第27話 たまにはいいじゃない、誰だって愚痴を言いたくなる時もあるんだよ!!
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(随分と、長い時間が経っている気がするな~)
一人、机で頬杖突いて黄昏ている仁、教室の扉前で心配そうな目で見守るアティラ一同が彼を見守っていた。
『あいつ、大丈夫か?前の授業もあんな調子だったぞ』
『私も気になっていました。本当にどうしたのでしょうか?』
『放って置きましょう。どうせくだらない事を考えているに違いないわ』
『いやいや、あの表情からして、何か悩んでいるみたいだぞ……ほれ、ため息吐いた』
小声で会話をするのは、望、アティラ、春香、そして、柔悟。
仁の様子がおかしいと感ずいてからずっとこうして監視しているのだが、仁は彼らに気づく気力もないと見えた。
その代わりに大きなため息を吐き、また思い悩んだ表情に戻り、窓の向こう側の空を眺めだした。
四人は顔を見合わせて頷く。
「おい、仁。何しょぼくれた顔しているんだよお前は!」
「ああ、望か……それに柔悟、春香、アティラさんまで……どうしたの、皆揃って?」
不意に声を掛けたつもりだったが、仁はビクつく事なく目が座ったまま口が笑っている状態で全員に振り向く。
(((いや、お前がどうしたんだよ!?)))
「もう、何をしているのですか?だらけている熊さん、らしくないですよ」
「アティラさん……」
溜め込んでいた鬱憤を吐き出さんばかりに、仁の表情は少しずつ歪め始めていた。
「おいおい、本当にどうしたんだよ?!心ここにあらずって感じじゃんかよ」
「だって、だって……最近出番ないじゃん!!訳の分からんキャラに四話も取られているんだぞ!?作者は流石に俺達の事、蔑ろにし過ぎているじゃん、ねえ、そう思うでしょ!?」
「いや、急に何言い出してんだよ?!作者って何の事だよ……ほら前回の話に戻るよ。ここで拗ねてちゃ、続けるもんも続けられねぇだろ!!」
愚痴を言い始めた仁の服を引っ張り、望は、前回終わった回の現場へと連れて行く。
「嫌だ嫌だ嫌だ。俺は、行きたくない!!」
廊下で一人ごねる男児を顔色悪そうに引っ張るのは、長年の付き合いをしてきた望、そのすぐ後ろにアティラ、春香と柔悟がその様を哀れみの目で見ながら目的の教室に向かった。
正直に言って、この絵面はあまりに情けなく、この物語の主役を担っている一人としての態度では本来ないのだが、彼のわがままに付き合っているアティラと一同の内心は察すれよう。
「はいはい、では、仁……君の台詞……どうぞ」
催促される流れで仁は、前回登場してきたレオンの教室の前に立っており、彼が逃げ去るシーンの台詞から本格的に物語のスタートを切る。
「何だったの今の、初めてに会う人なのに」
見事な棒読みで台詞を口にする。
気力がまだないのか、それとも本気で職務放棄状態に陥ってしまったのか、仁の声からは生気を全く感じない。
「おい、本気だしてくれよ!!テメェがしかりしねぇでどうすんだ!!」
今度怒鳴ったのは他でもない柔悟だった。
まるで抜け殻のような状態の仁にカツを入れるべく説教真似た態度でぶつけるが、やはりというべきか、仁からはまだ生気が感じられない。
「あほらしい。こうなったら秘密兵器を使うしかないじゃない」
次に挑戦したのは、春香だった。
白銀の髪を掻き揚げながら、アティラに合図を送る。
耳元でこそこそと何かを伝えてから、アティラは仁に近づいた。
少し顔を赤くして、近距離の上目遣い。
ここで初めて、仁に感情と呼べるものが蘇る。
こんな至近距離は、誤ってアティラを押し倒したっきりで、それ以降はあまり近づかないように一定の距離を保っていた。
が、しかし、異性がこんな距離でいるのは男性側としては、かなり胸に来るものだ。
密着するかしないかの微妙な距離。
そして、反則的な可愛らしい仕草と視線。
仁にとってこれほどの刺激を与えられたら、無神経ではいられない。
場の空気を読み取り、溜まっていた鬱憤も晴らさせなければならない。
「熊さん……私、熊さんの頑張る姿が見たい、な」
今まで聞いた事のない色っぽい声迫るアティラに仁の心の臓を貫く。
「――ッ!!」
(反則だろ、こんなの!!)
効果抜群の攻撃を受けたみたいに身体中が固まる。
「これで、いいのですか、春香さん」
正しく的の中心を射抜いたが如く、春香が託した台詞をこなしたアティラは、台詞後、春香に視線を向けて自身の出来を確認する。
春香は、ドヤ顔でばっちり親指を立てて、ニヤリと笑う。
「鬼だな、お前……」
さり気なく隣に立っている望が自分の意見を述べる。
望は、春香が仁に好意を持っている事は、小学校から知っている。
しかし、彼女が仁を振り向かせんばかりにかなり過激な嫌がらせを繰り広げて、余計に避けられるようになってしまった。
彼女の行動はどんどん実際の思いと距離を開くばかり。
そんな春香の傍らでずっと見てきた望にとってはかなり痛々しく思えた。
そして、今回もまたライバル――と呼べるかどうかは別として――に塩を送るような真似をしている。
(お前は、本当にそれでいいのかよ……)
眉間にシワを寄せながら望は、密かに彼自身の本音を仕舞い込んだ。
「わかった、ちゃんとするから、勘弁してくれ」
仁は、両手を肩辺りまで上げ、観念した仕草でため息を吐く。
「ちゃんとやればいいんだろ、ちゃんとやれば」
不快な思いをしながらも仁は、気合を持ち直してもう一度自分の役に入り込んだ。




