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もしも、完璧世間知らず娘が現世に召喚されたら  作者: 神田優輝
学園編・続 ~新たな物語の幕開けになった件~
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第26話 偶然が築く軌跡

  42


《引き続きside:R》最終回


 その晩、レオンは端末に印されている点滅が偶然にも鈴菜が通っている学校《星ノ宮学園》だった事を聞かされた。

 奇跡に近いこの偶然にどう接していいものだと思考を何十往復しても物足りない。

 いや、奇跡に呼ぶにはあまりにも出き過ぎた話、まるで誰かによって仕組まれているとさえ思えて来る。

 その事実を全て受け止め、レオンは、世話になった鈴菜に全てを話す事を決意する。


「鈴菜、この度は、助けて頂いた事を改めて感謝申し上げたい……お礼に、僕がこの世界(・・・・)に来た目的と僕が暮らしていた元の世界の事を話したいと思う」


 それから数時間掛けて、レオンは鈴菜に自分が異世界人である事、自分の家庭――或いは生活の様子の事、この世界にある人を探している事、そして、その人がもしかしたらこの学園に通っている生徒か或いは先生である事を話した。

 子供みたいな姿のレオンから話しを聞いていれば、子供の妄想を聞いているようで信じ難いのだ。


「えへへへ、今日はもう疲れたみたい……もっと落ち着いてから――」


 冗談と捉えるのは当然の話で鈴菜の反応は仕方ないのだろう。

 しかし、この反応を前提に似つかわない真剣な表情を向けながら、目力を込めて鈴菜を凝視していた。

 鈴菜に伝わったのか……それとも、どう誤魔化すのかを考えているのかはわからない。

 だが、それでも諦めずに鈴菜の目を見詰め続ける。



 ――信じる信じないで話している訳ではない、彼女は僕の恩人だ……そんな彼女に隠し事をするのは、僕の本意ではない。



 そう、この場合鈴菜の同意や理解を得たい訳ではない。

 隠し事をし続けるのがレオンの意に反するだけである。

 温かい家庭がどのような姿か、夢にしか出てこないような風景を自身で体験する事ができた、お礼代わりなものだ。

 対した理由などない。



 ――でも、もし叶うのなら……



 信じてもらいたい、そう念じる気がした。

 交わした言葉も時間も一日すら経っていないが、それでも多くの事をくれた彼女だからこそ信じてもらいたい思いが秘めいていたからだ。

 下を向いて目を瞑り、声だけを頼りに鈴菜が出す答えを待った。

 カチカチ、と時計の進む音だけが耳に入る。

 視界が真っ暗で一瞬目を開けてみようかと思う時もあったが、レオンは根性とその他諸々の勇気で踏ん張りを見せた。


「ええーっと……今、ちょっと混乱中だけど、信じ切れないけど……レオン君の本気は伝わったよ。時間は掛かるけど少しずつで良かったら、信じられるその時まで君の探している人探すの手伝ってもいいかな」


 予想を斜め上を越え、想定していた答えが全て外れ、レオンは、少しずつ目を見開き、ゆっくりと顔を上げた。


「本当にいいの……?」


 他人からしてみれば、ただの戯言で普通なら聞く耳を持たず一刀両断し見捨てる筈の事を鈴菜は、百パーセント信じられずとも、協力するという答えを出してきた。

 未だに彼女の言葉を信じきれないのか、それとも自分の耳が塞がれて聞き間違えたのか困惑しているレオンは、身体中が固まったまま唖然と座り込んでいた。


「いいんですよ……私、これでも人を見つけ出すの結構得意だからさ」


 得意げな表情を浮かべながら拳を胸に当てる。


「でも、今日はもう寝た寝た。明日早いんだから」


 急かすようにレオンを一階の客室へ移動させる。

 きちんと綺麗に整った部屋には一切の(ほこり)もなく、まるで客人が来る事を予想していたかのようだった。


「あ、これね、実は最近親戚の叔父さんが来てねこの部屋を使ったんだ。でも安心して、ちゃんと布団とか全部洗ってあるから」


(客人は既に来ていたって事か……)


 ため息が出る程に自分の考えが及んでいない事に呆れる。

 もしかしたら、この事態を想定したのか、と勝手に妄想していた自分が恥ずかしく思い始めていた。


「それじゃ、お休み」

「お、お休み……」



(何年振りに誰かにお休みをいったのか、いやそれともこれが初めてなのかもな)


 今や不快に感じていた事が嘘のように掻き消されていた。

 いつの間にか抱いていた不安や孤独も、今レオンがいる環境をより朗らかに心地良いものに引き立たせていた。

 ふかふかな毛布に全身が包まれる程好い感覚と温もり。

 レオンはその晩久し振りに夢を見た。

 叶うのかどうかも判らない家族円満、食卓で三人一緒の食事をいつまでも幸せそうに暮らす、もう一つの可能性を。



 レオンは、知らない天井で朝を迎えた。

 しばらくの間三日月家にお世話にする事にしたレオンは、真っ先に最初の目的地であった図書館を目指した。

 鈴菜が学園に案内すると提案したのだが、行くにもこの世界について知らなさ過ぎる。

 とりあえず、知識が収納している図書館なら様々な情報が入手できるとふんだからだ。

 そして、言葉が通じる今、道に迷う事はない。

 難なく街中に位置する大図書館に辿り着き、我が家の如く本という本を洗い浚い没頭し読み込んだ。

 時にして日暮れ。

 いつの間に八時間が経過している事に気が付いたレオンは、読み込んだ本、計三十冊以上という恐ろしい数を惜しむ顔で元の場所に戻す。

 図書館を出たレオンは、ガーン、と悲惨な事を気づく。


「鈴菜の家の行き方、知らないまま来てしまった!!」


 時々でるレオンの間抜けなさ、無我夢中に何かに取り掛かるとなりやすいこの状況に凹みつつ、とりあえず右往左往しながら町中を徘徊する。

 無自覚にあの公園に辿りさえすれば、きっとまた鈴菜が見つけ出してくれる、そう思い込む事にした。

 しかし、結果は――


(ううう、迷ったぁぁぁ!!迷ってしまったぁぁぁ!!どうすんだよこれ、出かける事自体初めてだからどうしたらいいのか判んないよぉぉぉ!!)


 子供っぽい駄々を捏ね始める。


「あら、坊や。困っているみたいだね。泣かなくていいから、お姉さんが助けて上げてさしあげますよ!」


 聞き逃す事がない凛とした涼やかな声が正面から吹く。

 見るや、長い黒髪を紐でポニーテイルで結び、透き通るような艶やかな白い肌と特徴的な漆黒の瞳と鋭いツリ目を持った若い女性が目の前に立ち塞がっていた。


「な、泣いて何かいないもん、それに坊や言うな、僕は十五歳なんだぞ!!」


 目から滲む水滴を袖で拭きながら虚勢を張り、反論するレオン。


「威勢がいいね、坊や――」


 レオンの言い分を無視して、少し間を置いてから。


【流石、異世界から来ただけはあるみたいだね♪】

「――ッ!!」


 素っ頓狂になるような発言をする女性にレオンは、言葉を失う。



 ――どうやって、ばれた!!いや、それより今の?!



 自分の発言に異世界から来た事かどうかは兎も角、さっきの彼女の言葉、確かに耳に慣れ親しんだ言葉だった。


【もしかして、お姉さんもあの世界の人?!】


 聞くしかなかった。

 状況を分析せずとも自然にこの問いが生まれるのは当然の事。

 しかし、黒髪のお姉さんは何も言わず、レオンに紙切れを渡した。

 そして、帰り際に一言。


「明日、この先にある公園でまた会おう、坊や」


 黒髪の女性は、夕日に溶け込むようにその姿を消した。



 レオンは、渡された紙切れの中身を確認する。

 そこには、住所らしき文字と番号の横並びに記されているだけだった。

 勿論、レオンはこの住所の意味合いを知る由もない。

 紙切れにはもう一言が書かれていた。


『追記:人に尋ねるといいよ』


 レオンは、その女性が書き残した紙の指示通りに歩く人を手当たり次第問い掛けまくった。

 そして、遂には――


「嘘だろ……」


 鈴菜の家の前に立っていた。


(一体何者だ、あの女!?)

――そう考えざるを得なかった。



 ピンポーン、と呼び鈴を鳴らし、鈴菜が扉を開けた。


「レオン君!結構遅くまで何してたの、心配したんだから!?」


 レオンは現在、叱りを受けていた。



 その翌日。

 指定されていた場所にレオンはその女性が来るのを待っていた。


【くそッ!!来ないじゃないか!?】


 他人に聞かれないように異世界語で対応する。


「あら、失敬ね。私はずっとここにいたけど?」

レオンの真後ろ、新聞を読んでいる人と見せかけて、ずっとレオンの事を監視していた。

「ぬわっ!!」


 今まで発した事のない声で驚くレオンは、警戒心MAXで二、三歩後ろへ下がる。


「お、おはようございます……」

「そんなに警戒しなくてもいいのに」


(警戒するわ!!)


 この世で一番軽快すべき事は自分の知らない何かだけ、とずっとレオンは思ってきた。

 そのために情報を集め、知識を蓄えてきた。

 情報を制する者はのちに世界を制する事ができる――と大げさにも考えていた頃の自分を思い出す。

 そして、勿論得たいの知らないものには最大の警戒を掛けなければならない。


「なるほどね、そういう性格か……」


 女性は、警戒心を解くため、両手を挙げ、害がない事を示す。


「まあ、とりあえず座りましょう。お話があるから」


 少し警戒を下げ、距離を取りながら近くのベンチに座る。



「それで、話ってのは?」


 目的を尋ねるレオンに女性は苦笑して答える。


「なーに、単純な話さ。坊や、探している人がいるんでしょう?」

「な、何故その事知っている?!」


 警戒をまた上げ、恐る恐る問い返す。


「そんな事、今はいいんだ……それより、星ノ宮学園に入学する気はない?」


(どこまで知ってんだ、この人)


 唐突に学園の入学を申しだす女性に若干引くが、彼女が出す提案は実に現在求める最高の機会であると判断できる。


「何も企んでなどいないよ、ただこの学園をもっと面白くするために君の協力が必要なだけだ……それで、受ける受けない?」


 急かすように話を促進する女性にレオンは、はいの選択肢以外の可能性を失わせる。


「は、はい」

「そうか、良かった!!あ、でも入学するには、試験を受けなきゃいけないんだよね、でも君なら大丈夫、きっと受かるから!!んじゃ、行きますか」


 マイペース代表の女性に誘われ、レオンは成すがまま学園の入り口まで連れて込まれた。


「学園長先生とはもう既に話しが進めてあるから、今すぐに始められるよ」


(どうして、こんな事にになっているんだっけ?)


 自身に問い掛けるが、それは自身が一番理解していない。

 何故こんな状況になっているかなんて、答えは一つ。

 腕を掴んでいるこの女性が有無を言わさず話の流れをどんどん加速させ、着いていけない所まで導いたからである。



 訳もわからないまま机につき、手渡された厚さ五十ミリの試験紙を二時間で終わらなさなければならない。

 正に地獄の試験なのだが、レオンが試験に集中しだした瞬間、光速を越えるスピードでどんどん試験紙が答えられていった。

 試験中、知らせを兼ねてチャイムが一時間間隔で鳴り響く。

 しかし、一回目のチャイムが鳴る前に、レオンは試験を終わらせた。

 摩擦で煙を発しているペンを置き、試験を試験管に手渡した。

 試験管はというと口を開いたまま、受け取り『お疲れ様』の一言だけ言って、レオンは、結果を待合室で待った。


「おう、終わったみたいだね」


 再び、あの女性が現れ、何の躊躇もなくフルーツ牛乳をレオンに手渡す。


「でも、予想以上に早く終わったね。考えていたより十分は早かったよ」

「そんなに対した時間じゃないじゃん。昔から、これしか取り得しかなかったんだ……」

「試験を答える事?」

「違う!!……知識を蓄える事だよ。だから、試験には、教科書や本に載っている所から問題を出すのなら答えるのは簡単だ」


 普通なら羨ましがるその才能だが、レオンは少し悲しげな表情で語る。


「まあ、いいんじゃない。人はそれぞれ得意不得意がある。それが極端だろうとそれはきっと君を助けてくれる才能だ。だから誇ってもいいし、存分に発揮しなさい。それが必ず君の道しるべになるからさ」


 レオンは女性の言葉を聞いて、目を真ん丸く見開く。


「凄い……まともな事も言えるのだな」

「もっと私の言葉に感動しろよ、坊や」


 意外な反応で驚いていたレオンにピチッと堪忍袋の糸が切れ、黒髪の女性は、レオンのこめかみを弄り返す。


「いたたたた。こめかみは駄目!?」


 痛みを感じながらも、レオンは女性の一言に深く刻んでいた。

 ひどく感動していたとも置き換えてもいい。



 ――それが極端だろうとそれはきっと君を助けてくれる才能だ。だから誇ってもいいし、存分に発揮しなさい。それが必ず君の道しるべになるからさ。



 その言葉をどんな意味で言ったのかは本人にしかわからない。

 しかし、そのまま自分で捉えた意味で残したい。

 たとえ、間違った語釈しても、それが正しいと思えていれば、それが正解なのだから。



 二時間後、レオンの合格通知が発表された。

 創立以来、転入試験最高成績を収めた生徒として、この学園にその名が刻まれた。



「君の転入は来週だ。きちんと用意しときな」


 帰り道、レオンはその女性とまだ共に行動していた。


「まだ……」

「ん?どうした、坊や」

「まだ、貴方(あんた)の名前聞いていない」


 かなりの時間が経っているが、未だに名前で呼びあっていない事に気づく。


「そういえば、そうだ」

「僕は、レオン、レオン=シュッファー」


 珍しい名前もあるものだと、女性は思ったが、すぐに自分も名乗る。


「私は、明日香、熊野明日香だ、よろしく、レオ坊」


 ニカッと笑い、レオンの手を取り、握手を交わした。

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