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もしも、完璧世間知らず娘が現世に召喚されたら  作者: 神田優輝
学園編 ~新入生が天然美少女だった件~
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第12話 症テストの開幕だ!!

  28


 ニーナ=オールブライトが宣言した小テストの日。


「うぇ~、気持ちわりぃ~」


 仁は珍しく体調を崩していた。


「大丈夫ですか?」

「お前な~、体調悪ぃんだったら、大人しく家に残ってればいいもの」

「全く、体調管理も立派な仕事なのに」


 仁の傍らでアティラと珍しくも望まで気に掛けていた。

 一方で春香は相変わらず厳しい一言を投げ掛ける。

 昨夜(ゆうべ)、明日香が挑戦した料理を無理あり口に入れられ、それがまさか仁の苦手な芋料理とも知らずに飲み込んでしまった。

 結果的に仁はその晩、激しい腹痛に襲われ、今も続いている状態である。

 だが、彼には学園を休めない理由があった。

 それは、アティラと明日香に原因があった。

 アティラが学園に転入のきっかけを作った明日香は、校長先生との取引の中である条件を提案した。

 それは、息子である仁に一年間の無欠席を義務付けられた事だ。

 この条件を聞いた仁は当然反対を試みたものの、母への恐怖心が勝り、已む無く呑み込めざるを得なかった。

 そんな理不尽な条件を前に今日の小テストを欠席する訳にもいかず、体調最悪でも行かなければならなかった。


「でも、このテスト、普通のと点数高いだろ」

 ――という言い訳をするが、実に正しい言い分である、しかし――

「でもよ~今日のテストは、お前には無理があるぞ、幾らうまいからって……」


 そう、今回の小テストは、身体能力試験。

 今の仁の体調を考えると相性最悪と言っても過言ではない。

 正に運に見放された男、こんな時でも世界は彼に容赦はない。


「ああ、解かってはいるが、それでも行かなければならないんだ!!」


 それでも意地を張る仁は、もう一つ気に掛かる事があった。

 それは、アティラ一人を学園に登校させる事だ。

 もし、アティラを望や春香と一緒にさせたら、絶対って保証してもいいぐらい、アティラにこの家での暮らしを色々聞きかねない。

 それを阻止するには、常日頃、アティラの傍を片時も離れるわけにはいかない。


「もう、好きにさせておけばいいじゃない」


 学園の規則の中に体調不良の生徒は、欠席が認められている。

 その場合、日を改める事は可能だが、以前伝えた通り、仁にはその選択はない。

 だがここでもう一つの問題が生じる。

 身体能力試験の時だけ最下位の生徒――学年で一人ずつ――は、ペナルティーが与えられる。

 それは、例え全力を尽くしても、自身の向上を疎かにしたという理由で彼らにはトイレの掃除を一ヶ月間やらなければならなくなる。

 そして、仁は万全な状態なら余裕で上位を狙えるものの、今の状態を考えると最下位も遠い存在ではない。

 寧ろ、仁を全力で身構える態勢で待っている。


「休んだ方がいいですよ、熊さん」


 心配そうな視線でアティラが仁を見る。


「いや、平気ですよ。このぐらい……っててて」

「ほれ、やっぱ無理じゃないか――先生には俺から言っとくからさ」


 腹を抑えながら説得力ゼロの仁を望がフォローをする。

 しかし、それでもと仁はテストを受ける事を言い続けていた。


 迎えた体育の授業。

 テストの時間だ。

 そこには、盛大にも一年、二年、三年も揃っていた。

 見方を変えればちょっとした運動会にも見えなくもない。

 だが、ここには、チーム一丸になって勝つという意識は存在しない。

 言い換えれば、一つの戦場なのである。

 如何に相手よりいい点数を取れるか、どういう風にすれば自分に優位になるのかを試行錯誤する生徒で溢れ返っている。

 イカサマは当然禁止されている。

 だが、それはばれた場合に限る。

 どう考えたらばれないのか、どういう風にして利口として見られるのかも、生徒の能力なのである。

 そして、勿論生徒は個々だけを見、他人に構う余裕もない――一人を除けば。

 相変わらず体調の悪い仁なのだが、アティラは冷たい水の入ったペットボトルを差し出す。


「熊さん、水です。これで少し楽になるといいのですが」

「ありがとう、アティラさん。これ飲んだら少しは楽になると思いますから……アティラさんは、次の試験、頑張って下さい!」


 少しばかりか元気に聞こえた――実際にはかなり参っている――仁の声ににこりと頷いて微笑みながら次の試験へ向かった。

 アティラの姿が見えなくなった途端、仁の腹訴えるかのように激痛に見舞われる。


「イテェーー!!」


 抑えていた分の余波が一気に噴出し、激痛の連鎖に耐えながら、アティラから貰った水を少しずつ口にする。


「全く、やせ我慢にも程があるぞ」

「アティラさんには、そんな情けない顔は見せられない感じか、仁」


 望と柔悟が後ろから話し掛ける。


「アティラの性格上、こんな姿を見せたら面倒を見ると、試験に出ずに最下位になっちまうからな……できるだけ、あまり負担を掛けたくないんだ」


 何処までも、優しい仁は、自分が一番負担が掛かっている事に気づきながらも他人に気遣う余裕を相変わらず忘れずにいる。


「これは、あれだな……大損する人生の始まりって感じか、ははは」

「……」


 いつもの嫌味で冗談をぶちかます望に突っ込み返す余裕は流石に残されていなかった。



 さて、さらっとこの身体能力試験の内容について説明をしよう。

 試験は全部で四つ。

 一つ目は、耐久力試験で勿論この競技――耐久レース、男子二キロメートル、女子一・五キロメートル。

 二つ目は、スピード試験――四百メートル走。

 三つ目は、腕力を測る砲弾投げだが、女子はテニスボールの二倍の重さの百グラム。

 そして、四つ目には、瞬発力試験――この試験は極めて難関に作り出される、この学園名物の地獄級障害物競走である。

 この最終試験は毎回内容が変わるらしいがその詳細を知るは、新入生には他言無用。

 だから、一年生である仁、アティラ達一同は、この障害物競走は未知で溢れている。

 だが、一つ聞いた事のある情報では、この障害物競走には臨死体験をした者も多いと聞く。

 試験開始まで、残り十分――


(これのどこが、小テストなんだよぉぉーーーー!!)

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