第17話 最終試験、障害物競走の開幕式
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迎えてしまった最終試験の日。
「――って、なんじゃこりゃーーー!!」
目の前の光景があまりにも凄まじく、仁達は絶句する。
それは、あまりにも異質に感じる部分で言葉で表現するにはとても簡単なものだった。
「校舎が完全に改造してあがる!!」
これは、まるで夢でも見ているような光景に等しい。
まず、校門前には『最終試験・障害物競走』と書かれた文字が大きく飾られている。
至る所に道ができ、トラックの白線が校舎内にも広がっていた。
一先ず、昨日の報告によると、翌日――つまり今日――学園に到着後、速やかにグラウンドに集合と先生方の指示が下されていた。
だから、仁達はその指示通りにグラウンドに向かおうとしたその時――
「来たわねアティラさん。今日こそ私達の勝負にけりをつけましょう」
ニーナがいつから待っていたのかは定かではないが、凛々しく立ち尽くした状態でアティラを待っていた。
「おはようございます、ニーナさん」
「おはようじゃありません。私がどんなに待ったかも知らないくせにぃぃ」
(おっ!まさか、あっさりと認めようとは)
次第に涙も滲み出して、我慢の限界に来たニーナは、またしてもアティラに指を差して叫ぶ。
何時頃に学校についていたのかはやはり定かではないが、随分と待っていた事は火を見るよりも明らかだろう。
望、柔悟、春香、アティラ、ニーナと仁で目的のグラウンドまで向かう。
だが、その途中で多くの生徒が呆然と立ち尽くしているのが見えた。
――何故、全員グラウンドに向かわないんだ?
誰かがそう問うっているように感じる。
そして、グラウンド手前に全員の足が止まった。
「何だよ、これ」
「嘘だろ。こりゃ一体、何の冗談だ……」
変形していたのは校舎内だけではなかった事に気づく。
「……ここ、グラウンド、だよね……」
長い間待っていたニーナがどうやらグラウンドまで行っていなかったらしい。
ここまで来ると彼女がアティラに抱いている執念に尊敬するに値する人間になってきた。
常にトップを目指す家庭とは前々から知っていたものの、今まで彼女を打ち破る程の実力を持った人はいなかった。
だからこそそんな必死に誰かを待つというか、ニーナが誰かに興味……とは言い間違いかもしれないけど、誰かに対してここまで注目する所を見るのは、正直言って、新鮮味に溢れる。
だが、確かにこの光景はあまりにも異質極まりない。
誰が想像できようか。
たった一晩でグラウンドに林を生やすなんて――
この学園は行事や試験にある程度の大胆さが有名だが、ここまでやるとは今までにない例なのだろう。
これを見ると校門前の飾りなど可愛く見える。
いや、表現が間違えているのかもしれない、正すなら、そう――大した事はない、だ。
だが妙な事に林には、白線がまだ見えている。
その中に何があるのはまだ知らないが、林が試験会場なのだろう。
なるほど、障害物競走としては申し分ない細工だ。
名門校と呼ぶだけはあると見えた。
だが、自然と視線は二、三年の生徒に誘導された。
彼らが発した一言の所為だ。
「何だよ、これ!!こんなの聞いてねぇぞ!!」
この最終試験を経験している彼らでさえこの反応。
明らかに今年の試験は難解だと思えざるを得ない。
「どうやら、今年の試験、最っ高に特別に難しいようだ。面白くなってきたじゃねぇか!!」
拳をもう片手に打ち付け柔悟が吼える。
「そうですね。私も森の中でたくさん遊んだ事がありますから、楽しみです!」
アティラも俄然燃えていると輝く彼女の目でわかる。
(まあ、今回はアティラが得意そうだ分野だから心配いらないか――それよりも……俺の心配をしろよ、俺ぇぇーーー!!)
現時点で一年男子73人中72位だ。
はっきり言ってかなりの大ピンチを迎えている最中だ。
もう後がない状態で本当にいけるのかと不安をしていたが、学園長の一言が仁を救った。
『では、皆さん。現状を見て落ち着けないとは思いますが最終試験の内容を発表します。この試験では、着順に応じて、1位の組に総計500ポイントを与えるとします――』
「ご、五百ポイントって!おいおい、今までの試験は精々10や20ポイントが限界だったのに、これじゃいままでの試験が無駄になっちゃうじゃん!!」
望の言い分は正しい、それこそが仁の起死回生のチャンスだ。
『そして、2位の組には、100ポイント――』
2位で400ポイントの差が生まれてしまうが、それでもまだ一年総合得点2位になれるチャンスは消えない。
『そして、3位の組には、50ポイント――』
まだまだ望みは消えない。
『それ以降は0ポイントとする』
ここで全ての運命が定められた。
着順3位までポイントを与えられる、その他の順位でポイントを稼げるのは不可能。
これを意味しているのは――
下位の者達には苦難を強いられるがチャンスを与える。
そして、上位の者達は、下位らを妨害し自分の順位を守る筈だった――
『言い忘れていたが今回の試験……3位以上の者以外全員ペナルティーだ』
希望はあっさりと砕かれた。
この試験ではこの3位以上の争奪戦は避けられない。
「まだ、何かありそうだ」
だが、まだ気がかりな部分を残している、と仁は思う。
学園長の言葉に何らかの違和感を感じた所為だ。
ポイントを言う前にいった言葉。
「そうだ!!組だ。これは、ペアで勝ち取る試験だ!!」
「ペアだと!?何でまた?」
疑問を抱くのも無理はない。
今までの試験ではあくまで個人を測っていたからだ。
それをいきなりペアでポイントを稼げといっても合点はいかない。
どういう意図でそのように組み込まれたのかは解かろう筈もないが、納得はいかない。
『では、これより、くじでペアを決める。目の前に六つの箱が置かれています。一、二、三年男女に別れている。一番左が一年、左の箱と右の箱にはそれぞれ番号が入っています。男子と女子と別れて取り、同じ番号を持っている人でペアが決まります……後、一年は一組だけ三人いるので、一人になるという心配はいりません』
こんな大掛かりな設定に驚きつつも全校生徒、それぞれ自分の学年そして性別に別れ、紙を引く列で並ぶ。
ペアだどんどん決まり、仁は自分のを引く。
【24】。
アティラも自分のを引く。
【24】。
(ありがとう~神様ぁ~!!)
奇跡は無事起きたのだった。
「同じ数字……熊さん……同じチームだね♪」
アティラ本人も知っている人と同じペアになれて笑顔で迎える。
やはり知り合いとそうでないのと比べると何倍か安心できるのであろう。
「くそ羨ましいなお前ぇーー!!」
本気で悔しがる望もまた何とも言えぬ縁か、彼のペアは春香だった。
「私だって、貴方と何か組みたくはなかったわよ!」
二人は不満げに仁、アティラペアを羨ましそうに見詰める。
春香は仁と、そして望はアティラと。
それぞれの望まぬ結果に非常に残念がる。
「ん?どうしたんだお前ら。まさかこういう組み合わせになるとはな」
何食わぬ顔で柔悟が現れる。
中々にこのような面子で揃うのもやはりと呼ぶに相応しい因果関係をも思わせる顔触れ揃い。
「よう、柔悟お前のペアは……え~えっ!!マジ、かよ……」
「ふん、何よ。くじで決まったんだから仕方ないじゃない。それと、柔悟だったっけ?私の邪魔だけはしないでよね、後、足手まといも許さないから、しゃきっと私に貢献なさいよ!!」
人一倍態度のデカイ性格、金色の髪を優雅に掻き揚げる様はお嬢様と呼ばざるを得ないニーナの華麗な姿。
「んだよ。俺はお前の言う事聞く義務はないんだぜ……けど、負けるのも癪だし一つ借りにしといてやってもいいぜ」
柔悟も勝るとも劣らない態度を示し返す。
「ふっ、私より優れている者だけしか聞く耳持たないわ。だけど、そうだね。もし見事優勝したら、その減らず口、許してやらんでもないぞ」
「かっ、言ってろ。お前よりも先にゴールしてやるぜ!!」
早速喧嘩し出したニーナと柔悟。
お互いを信じているのか信じてないのかも定まらずそのまま二人の世界――別の意味で――にいってしまう。
(何なんだ、この組み合わせ?!)
まるで不自然な程、ペアが揃っている。
偶然であると信じるのみだが、仁は心の隅っこにこの違和感を仕舞う。
『さあ~、では最終試験開幕の時間だ!!』




