第24話 想い人の追求/もう一つの出会い ※
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《引き続きside:R》
地球というなの世界に到着したレオンは、乗っていた時空渡りは、幸いな事に、人気のない場所に転送されていた。
「いたたた、やっぱりこいつはまだ調整が必要だな……んで、ここはどこだ?」
着地の衝撃で腰を強く打ち、痛みに耐えながらもレオンは、【サクラ】と呼ぶ女性の行方を捜すべく、到着した世界の周辺を見渡す。
「誰も、見ていないな……よし、行こう!」
小型探知機を手に、【サクラ】の居場所を探り出す。
時間帯も知らない全く異なった世界でも、共通する点は幾つもある。
その一つは――太陽。
明るく、太陽の位置は真上――おそらく時間的には、人が最も活動している。
唯一不可解なのは、この世界の建造物だ。
兎に角、一言で説明すると……高い!!
どの建造物も人の何十倍もの高さを誇る。
しかも、使用されている物質は木材ではなく、石?に近い何か。
古来より、石を生成するには高い熱量と大量の土が必要だ。
だが、人の手にはあまりにも届かない高みにあった筈だった。
けど、見よ!!この素晴らしき芸術を。
これが人の業でできるものなのか!?
レオンは、感嘆と高層ビルの数々を眺める。
文明の発展とは生ぬるい言い方。
これが人類が辿るべき未来、希望、科学の頂点。
知らない文化、知らないものに囲まれるこの世界は、おそらくレオンには、宛ら遺跡に眠る財宝の如く輝きに見えるだろう。
自分の世界では全てを知り尽くしていたため、新たな研究に没頭する毎日であった。
そこで人生の刺激になった女性――【サクラ】――と出会い、この世界までやってきた。
「はっ!?そうだ、僕は、サクラを探すためにこの世界にやってきたのだった!!」
元の目的を思い出し、レオンは、薄暗い道を歩き、物音が激しい光が照らす方角へ進む。
「しかし、何でここには誰もいないんだ。ここは立派な通り道の筈なのに……」
路地裏を立派と述べるレオン、彼が大通りに出た瞬間の反応が待ち遠しくなるものだ。
「何だ何だ、この騒ぎは!!」
光の方角へ近づくに連れ、物音が雑音に転じる。
視界一杯、目を瞑らせねばならない程の光を浴び、数秒間盲目になった感覚を味わいながら、雑音の正体を知る事になる。
「な、何だこの人の量は!?何かの祭りか何かか?!」
動揺を誘う取り巻く人の大行列。
歩くのに人を避けないとぶつかるというのは祭り以外知らない。
しかも小さな場所で開かれた祭りなのに、ここでは見渡す限り人、人、人。
地平線も見えない程に埋め尽くされている。
『おい見ろあいつ』
『何々、おっ!ガキのくせに髪染めてあがるぞ!!』
『それよりあの服、すげぇーな』
『え~、やだ~、可愛いじゃない!!』
いつの間にか注目を浴びる始末。
レオンは、身を動けず固まったまま立ち尽くす。
小さな村で住んでいたレオンは、極度の人見知り。
人を避けるように研究所に引き篭もったり、依頼される事は全て手紙越しで行われてきた。
そんな人が今現在進行形で千を越える人に注目を浴びている。
注目にも理由がある。
特徴ある赤色の髪、しかも小さいながらもパーマスタイル。
童顔の上に着ている服が決めてとなっている。
博士っぽく見せる白衣、その下には見た事のない民族的な衣装。
茶色、緑色、赤色、黄色に青色の計五色。
これを無視して歩き続ける人は鈍臭い人だけだ。
(どどど、どうしよう?!異世界に来て早速ピンチなんですけど!!)
「僕、迷子ですか?お母さんはどこにいますか?」
一人の若い女性がレオンを訪ねる。
格好からして、まだ十歳も満たない見た目に同様のあまり涙目になっている所為で迷子になって泣き出しそうな子供に見えてしまう。
【うるせぇ、触らないでもらえる】
人見知りから来る所為なのか、反射的に女性を拒絶する。
「ちょっ、何訳の解らない事を言っているの?!折角優しくして上げたというのに!!」
レオン自身は、女性の言葉ははっきりと聞き取れて、理解もできないのに、自分の言葉が通じないと理解する。
女性は、怒って去ってしまい、だが、話し掛けられたお陰で幾つか抱えていた疑問が解けた。
一つ、言葉が通じるのか?――こっちは判っても、相手は判らない。
二つ、ここに住む人は、自分の知っている人である。
三つ、話し掛けてくれた女性の言葉遣いも流暢で丁寧、教育の面に関しては、しっかりしている。
この情報からは、自分が置かれている建造物の数々の中のどれかに書物を扱う場所も確実に存在すると仮定できる。
だが、一つ問題が発生する。
(どうやって探せばいいんだ!?)
言葉が通じない、それ以前に人に尋ねる勇気もない。
凝り固まって、それで終了。
そして、この世界の字も理解できない。
機材もなく便利な道具も作れない。
成す術もなく、手当たり次第に探すしかない。
歩き続ける事三時間。
レオンは、未だに書物のある場所を探し当てる事もできず、人目を避ける道ばかりを探していた。
(はぁ~、全然見つかんねぇ)
ぐぐぐ~
腹の音が鳴り響き、空腹感で身体中の力が抜けていく感覚に蝕まれる。
「腹が空いたな~、以前、村では決まった時間に運んでくれたものだが、流石にこの世界ではそうもいかないな~」
近くにある公園のベンチに腰を下ろす。
太陽もかなり沈みかけている。
そろそろ夜になりそうな時間帯に辺りの風がふぅ~って文字通り、背筋が凍りつく程冷えてきた。
幸い、重ねがけで着ている服で少しは、大丈夫だけど……それでも冬に近づいている十一月中旬ではかなり厳しい状況と言えよう。
【はぁ~、しかし、本当にお腹が空いたな~】
バサッ!
聞いた事もない音を聞き入れてレオンは、危険を感じ、ベンチの後ろに素早く隠れる。
その間僅か0.5秒――かなりのスピードだ。
覗き見るように、ベンチから顔半分を出すと、そこには、また新たな若い女性が差し伸べる形で何かを握っていた。
「そんなに警戒しなくても、危険なものではないよ。お腹を押さえていたから、お腹が空かしているだろうな~って思って急いで買ってきた」
頬から滴る雫が幾つか見受けられる。
かなり急いで来てもらった事は確かだそうだ。
受け取ったものは、カシパン、という甘く炭水化物が豊富な食べ物らしい。
砂糖をベースにフルーティな味わいと仄かに香るパンのお焦げ、かなりの絶品みたいだ。
一口齧ると、口の中の唾液と混ざり合って、乾いていたパンに湿気が足され、食べる前の香りが一層引き立たされる。
【おいしい……】
判らないであろうレオンの言葉に女性は、まるで判っているかのように――
「良かったね♪」
――と、答えた。
直接目線を逸らしていたレオンは、目を半分に閉じながら食べ物をくれた女性の顔に視線を向ける。
高い声をしていた女性から大凡の推測していたが、かなり若い女性みたいだ。
自分と同じかそれよりも年下の女の子。
首元までしか伸びていない茶色い髪、長くて凛としたまつ毛、桃色の唇に透き通るような艶やかな白い肌。
そして、一番魅力的な優しい目つき。
身に纏った衣類も何処か独特の濃い青に同色の短いスカート、首には何やら柔らかそうな布を巻いている。
見詰められながら彼女は、首を傾げ尋ねた。
「君、お名前は?私は、三日月鈴菜、よろしくね♪」
これが、ここの世界の挨拶。
レオンは、彼女を真似て、自己紹介を試みる。
「わ、私は、レオン、よ、よろしゅくね?」
カタカタとしながら慣れない言語を喋るのはどうにも苦手でよく噛んだりする。
だが、初めて聞く言語に対応できるのも、流石天才少年と呼ぶべきか。
「レオン君ね。あっ!もしかして、外国の子……確かに見慣れない格好と髪色だけど……ん~、ええーと判らない事があったら手の動きをしてみたらどうかな?」
片言に聞こえたのがこの結果を生んだのか、しかし、レオンは、この世界には様々な言語が存在する事を知った。
それは、さて置いとき、鈴菜が会話の手段として、手の動きと説明した、いわゆるジェスチャーを用いてきた。
確かに、それだと言葉が通じずとも、何となく意図が汲み取れる。
発達した世界がこれ程までに魅力的とは考えもしなかった。
だが、何かを忘れているような気がして、ズバッと脳裏に電流が走る。
当初の目的【サクラ】探しだが、やはりこの世界の事を知る方が何分便利と考えたのだろうレオンは、鈴菜に書物が一杯ある場所を尋ねてみた。
今度は言葉を使わずに手の動きだけで。
まず、レオンは、大きな四角物を両人差し指で描く。
その四角い物を横に倒し、ページを捲る仕草をする。
鈴菜も、レオンの二つの動作で理解したらしく、レオンは更に縮こまってからの大きな万歳で一杯という表現をしてみせた。
当の本人は不本意に馬鹿馬鹿しくて涙が出てきそうだが、これで理解できる筈。
「最初のは、本だよね……それから沢山……本が沢山、ある場所……そこに行きたいの?」
鈴菜の見事な回答にレオンは大きく頷く。
が、しかし――
「ごめんね、連れてってあげたいけど、私の家、門限が厳しいんだ。だから今回は本当にごめん」
申し訳なさそうに論菜は、両手を合わせて謝罪する。
制限された外出、この世界ではそんなルールが存在するのかとレオンは思った。
だが、鈴菜は、ふと気づく。
(こんな時間に、子供が薄暗い公園をうろつくなんて……もしかして、孤児?!)
などと哀れみの目でレオンを見つめる。
「家に帰らないの?」
家どころか帰る場所なんて存在しない。
何せ【サクラ】を追い掛けたいがために異世界に飛び出してきたのだから、到着してその後の事は一切何も考えていない。
自分の無鉄砲さに飽き飽きしながら、暗い表情で気づかず横に振る。
レオンの表情を見た鈴菜は、何を考えたのか、覚悟を決めた目で、改めてレオンに尋ねる。
「じゃあ、うちに来なよ!」
唐突で意外な誘いだった。
初めて出会った見ず知らずの少年にここまで親切する義理は彼女にはない筈なのに、今まで出会った人からは、いい様に使われるだけど人生だと幼いながらも理解していた。
だから、こうも優しくされると調子が狂う。
レオンは、言葉を失い、何故人見知りな自分が彼女に対して普通に接する事ができるのか、ようやく解った気がする。
ある程度の許容量範囲の人数を超えると怯える体質だと思っていた。
人一人ならまだ落ち着けるだろうと勝手に思っていたが、それは違った。
それは、鈴菜が少し【サクラ】に似ているからだと気づく。
勿論これで恋愛に発展する話ではないが、気分が落ち着ける点に関しては、同じかもしれない。
切ない思いを胸に、小さく頷く。
帰り道。
レオンは、探知機を見詰めていた。
点滅するドットは、来た頃と比べるとかなりの移動をしている。
だが、記録を調べると、少なくとも三時間は、同じ場所にいた事は調べてわかっていた。
隣で同じ端末を見ていた鈴菜は、記録に残っていた点滅地点をじーッと見ていた。




