:R〉


(逃げてしまった!何とも情けないんだろう、僕は……)


 勢い余って教室から出てきてしまった。

 あまりにも唐突に、あまりにも不意に、彼に与えられた衝撃は大きかった。

 若返ったかのような容姿、見た事もない豊かな表情、透き通るような翠玉の瞳に滴る華麗な栗色の髪。

 見た目が全く異なっているのに、それでも判ってしまった。

 直感がそう自身の内で叫びだした。



 ――彼女こそが捜し求めた人だ。



【サクラ】とレオンが呼ぶ女性は、同じぐらいに靡く長髪だ。

 しかし、彼の記憶の中には、薄いピンク色をしていた。

 そう、丁度、彼女をサクラと呼ぶ色に――

 だが、ここで少し勘違いを解きたい。

 レオンは実際女性の名前を知らない。

【サクラ】という呼び名には、サクラメンチュームという古い言葉で『謎』という意味が込められているらしい。

 そう、最初からレオンは、彼女の名前すら聞きだせず、別れてしまった。

 忽然と現れた彼女は、異質な何かでできていた。

 無償に感情を駆り立てる何か、興味を惹かれる何か。

 そして、日々監査している内にその思いが変わり、いつしか恋愛にまで発展していた。

 これが、学者、研究者、探求者、発明家、その他諸々の称号を持つ者にとって所謂対立する感情の一つだ。

 愛が生まれるのに恐れる。

 さて、その理由とはいかがなものか?

 誰かに愛情が注がれればその瞬間、学者、研究者、探求者、発明家、その他諸々の称号を持つ者のそれらの愛を失うという意味だ。

 誰か大切にしたいという思いが強くなる事になれば、好きだった研究も探求もどんどん遠ざかって行く気持ちになり、それを恐れている。

 だが、レオンの場合、いや例外者の場合はそうはいかない。

 愛が生まれると同時に、駆り立てる思いが生まれる。

 それは、欲だ。

 初めて知る感情に全身が震える。

 興味から始まった感情が愛に変わったその瞬間、レオンの中の何かが暴れだした。

 もう一度会ってみたい、もう一度自身の気持ちを知ってみたい。

 そのためにも【サクラ】を見つけ出し、確認する他はなかった。



「思い悩んでいたら、いつまで経っても確かめられないじゃない。ここは勇気を出し――」

「おう、いたいた……よ、レオン君」

「うわっ!!」


 悲鳴にも似た声を上げ、レオンは自分より二十センチ以上も高い黒髪の男性と出くわす。

 正確には、見つけ出されたなのだけど。


〈Side:R END〉



「見つけたぞ」


 レオンを発見したのは、仁だった。

 素っ気無い顔で身震いして、冷たい風が曝け出されている肌に当たり凍てつく感覚に襲われる。

 現在地は学園の屋上。

 屋上に続く扉を抜けるとただただ広い空間とその更に上に上れる階段に上がるとガスタンクらしき物体がぽつーんと置かれている。

 そして、そのタンクの真下にいるのが、転入生のレオンだ。


「よ、レオン君。話があるんだけど、ちょっといいかな?」


 半目の仁は兎に角愛想の欠片もない、非常に怖い目付きになる。


「ヒィッ!!」


 だから、レオンが怖がる姿を晒すのは仕方のない事だ。


「な、なんだよ。君と話す事などこっちにはないんだよね」


 気合で抱える恐怖をどうにか打ち払い、抵抗する感じでレオンは仁の要求を拒否する。


「そっちにはなくても、こっちにはあるんだよ……まあ、早い話、お前、アティラ(・・・・)と知り合いなのか?――でも、それもおかしな話だ。アティラ自身は、人と会うのはこの世界に来てから初めてって言ったらしいしな、そんな筈は――」


 だが、レオンの様子は一変して、笑顔だった。


「そうか、アティラと言うのか彼女の名前、へへへ」


 初めて聞く彼女の名をやっと聞けた事が堪らなく嬉しかったのだろう。

 次第には、涙を流す程に。


「おいおい、ちょっと……ええ~、これ俺の所為なの?!」


 この絵柄では、子供を泣かした大の大人だ。

 見る人がどう思うのかが予想つけよう。

 そして、何より一番に見られる連中は――


「ああーーー、レオン君を泣かしているじゃないのよ」

「ほほ、まさかここまでするとはな、仁よ」

「もう、熊さん、泣かせたらだめでしょ」

「……」


 面白半分が二人、本気で叱っているのが一人。

 無言で黙っているのが一人。


(全く、何で俺はいつもこんな目に……)


 久しぶりに感じる展開に呆けた顔をして仁は、この先がどうなるのか分かった予感がした。

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