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もしも、完璧世間知らず娘が現世に召喚されたら  作者: 神田優輝
学園編 ~新入生が天然美少女だった件~
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第18話 障害物競走 ~密林と家具の迷宮とバッジ集め~

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 障害物競走が開始されてから既に十分が経過している。


(おい、これのどこが障害物競走なんだよ)



 試験のルールは極めて簡単だった。

 まず、パートナとなる相手と一緒に①と刻まれたバッジを受け取り、それらをこの競争の中に設置されている複数のバッジを手に入れなければならない。

 集めるバッジは数字の一から五なのだが、学園長が話していた1位から3位までしか優勝できない理由は、着順と言いながらも全てのバッジを揃わなければならない。

 そして、一から四番目のバッジは全てのペアに行き渡るようにあるが、肝心の五番目のバッジは三枚しかないのだ。

 そんでもって気になる競争会場かというと、グラウンドに設置された林、密林とも言っても良い、そして、校舎内の一階から二階、体育館の計三箇所に分かれている。

 それぞれに複数のバッジが設置されているが五番目のバッジは、いずれかの場所に隠されているか、あるいはこの三箇所に一つずつ隠されているのかのどれか。

 だが、ゴールするためには、密林、校舎内、体育館の三箇所全てに足を運ばなければならない。

 各場所に色の付いたリストバンドが置かれておりそれを各々のペアに装備してもらう。

 ルールだけを聞くと見事に障害物競走という単語を見事に裏切っている。

 何故、障害物競走と呼んでいるのかすら怪しいが、まあ、それは実にどうでもいい。

 このレースに参加するのは一年ずつ全員だ。

 つまり、これは列記としたバッジ争奪戦レースである。



 開始場所は密林。

 そして、開始早々にこの密林の中に囚われてしまった。


「困りましたね、ここも通った道ですよ、熊さん」


 決して複雑だから迷った訳ではない、単純に構造が似ているというレベルに過ぎないと勘違いして真っ直ぐ歩いていけばいずれ出口に出られる――そう信じて歩いていたけど、肝心なバッジ探しに夢中になり、東西南北を見失ってしまったのである。

 勿論、緑色のリストバンドも密林の入り口に入手し、アティラが右腕に付ける。

 今も既に数字の③まで回収済みだが、やはり焦りすぎた。

 このまま真っ直ぐ密林を出て、他の場所でバッジ集めに専念した方が良かったのではないのか、と情けながら、自分の甘さに気落ちしている仁にアティラが彼を呼びかける。


「熊さん、落ち込んでいる暇はないのです。どうにかして、ここから脱出しないと」

「あ、ああ、そうですね。すいませんちょっと考え事しちゃってて……」

「いいえ、気にはしていませんが、ここは私にお任せ下さい!」


 先頭に立ち、周りの空気を吸い始めたアティラは、目を瞑り意識を集中させる。

 些細な風の音、密林から聞こえて来る出場者達の止め処ない戸惑いの声、レースを見守る観客――二、三年生――の声。

 ありとあらゆる声を耳元でキャッチし、自分達の位置を特定を計らうアティラ。

 仁は、驚いた様子で見守る。


(わ~、さすが自然に生きていただけあって、野生の勘ってやつかな?)


 精神統一を体現した姿でアティラの五感を全て振り絞って出口らしき道を探りを入れる。


『何なんだよここは!?』

『キャーー、蛇ぃ!?』


 超感覚に目覚めた聴覚に所々に悲鳴にも似た叫びが聞こえて来る。

 それは、仁にも聞こえている。


「ぬ~、結構雑音が多すぎます」

(アティラさん、実に時々出るSっ気、マジたまらないな~)


 自然と日常で学んでいった言葉を無自覚に吐くアティラ。

 意味的には間違っていないが響きに難あり。

 数秒後、アティラは目を開き真っ直ぐ仁の両目を笑顔で直視する。


「見つけました!!」


 素早く仁の手を引いて、密林を駆け抜ける。

 真っ直ぐ走って、右、右、左、右、左、真っ直ぐの順に曲がったりして、密林の中に光が見える。


「出口か?」

「かもしれません」


 若干腑に落ちない言い回しだが今は出口の事で頭がいっぱいだった。



 この迷路を何人抜け出しているのか?

 或いは、密林(ここ)のバッジを諦め、次のステージに移ったのか?

 可能性は幾つか考えられるが、やはり出なければ何もわからない。

 光を抜け出すと、グラウンドの端っこに出ていた。


「やったぁー!!」


 仁はアティラに向けて感謝をし、今度は彼が彼女の手を引っ張った。


(やべぇ、楽しくなってきた!!)


 試験に対する緊張感とは裏腹に心の底で魅かれる人の隣で楽しいという思いが表れ始める。

 予想通り何ペアかは脱出に成功したのか或いは、真っ直ぐ出口を目指したのかは判らないがいた。

 白線に従って道を辿るとどうやら次のステージは校舎内のようだ。

 入り口に大量の黄色いリストバンドが置かれていて、その一つを今度は仁の腕に翳す。

 中に入ると廊下には無数の机や椅子が巧みに人がそう簡単に通れないように積み重なっている。


「ん~ん」

「どうかしましたか?」


 不意にアティラが仁の(しか)め面を伺いながら尋ねる。


「いや、対した事ないはありませんけど、林の脱出が妙に簡単に思えまして、まだ何かあるのではないのかと……」


 考えすぎだろうか、名門校で逸材揃いでも高校生は高校生。

 破れない構造にはなっていなかっただけなのか。

 疑問を抱かせるような点も幾つかはあった。

 しかし、この試験の目的が単純に生徒の身体能力を見極めるにしては、遊び要素が満載なこの最終試験にはまだ何かがある、そう思わずにはいられない予感がしていた。


「ここ、引っかかりやすいから気をつけてください」

「はい、ありがとうございます」


 体勢のバランスが取り辛い廊下の机と椅子の迷路。

 二人で協力しあえなければならない場面も実はかなりあった。


「あ、ありましたよ、④のバッジ」


 折り重なった机と椅子の奥深く、アティラの動体視力が高いのか、それともたまたま光反射でバッジ自身が光り出したのかはわからないが、これで①から④番目のバッジが全て揃った。


「大手柄です、アティラさん!!」

「はい!!」


 二人は微笑みながらお互いの距離が近くなった事に気づきもせずに残す⑤番目のバッジの行方を探す。

 だが、探しても探しても見つかるのは①、②、③、④のバッジのみ。

 五つ目は気配すら感じない。

 校舎内の廊下は、入り口から体育館に直結している道までは約百五十メートル。

 しかし、四分の三を通っても見つからないとなると見つけ出すのはかなり厳しい。

 これ以上探しても意味はないと判断し、アティラと仁は次のステージである体育館へ行く事に決める。


(つーか、俺――何の役にも立ってねぇじゃん!!)

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