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もしも、完璧世間知らず娘が現世に召喚されたら  作者: 神田優輝
学園編 ~新入生が天然美少女だった件~
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第16話 不幸中の幸い ~一時の休息~

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「アティラさん、しっかり下さい!!アティラさん!!」


 誰かが私の名前を呼ぶ声が聞こえる。

 どこか懐かしいような、心温まるような感じがして、とても優しい人の声が。



 ――私は、一体どうしていましたっけ?



 溺れ行く意識の中でアティラは、何かを思い出すかのように記憶の奥底に引きずり込まれる。

 深い深い暗闇の中に自分一人だけが存在して、他には何もない――真っ暗な空間。

 老いない、病まない、衰えない身体を持った少女、アティラ。

 だが、しかしもう一つ含まれていない要素が一つだけあった。

 それは、不老の次に入る言葉――誰しもが憧れ追い求めてきた言葉。

 そう――不死である。

 アティラに与えられた呪いは、衰えない身体だけではない。

 むしろ、何故誰も思いついてこなかった事の方がおかしいぐらい簡単で当たり前な素質。

 不老であっても傷つけられれば死ぬ事はある。

 だが、病まないと聞いた時点でこう考えるべきだった。

 病気は、ある種の傷だと。

 精神的肉体的傷を与えるのが病気。

 なら、病気をしないアティラは完全に滅びない身体、不死なのではないか。



「目を覚まして下さい、アティラさん!!」


 呼び続ける仁の声がアティラの意識を呼び起こす。


「熊、さん?どうしたのですか、そんなに汗掻いて……あっ!やっぱり身体の調子が悪いんですか?!悪いんですね!?」


 横たわったまま、仁に説教をし始めたアティラは、仁の体調を気遣う。


「アティラ、さん、身体は何ともないのですか?」


 事故った本人の方が重傷なのではと思いつつ、仁が落ち着いた声で尋ねる。

 だが、アティラは、何事もなかったような顔をして首を傾げる。


「アティラさん大丈夫ですか?!」


 息を切らして来たのはニーナだった。

 身代わりになったアティラに対して、少し思う所もあるようで心配の文字を顔に浮かばせながら尋ねる。


「平気ですよ。体の方も何ともにないです、といいますか、そこに倒れている人の方が心配です。かなり強く当たったようなので」


 あくまでもこの出来事が全て不幸な事故として捉えるアティラ。

 しかし、今になってようやく理解したニーナは、数メートル先に倒れ込んでいる出場者、名瀬なせみのりに憤怒する。


貴女(あなた)、一年四組の名瀬みのりですよね」


 きつく当たるような口調で倒れているみのりに問いかける。


「……っく!!……」


 衝撃で体中が痛む彼女は、視線だけをニーナに向けながら無言で返す。


「私も負けるのは悔しい――けどね、私は他人を蹴落とすぐらいなら負けた方が百倍ましです。それが、例えムカつく相手だったとしても、それでも誇りを持って――」


 ニーナは、胸を張って堂々とアティラに指を向けながら。


「彼女を完膚かんぷきまで負かせてみせます」


 最後の方は、もうアティラに視線と言葉を向けながら話していた。

 ドキッと何かを感じ取ったアティラは、今まで見せた事ない闘志を燃やす表情を浮かべにやりと笑った。

 まるで、悪戯な子供の無邪気な笑顔。

 新しい発見をしたと仁は心の底でホッとする。

 怪我をしていないと判ると幾つかの矛盾に気がつきつつも、当たり所が良かったと無理矢理自分を納得させる。

 先生方は即、名瀬みのりを退場させ、保健室に運んだ。

 ぶつけた本人の方が重傷と思うと不思議だなと思う所はあろうが、今回のレースは無効という形に収まった。



 試験自体が中止になってはいないが、このレースの見直しのため、しばらくの間の休憩が入った。

 けれど、この事故をきっかけに会場の雰囲気ががたりと重くなる。

 名瀬みのり――彼女が属していたのは陸上部。

 そんな彼女が大事を起こし退場となった。

 彼女の潜在意識に眠る、陸上部員としてのプライドが事故を起こす原因となったらしい。

 彼女には二週間の停学処分が下され、事なきを得る。



 試験は再開され、しかし、一つだけ発表が下された。

 それは、時間的余裕がないため、最終試験は後日改める事となる。

 残りのレースを終え、仁の成績がぐーんと上がり、中間地点までは到達。

 望、春香と柔悟は、上位入り、アティラとニーナに至っては、さっきのレース保留のため4位、5位まで下がり、別レースに出場した蓮華は、1位となる。

 ――が、次の試験の砲弾投げで、柔悟と望共に男子の1位2位を獲得、春香は9位に上がり、仁は、腕の痛みもあって已む無く左手で投げたものの結果は絶望的に下位の方まで下がってしまった。

 アティラとニーナは再び1位2位に戻り、3位となった蓮華は悔しい涙で王道みたくハンカチの端を噛み、両手で引っ張っていた。


「いいですか、アティラさん!!明日、決着つけますよ、貴女と私との勝負!!」


 消えぬ炎の目を持ったまま、ニーナはアティラに指を差してからすぐさま自宅へ逃げ帰る。



(ここまで来たけど、アティラさん、本当に何もないのか?)


 不幸な事故に巻き込まれたアティラが体中に傷一つないのはおかしいと感じた仁。

 それもその通り。

 例え、打撲や骨に皹または骨折がなくとも、あれ程の大激突にかすり傷一つあってもおかしくない。

 だが、仁がアティラが露出していた足や腕を見るや、そのような怪我も一切なかった。

 それを懸念そうな目でアティラの方を見ていた。


(アティラは、まだ何かを隠しているのか?)


 ――勘違いパターン確定……

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