第21話 症テスト 閉幕 ~いつも通りの日常へ~
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まさか、母がこの最終試験に関わっていたとは、と一瞬思ったが、言葉が足りなかった。
まさか、明日香がこの試験を一任されていたとは、夢でも思っていない。
いや、ただ考えたくないんだ。
明日香が現れた時点で仁が抱えていたほぼ全ての違和感が解決したからだ。
――何故、個人ではなくペアになっていたのか?
――何故、偶然にもアティラと自分が一緒になったのか?
――何故、一夜にして学園をこんなにも改造できたのか?
その全てが明らかになった時、仁はアティラとペアを組めたのがラッキーだと言っていたのが急激に恥ずかしく感じていた。
それが自分の母親が仕組んだと気づいてしまえば。
(くそぉぉぉーーー!!母さんめ、薄々感づいていたが――(嘘)――まさか本当にこんな仕掛けまでしていたとは)
『お前ら、最終試験楽しめたか?んで、こんな試験に何の意味があるのかと思われると思うが、それはあれだ……』
マイクを渡された明日香は、ドンと足を前に構え何かを語りだす。
(ああ~、絶対今考えてるパターンだ)
マイクを持ったまま、少しばかり考え出した明日香は、再度マイクを口に近づける。
『ペアになったのは、協調性を促し、ステージ事にテーマを決めた。密林には、人間が時の流れによって鈍らせてきた本能を呼び覚まし、校舎内の机や椅子の迷宮では機動性や判断力を強化し、体育館の黒暗室では目に頼らない他の感覚を使う事が多かったと思う』
咄嗟の思いつきにしては割と正論を言っている気がしなくもない。
もしかしたら、本当にそれが目的で編まれた試験だったとさえ思えてくる。
『では、僭越ながら今回の優勝者の発表を行いたいと思います――』
気のせいだろうか、後ろの先生方が慌しく蠢いているように見える。
(まさか……母さん――勝手に指揮しているって事を……)
『え~え、では1位は――』
「熊野さん、困りますよ……勝手な事されたら……」
困った顔をして、学園長が明日香に注意する。
発表の中断され、明日香は学園長に視線を向ける。
「学園長――」
マイクから離れ、学園長の両目をにこやかに明日香は凝視する。
その微笑を見せられた者を続々と気圧させ、逆らえる気を奪い取る。
峻厳を誇るこの学園の長たる学園長先生でも、彼女の威圧感には敵わなかったみたいだ。
「私が発表します。良いですね?」
「は、はい。是非、お願いします……」
最高の笑顔と引き換えに学園長は、明日香の要望を受諾する。
その光景を見て、生徒達はお互いにひそひそと辺りが妙なざわめきを放っていた。
明日香は、改めてマイクを持ち直して、高く大きな声で発表の続きを言う。
『それじゃあ、改めて、一年生諸君の第1位に輝いたペアは、喜多見、オールブライトペア』
うおおお、と盛大な歓声と拍手が一面に響き渡る。
あのドタバタとしたペアがどうやって優勝したのかはまだはっきりとしないが、運動神経がいい二人、そして天才的な頭脳を持つニーナがいれば何とかなる。
『第2位には、川原、葉山ペア――そして、第3位にアティラ――』
――あれ?
最後のは何か聞き間違いだろうか?
何か雑音が入って、聞き取れなかったのであろう。
何か言い忘れたとか考えられる。
だが、明日香は、続けて。
『以上この五名に前まで来てもらいましょう』
――あれ?
あり得ない内容を口にする。
ペアが基本のこの試験に奇数の呼び出し。
何故だ?
何故に五名だけ?
一人たりないではないか。
(って、それ俺じゃんか!?)
「異議あり!!母さん何で俺が呼び出されないんだ!?アティラと一緒のペアなのに!!」
明日香は息子の発言を聞いて首を傾げる。
そして、単純明快な言葉で仁の異議する言葉を一刀両断する。
「え~え、だってお前、ゴールしてないじゃん」
――ガーーーーーン!!
口を開きっぱなしで返す言葉が見つからなかった。
確かにアティラは全てのバッジ、全てのリストバンドを携えてゴールに向かった。
そして、彼女に誰も追いつけないように自分が庇うように通せん坊をする。
その時はこうでもしない限り勝てる事はできなかった。
更にこの試験はペアで行動するとばかり考えていたからてっきり誰か一人でも優勝すればそれで良いと思った。
だが、仁は自分の考えの浅さを悟る。
(そうだった……相手は、母さんだった……)
考える全ての発想の斜め上をいく人だからこそ、この結果になった。
これは、あくまでペアの試験として行われた。
だが、第一にこの試験の自体は個人。
説明でも、一人でもゴールすればそのペアが優勝するとは言っていない。
仁は、四つ這いになって地に伏した。
勝った筈なのに負けた、それも文字通りに……
優勝者は五名、その中にいる筈だった仁は他の生徒と同じく敗者となった。
(そんな理不尽なーーーーー!!)
現実は残酷であった。
明日香は、優勝者達にメダルを与え、発表の続きをした。
これにて、長かった小テストもようやく無事に閉幕されたのである。
(全然、無事に終わってねぇーーよ!!)




