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もしも、完璧世間知らず娘が現世に召喚されたら  作者: 神田優輝
学園編 ~新入生が天然美少女だった件~
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 EX1 風呂トラブル ~アティラの初めてのお風呂~

これは、漂流編 第09話 『新居が手に入った!!』の話の後に起きたちょっとした物語です。

  EX1


 アティラが熊野家に迎え入れられたその晩、むさ苦しい夏の日差しに当てられ、汗まみれになっていたアティラは、明日香に風呂の準備をしていた。


「アティラちゃん、今日はもう疲れたでしょう、お風呂を沸かしておいたから入ってきなさい」


 状況を整理するため、アティラは自分の格好を見直す。


「おフロですか?」


 不明瞭な単語な故、意味ははっきりとしないが、何故か身体に関する事だけは解かっていた。


「そう、身体を洗うの。一日中太陽の真下で汗もいっぱい掻きましたし、さあ、遠慮なさらずに入ってください」


 風呂の簡潔でどういった時に入るのかを軽く説明した仁に対してあまり深く考えずにアティラに勧めるのだが、明日香は殺気立つ視線を向ける。


「仁、貴方(あんた)、覗くんじゃないわよ!!」


 本気の母の殺意に触れた感覚に溺れながら、仁は苦笑して奥の部屋に逃げる。


(何で、ここ一応俺の部屋だよね)


 ――現時点でアティラの部屋に変わったのである。

 涙ぐましい姿を晒さんとして布団の中に入り込む。

 念願の一人暮らしから約三ヶ月、何とも虚しく終わりを告げたのだろう。

 慣れ始めて、これからだと言わんばかりの彼の喜びと青春を謳歌しようとする姿勢、その全てが母の言葉で一瞬にして消え去った。

 ここまで不幸になった事ないと思いつつ、反面嬉しい事にアティラが隣に住み着く結果になったからにはこのビッグチャンスを逃す手はない。

 そして、何より今はどうやってアティラの入浴中を覗き見すつのかを考え中である。

 所詮は男、思春期真っ只中の少年、押さえ切れない異性への憧れが彼を突き動かす。

 そう、誰しもが息を呑んで見たいという欲求を抱えながらもそのチャンスを待ち続ける。

 そして、今まさにその瞬間である。


(男なら行くべし!!)

 ――、とガッツポーズを取りつつも、至難の障害である母、明日香をどうにかしなければならない。


 明日香に見つかりした日には、誰見た事がない拷問、いや拷問すら生ぬるい、この世で最も恐ろしいお仕置きが待っているに違いない。

 だが、ここで引き下がる訳にも行かず、仁は今までにない程頭をフル稼働させていた。

 アティラが風呂場を入ってから十分は、経過しただろうか?

 しかし、一向に水が床に弾ける音がしない。

 そう言えば、アティラは、異世界から来たと言っていた。

 ――本当かどうか検証中の仁――だが、もし本当なら風呂の仕組みとかちゃんと判っているのだろうか、と考え始める。


「アティラさん、何か困った事があったら聞きに来てもいいですよ?」


 風呂場からは、アティラの『は~い』という何とも心地良い声が響く。

 そして、仁は、その声を聞いた瞬間に例のあのスイッチが作動する。



《妄想》


「あの~仁さん。私、実は風呂入るのは初めてで――どうしたらいいのか判らないのです。教えてくれませんか?」


 アティラが突然風呂場から飛び出し、仁の袖を掴み出す。


「いいですよ。俺に任せてください」


 頼れるお兄さん風に返事し、アティラと共に風呂場に入る。


「ここの蛇口を左に回せば水が出ます。暑い水なら左の方、冷たい水は右の方です。暑すぎる時は、右で調節すれば大丈夫ですよ。それと、これがシャンプーとこれがコンディショナー」


 仁は適切な説明をアティラに教え、そのままその場を去ろうとする。

 すると――


「キャッ!!」


 いきなり、蛇口を捻ったアティラが水浸(みずびた)しになり服が全部濡れてしまう。


「大丈夫ですか!?」

「仁さん、私……」

「いいのですよ、服を脱いでそのまま風呂に浸かってください。その間に俺は、アティラさんに服を取っておきますから」

「仁さん――」


 心優しい態度に惹かれるアティラさんの甘~い表情。

 そのまま仁に近づき、赤くなった顔で口と口が密着寸前になっていく。


《妄想終了》



「キャーッ!!」


 アティラの悲鳴を聞きつけ、我に返った仁はすぐさま、彼女の元へ赴く。


「大丈夫ですか!?」


 どこかデジャブっていると思いながら風呂場に入る。

 そこには、服をびしょ濡れになったアティラが尻餅をついていた。

 彼女は、驚いたまま呆然と仁の方に視線を向ける。


「熊、さん?」


 仁を視認した瞬間、アティラは仁に飛びつく。


「えっ?!あ、アティラ、さん?」


 何が起きてこのような事態になっているのかも判らず。

 しかし、しっかりとアティラの胸の感触を楽しんでいた仁は、触れるか触れないかで迷いながら、口では別の事を問いかける。


「アティラさん、どうかしましたか、そんなに慌てて?」


 自分の理性と戦いながら、尚もアティラは自分の胸を更に仁の身体に密着させる。


(耐えろーー!!耐えるんだ、俺!!アティラさんが困っている時にこの衝動(かんじょう)を抑えるんだぁぁーーー!!)


「み、水が――」

「水がどうかしました?」


 どこで、こんなに冷静な声を出せているのか不思議と思いながら、アティラの話そうとしている意味を探り出す。


「水が――燃えているのです!!」


 どう考えても彼女の発した答えには到底辿り着けなかっただろう。


「アティラさん、落ち着いてください!水は燃えたりなんかしませんよ、何かの見間違いなのでは!?」


 水が燃えるなどはありえない。

 せめて引火できる成分が含んでいない限りだが、そのような成分、普通の家庭のシャワーに排出すつ訳もないし、アティラの身体も部屋から漂う香りも焦げ臭さは当然ない。


「でも、水が暑いのですよ。それは、燃えているからなのでは?」


 何とも可愛らしいリアクション、これだから天然は。

 どうやらアティラは、暑い水を知らないらしい。

 聞くと、彼女は森に覆われた場所で育ったらしい。

 身体を洗う時の水は、川や湖を浸かっていたみたいだ。

 だから、彼女は温泉みたいな自然に沸いてくる温水も知らなかった。


「違いますよ」

「ふへ?何が違うのですか?」


 ちょっと跳ね返った声で不思議がるアティラをそのままずっと眺めたくなるような表情をしながら、何が違うのかを仁に尋ねる。


「それはですね……お湯です」

「お湯?」


 お湯まで知らんとは、と考え込みながら仁は別の言葉で説明を試みる。


「温かい水の事です。身体を冷やさないために、温かい水に浸かりながら、身体を休めるのです。その日の疲れを洗いざらい、綺麗さっぱり流し込む感覚でですね……こほん、要するに、何の心配はありません。ゆっくり入ってきてください」


 自分が風呂を入る時に感じている感覚をそのまま伝え始め、だんだんと脱線していると気づき、咳払い一つ吐いてから、アティラに安全だとまとめる。


「そうなんですか、わかりました……では改めて、入って参ります」


 仁から離れ、アティラは、全てを理解したように思えた。

 しかし……


「アティラさん、服を脱がないと。そのまま入っても服が駄目になります」


 だが、瞬時に仁には自分の発言の愚かしさを知った。

 早まったと呼ぶべきだろうか。


「そうですよね。折角貰った服ですからね、駄目にならないように脱がないと……よいっしょ、と……」

「あ、あ、あ、あ、あ、アティラさん!!?ち、ちょっと、待って!!ストップ、ストップ!!」


 いきなり、仁の目の前に服を脱ぎ始めたアティラは、半分にまで到達していたのにその手を止める。


「どうかしたんですか?」


(そうだった、アティラさんは、恥じらいとかなかったんだった)


 仁は、アティラと初めて会った時の事を思い出す。



 公衆の面前で全裸でいたアティラ、事情を知った今、その理由も解かるが、それでも女の子が自分の肌を露出しても恥らわないなんて、おかしいとは正直思う所はある。

 だが、その天然ぷりもかなりポイントが高い。


「俺、着替え持ってきますから……のわ!!」


 目を瞑っていた分判らないが、でも仁は、確かに扉を潜り抜けようとしていた筈なのに何故か何かとぶつかってしまう。


「な、何だ?!」

「じ~ん!!」

「ひっ!!」


 背筋が凍るような感覚に襲われながら、ゆっくりと目を開ける。


「よう、母さん。今から、アティラさんの着替えを――」


 だが、明日香の表情は、いつになくニコリと笑っていた。


(ご立腹でいらっしゃる!!)


 自分の体内の温度がぐいぐいと下がるのを感じる。


「あれ程、覗き見るなと言ったばかりだろうがぁぁーーー!!」

「すいませーーーーん!!」



 その後もアティラは、無事にシャワーを浴び、隣にある風呂に浸かり、幸せそうにため息を吐く。


(いつか、グリズリーさんと皆で一緒に入りたいな~)


 そんなささやかな願いを抱くアティラであった。

今回は、エキストラストーリーとして、投稿させてもらいました。

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