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もしも、完璧世間知らず娘が現世に召喚されたら  作者: 神田優輝
学園編 ~新入生が天然美少女だった件~
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第07話 手紙の送り主は、嵐を呼ぶ

  23


 遡る事、二週間前。

 丁度、仁が大量に不幸の手紙が送り付けられた時期にその中の一通だけは、違和感を感じていた。


 ※※※※


「なんじゃこりゃ!?」


 望が手紙の内容を見て、同じくその違和感を感じる。


「ん、確かにこの手紙……おかしいな、どう説明したらいいのか?」


 同様に柔悟も頷く。


「なあ、仁。こいつのじゃない手紙、見せてくれ」


 仁は望に何十通の手紙の中から一つを手に取り渡した。

 渡された手紙をさっきの手紙を見比べて見るとその明らかな違いが浮かんでくる。


「やっぱりだ!この手紙、お前の事一切悪く言ってねぇ」


 殺伐した多くの手紙から唯一送られてくるその手紙には感じられない。

 文章を読めば、それほど違いはないが、内容を吟味するとその矛先が仁でない事は明らかだった。


「その手紙の送り主が誰なのかは大体判ったが、こっちから問い質すのはあんまりしたくないんだよな」

「また、別の噂が立っちまうからか?」


 望もどうやらその送り主とやらに気がつき、仁に突っかかる。


「うるせ」


 状況をまだ理解できていないアティラと柔悟は、首を傾げ、十五は二人に聞く。


「誰が犯人かわかっているのなら何故、捕まえない?」

「ほら、そこは色々と事情があんだよ」


 まだ消えぬ疑問に一つアイディアを浮かべるアティラが呟いた。


「じゃあ、明日、早く登校してその人に会ったらいいのは、いかがでしょう」


 つまり、現行犯として、捕まえれば済む話であった。



 翌日、まだ明けたばかりの空を前に、四人は、学校内部でその犯人を待っていた。


「いくらなんでも早くねぇか?」


 現在、午前六時。

 登校時間が約八時半辺り。

 二時間以上も早く来た四人は、まだ眠気が取れない様子。

 大きな欠伸をしながら特定の誰かを待つ。

 だが、その作戦には問題はない。

 リスクを下げるために、犯人は誰も来ない時間、つまり、全校生徒がまだ来ない時間を狙ってくる筈。


 待つ事、一時間。


「なかなか、来ないですね」


 アティラと仁がまだ待機している間、望と柔悟は、すぐ傍で寝っ転がっていた。


「そうですね、でも下駄箱を調べた時は、何も入っていませんでしたから、きっと来る筈です」


 寝ている二人を無視して、アティラと仁はじっと待つ。

 すると――


 ――コンコン。


 誰かが来る足音がする。


(ようやくお出ましか)


 急な緊張で汗が頬を伝って零れ落ちる。

 だんだんと仁の下駄箱に近づく人影。


(まだだ、もう少し……下駄箱を開けた瞬間に――)


 仁は、アティラを片手で静止し、じっくりと待つ。


 ――コンコン。


 妙にこの待ち時間が長く感じる。

 下駄箱はすぐそこなのに、辿り着くまでの距離が進まない、というこの感覚。

 何とも苛立たせるものなのか。


 人影がようやく仁の下駄箱の前に立ち、開ける。


「そこまでです」


 開けた瞬間飛び出したのは、アティラだった。


「熊さんの下駄箱に悪戯の手紙を入れたのは貴方ですね」

「キャッ!!」


 驚きで声を上げ、高い声音から女性である事は明らかだった。


「な、何で、アティラさんがこんな時間にいるの?」


 少し震える声で尋ねると、後ろから仁が現れる。


「それは、こっちの台詞だ、春香(はるか)


 やっぱりお前か、と呆れた顔で仁は、銀色の髪を腰の辺りまで伸ばした少女に話しかける。


「知り合いなのですか?」

「ああ、俺の幼馴染の葉山(はやま)春香(はるか)です……っていうか、あの写真もお前の仕業なんだろ」


 校舎の入り口、丁度アティラ達が立っている後ろに位置する掲示板に大騒ぎになった日に貼られていた仁とアティラが一緒に帰っている姿の写真の事だ。

 あの写真は、あの日にすぐに教師らが取り外していた。


「いつもいつも、俺にばっか面倒事を押し付けやがって、でも今度のは本気でしゃれにならないぞ」


 いきなりの説教しだした仁に少女は、きりっとした空色の瞳で反駁する。


「何よ何よ、仁だって、いっつも他の子と一緒にいたり遊んだりして、私とは全然構ってくれないじゃん」


 随分と子供っぽい言い方で抗議する少女に、ギクッ!、と仁は言葉を失う。



 仁が小学校一年の時、春香に窓を割った事を濡れ衣を着せさせ、クラスの中で浮いた存在になった。

 悪い子と遊んじゃ駄目とかで、同級生の母親達が子供らにそう言っていた。

 勿論、しばらくすると、その話題が薄れ、また友達と遊ぶようになったが、また突然、今度は、校長室の前の高価な花瓶を壊した事を春香に同じように罪を着せられた。

 大叱りを受けた仁は、母親を呼び出され、帰宅後、母親にみっしりと説教された。

 それ以来、仁は、春香を積極的に避けるようになった。

 彼女を見かけたら逃げ、春香が仁を探し出したら隠れの繰り返し。

 その癖が身に付き、同じ中学に上がっても同じように彼女を避けていた。



「私は、ただ仁に振り向いて欲しくて……色々試したのに、仁は、逃げていくばっかりで……しかも夏休みから返ってきたら、こんな女と一緒にいるんだもん……私の方が仁の事もっと知っているのに……」


 涙目で怒鳴る春香に仁は焦り始める。


「いや、そのだな……春香、違うんだ……アティラは先生に任されてこの二学期までちゃんと面倒見るだ

けだから……だからね、泣かないで、ほら」


 ハンカチを取り出し、春香の近くまで差し伸べる。

 春香は、素直にハンカチを手に取り、鼻をかんだ。


「少しは、落ち着いたか?」


 優しく頭を撫でる仁――普通なら、頷く場面だが――にイラッと来た春香は、仁の手を振り解いて、怒った顔でまた怒鳴り出す。


「何よ、今更優しくされても……私をバカにしているしか考えられないよ!!」


 ご(もっと)も、いつもは避けていた相手に急に話し掛けられたら、自然と怒るというもの。

 だが、当時春香が苦手だった仁は、逃げる事しかできなかった。

 もし、一緒にいたら今度はどんな嫌がらせをしてくるのか判らなかったため、避けるしか自分の身を守れなかった。


「いや、だからちゃんと話し合おう、色々と誤解もあるし……ね、ここは一単落ち着こう」



 仁と春香が討論している時にアティラは、寝ている望と柔悟を起こしに行っていた。


「望さん、柔悟さん、起きて下さい――今、熊さんが大変な目に遭っていますから!」


 中途半端な起こされ方で、頭が回らない状態で目を覚ます。

 だけど、廊下から聞こえた怒鳴る少女の言葉を聞いて、ぱっと目を丸くしてちゃんと起きる。


「何が、誤解よ。私、見たんだからね!!――仁がアティラさんと一緒に仁の家に入る所を!!」


((ええ~!!))


 その事実を聞いた望と柔悟は、ただただ愕然としながら、心の中で悲鳴を上げていた。

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