第13話 症テスト、苦難の始まり
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予想以上の負担が仁の身体に与えた。
最初の競技での耐久レースでの二キロ走では、腹痛の所為で上手く体勢を取れなくなった仁は、辛くも最下位は免れたものの、それでも下から三番目になってしまった。
点数制により、他の班の時間を見るや、第一次試験の結果では、早くもワースト10に入ってしまった。
(くそ~、思っていた以上に身体がいう事聞かねぇ!)
それでも、上位に入ろうと頑張るが、やはり甘く見てしまっていた。
これ以上の点差を付けられてしまえば、どんなに頑張ろうが最下位は免れない。
そして、他の全員に至っては、望、春香は、およそ中間に位置していた。
柔悟は、その体格を活かし、10位以内に入っている。
勿論この試験では、男女の順位は仕分けられる。
そして、一年で一番注目を浴びていたのが、アティラとニーナ、そして蓮華だった。
彼女達三人が4位との点差を大幅に突き放していた。
最早、彼女三人の競い合いに終わってしまう勢いだ。
男子は、四百メートルもあるトラックを五周、女子は、三周と四分の三。
決して、楽ではないこの耐久レースなのだが、アティラ達は、恐ろしい時間で済ませてしまった。
このコースは女子では、四分半から五分の間が平均時間となっている。
だがアティラとニーナ、そして蓮華は、四分を切るという恐ろしい記録を出し。
そのタイムは、オリンピックでも通用するレベルである。
試験後とに休憩が入るものの、時間に迫られているため、おおよそ十分程度過ぎたら次の試験へと移る。
第二次試験――四百メートル走。
耐久レースの後にこの競技は、過酷さを増す。
体力の消耗が激しい耐久レース、全速力でトラックを一周するこの競技では相性最悪と言ってもいい。
そして、何より一年と二、三年での耐久レースの記録を見ると、一年の方がタイム的には二、三年に勝っている。
それも、意図的に二、三年の生徒は力を温存するかのようにペースを乱さず抑えながら走っていた。
それも、そう――この試験に於ける攻略法では、最初から全力を出すのは最もの愚策である。
まだ、三種目も残っている時点で気づくべきなのだ。
しかし、一年生らは気づかず、何人かはもう既にガス欠状態、そして、さらに言えば体力のない生徒らなどは気絶寸前なのである。
その中で仁は、病気のくせして、まだまだ体力の心配はない。
「熊さん、どうですか、体調の方は少し良くなってきましたか?」
耐久レース1位に取ったアティラが、仁の元へ駆け付ける。
「あ、アティラさん、1位おめでとう。俺ならほれ、もう元気元気、病気なんて気合で何とかなるさ、ははは」
仁は、立ち上がって、無理な動きを強いれながらアティラに心配かけまいと振舞う。
「そうなんですか。良かったです……けど、結果はあまり良くなかったですね、やっぱり、少し横になっては……」
勘は鋭く、痛い点を突く。
「あははは、肩慣らしですよ。これからもっと厳しくなりそうですから……それより、アティラさん凄いではないですか、四分を切った人の息ではないですよ」
幾らオリンピック選手であろうが、四分を切れば息も上がる、だがアティラには呼吸が乱れる様子も見当たらず、むしろまだまだ余力が残って見える。
「ああ、そうですか?やはりチーターさんと駆けっこした甲斐がありましたね」
ふふふ、と笑いながら語るアティラだが、仁は顔を引きずって苦笑する。
(チーターと駆けっこって、恐ろしい人です、アティラさん)
声には出さず、尊敬の意を示しながら仁は、手を合わせていた。
そんな奇妙な行動を呆然と見ながらアティラは首を傾げる。
迎えた第二次試験に走れる人数は八人。
全校生徒四五六人と考えると五七回もレースを行う計算だ。
その中に仁の順番は、八番目に抜擢された。
一回のレースは、平均一分辺りは掛かるから、限りなく少ない時間ではあるが、仁に休める有余ぐらいは与えられる事はできた。
「はぁ~これで少しは、休める……腹の痛みも少しは引いてきたみたいだし」
回復しつつある仁は、この一時の休憩を満喫する。
「やれやれ、情けないわね、貴方は」
突然、背後から罵倒の声が降り注ぐ。
「春香!何よ、これでも全力を出し切ってるんだ。お前にどうこう言われる筋合いはねぇよ」
反論する仁は、子供みたいに舌を出す。
呆れた顔で春香はため息を吐き、腹痛に効く栄養剤をさり気なく渡す。
「ん……」
殆ど無言で明け渡すから、一瞬何事かと驚く仁。
「おう、ありがとうな」
憎まれ口を叩いても、それでも心配をしてくれる春香に感謝し、アティラから貰った水で栄養剤を口に運ぶ。
「ヴぇ、マッジィ~」
「贅沢を言わないでよ」
飛び切りまずい栄養剤を渡した春香は、その事を内密にしておく。
だが、効果は絶大。
この調子なら自分の番には、ほぼ回復しているだろうと、仁は確信を持つ。
「よ~し、失った点数の分、取り返すぞぉ!!」
気合に満ち溢れた掛け声と共に、仁は自分の番を待った。




