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もしも、完璧世間知らず娘が現世に召喚されたら  作者: 神田優輝
学園編 ~新入生が天然美少女だった件~
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第14話 勝ちへのこだわり

  30


「よっしゃぁ!!全回復だぜ」


 腹痛の痛みが消え、体調も万全になった仁は、四百メートル走、指定の八番目までになっていた。

 休憩の十分と順番までの八分、回復に至るまで随分と早い気もする。

 先の体力の消耗を考えると、流石の仁でも少しは疲れている様子。

 ――が、しかし、体調不良の時と比べると極端に身体の重っ苦しい感じは消えている。



「位置について、よーい――」


 バンッ。

 ピストルの銃声と同時に仁の班計八人が一斉に走り出す。



 この試験での決定的な理不尽は、全ての生徒に対して平等である所だ。

 それは、即ち、陸上部の生徒は、一般の生徒と同じ扱いとなる。

 これなら、頭脳派の生徒に取って、最も不適切であると同時に、大きく学園での成績ががくりと下がる試験でもある。

 この学園での志向は、常に強い者を育てる機関でもある。

 体力に自信を持つ生徒、学力に自信を持つ生徒、それぞれに得意な分野、不向きな分野に触れ合わせ、試験という形の挑戦を与える。

 それが、この星ノ宮学園の目的と理念だ。

 互いの得意を極め、且つ不得意を克服できるチャンスを与える。

 それをできない者には、この学園の滞在を認めない、極めて極端な志向だが、それは教育面に関しては百点満点、完璧な回答である。

 しかし、この厳しい環境故に、ついて行けない生徒も数多くいる。

 自らそれを捨てる者、やる気はあれど辞めなければならぬ者――

 だが、これらを全て乗り切り、上がっていく者こそが学園の、社会の理想の人間を完成させるシステムとして扱われる。

 そして、その中にも悪知恵を働かせて利を得る者も存在する。


 駆け出しと同時だった。

 出場者の一人が、仁の足を引っ掛け転ばせた。


「ぶはッ!」


 頭から地面への直撃。

 勢いに乗ってからの衝撃故に、痛みはかなりのものだろう。

 だが、この刹那の一瞬を見る人もいなく、勿論他の出場者達も前を見ていた。

 そして、仁の右隣にいるやつだけが、仁の足を掴んだ。

 その生徒も出だしに遅れるが、最下位でさえなければ、それでいい。

 何より、今の仁の点数を判っていれば更に下へ引き摺り下ろせる。

 最もいい餌って訳だ。



「アンニャロー!!」


 仁は素早く立ち上がり他の者を追う。

 百メートル走であれば到底間に合わない時間差ができていたが、幸いと呼ぶべきか距離は、四百、決して間に合わない距離じゃない。

 足に精一杯の力を込め、全速力で走ればまだ勝機はある。

 前回で失った多くの点数を取り戻すためにここでまた最下位になる訳にはいかない。


「とりゃーーーー!!」


 今までの人生で最も早く、騒音とも呼ぶべき叫び声で最後尾の生徒、つまり仁を転ばせた生徒に追いつく。


「バカなっ!!」


 彼の計算では、仁が追い付くのは百メートルも先だった。

 そして、いくら追いついていたとしても四百メートルを最初から全速力で走ってもすぐにばてる。

 慣れていない走り方をするとすぐにペースは乱れ疲れやすくなる。

 そう考えてこの作戦を実行した。

 だが、予想を遥かに超えて追いついてきた仁は、呼吸を一切乱さず、インチキ生徒をあっさり追い抜く。

 驚愕した生徒は、その驚きのあまりペースを乱され、転げ落ちる。

 これ以上続行できそうになく、敢え無くリタイア。

 それでも止まらない仁は、そのまま突っ走り追々と次から次へと追い越していった。


「嘘だろ、あいつ事故ったやつじゃねぇか!何故僕の後ろに」


 1位で走っていた最後の出場者が悲鳴を上げるような声でそう唸る。

 ラストスパート一直線の百メートルに突入した仁と最前列の生徒との一騎打ちとなった。



「「うぉぉぉぉーーー!!」」


 最高の走りでお互い譲らず競い合う。

 肩と肩がぶつかり合いながらも、ただ前を目指す。

 全力を持って相手に勝ちたい気持ちだけを胸に駆け抜ける。

 そして、これは最早神様の悪戯と呼ぶべき偶然。

 僅か数メートルで相手出場者の足元に小石が落ちていた。

 それを踏み付け、バランスを崩す。

 仁は、倒れる相手とぶつかり一瞬ふら付くが何とか踏み止まる。

 そして、転げ落ちる前に、出場者の襟元を掴み、その重さを利用して転ぶ事なく先を進む。

 しかし、後ろとの差は接線のため、仁はそのまま無茶な体勢から走り出す――出場者を引きずったまま。

 そして、ゴール!!

 見事1位にて、その班を勝ち取る。



「ふぅ~、焦ったわ~最初と最後のあれ」

「マジで凄いぜ、仁!まさか相手を抱えたままゴールするなんて」


 無茶な体勢は変わらないが、あの時、先頭の生徒を放って置いていたら、足を邪魔して余計な手間を取らせていた。

 その場合、仕方なく引きずったまま進むしかなかった。


「しかし、慣れない事はやるんじゃなかった。あいつを担いだ時に肩を少し痛めたみてえだ」


 仁は、右肩を抑えながらゆっくりと肩を動かす。

 次の競技は、砲弾投げ。

 仁は体調を直しても、またもや支障が出る傷を負ってしまった。


「くそ!!全く運がないな、俺は」


 隣で望も同意して頷いた。

 すぐ目の前にアティラとニーナが同じ班で並んでいるのが見えた。

 仁と望は、二人を見ながら息を呑んだ。

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