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もしも、完璧世間知らず娘が現世に召喚されたら  作者: 神田優輝
学園編 ~新入生が天然美少女だった件~
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第04話 アティラは、期待を裏切らない!!

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 喜多見(きたみ)柔悟(じゅうご)、彼もまた転入してきた生徒の一人。

 初めて転入してきたのは、まだ入学してから数日後。

 理由は、家庭の事情だった。

 父親の急な転勤でこの町に引越し、彼の才能である柔道によって、この学園に通う事になった。

 基本勉強ができない分、成績は底辺に近しいが、柔道に関しては、彼以上の選手はいなかった。

 何の縁があって、仁と望と関わりを持ったのかは今となっては判らない。

 転入早々の生徒は、輪が固まったグループに入るのは気難しい。

 このまま学園生活がぼっちで終わるのを覚悟していたが、そこに仁と望が彼に話し掛けた。

 無論、誰もが柔悟に話さなかった訳ではない。

 しかし、親しげに話せる人が彼の周りにいなかった――ただそれだけだった。


「や、喜多見君。隣に座ってもいいかな?」

「俺もいいか?つーか、仁、何いい子ぶってんの、もっと緩く話しかければいいじゃん」

「お前は、緩すぎるんだよ、望。初対面で話すのにこれが丁度いいんだよ!」


 何の用事もなく話し掛けてくれる人がいるだけでこんなにも心が豊かになるものなのか?


「おう、いいぜ。丁度話相手が欲しかったんだ」


 それから、三人で話が弾み、それ以降三人でいる事が多くなった。

 そして、一つ判った事があった。

 それは、望と柔悟の相性が抜群である事。

 それは、そう一つ語るなら――

 

 最近となって気づく事があった。

 それは、望と柔悟を見ているとより鮮明に見えてくる。

 柔悟がやたら望に要望を出したりして、それを望が全て応える。

 パシリといえばそう納得せざるを得ない情景。

 何しろ、柔悟が望に接する姿がMとSに見える。

 だが勘違いしないで欲しい。

 これは、世に知られているSMではなく、書かれてある通り、MとSだ。

 柔悟がMASTER(マスター)で望がSERVANT(サーヴァント)

 主人と家来と言った方が何分わかりやすいでしょう。

 だが彼らの相性をあれ・・に表すんであれば――

 柔悟がSADIST(サディスト)で望がMASOCHIST(マゾヒスト)

 ともあれ、彼らの関係は一筋縄では説明し難い事になっているが、常人から見る仁の視点では、何とも面白い二人なのだろうとにこやかに笑う日々。

 だが、お互いに喧嘩なんぞ日常茶飯事、他愛ない事で口喧嘩したりして、だが性格の所為もあって、いつも望が負ける始末。



 (つる)み出してから約三ヶ月。

 それでも普通の人より早く解け込んだ方だと仁は思う。

 そんな柔悟が今、問い掛ける、仁と望と転入してきたアティラの関係を。

 望は、まだいい。

 アティラとは、川原豆腐ラーメンで一回しか会っていない。

 だが、同居している仁は違う。

 幸い、この状況を利用する事ができる。

 望は、仁がアティラを駅まで連れて帰ったと思っている。

 まさか同居しているとは思うまい。

 だから話し合わせで、街で出会って、食事に川原豆腐に行った、だけの関係として終われる。

 アティラとも事前に同居している事を内密にしてと頼んでいるから問題ない――


「わ~、熊さんだ!」


 ――でもなかった。


 アティラの一言で全てが台無し。

 一方通行の道を通り、引き返そうとしたら歩いた道が崩れ、もう前にしか進めない状態。

 何とういう不運。

 打開策があると思いきや、壊した壁の向こうにまた壁が張り巡らされていた、そんな気分。


 そして、望が後ろから追求してくる。

 何事だと。

 何故、仁がアティラとそんなに親しげに話しかけてくるのかと。

 クラスの周りからもざわめきが途切れず、注目の的となる。

 目立ちたくない訳ではないが、目立つというのは無条件で何かを期待されるという事だ。

 それを裏切る形になれば、無慈悲で不条理な言動を言われかねない。

 そして、期待に応えるのにもかなり肉体的、精神的にも疲れが溜まる。

 それがこの世のシステム。

 期待に応える。

 それが、どれ程面倒くさいか、なってから言いやがれ、と仁はこれからの自分の未来を想像する。


(アティラさん、お願いだから火に油を注がないでくれ~)


 泣きそうな思いをする仁をにこにこと笑うアティラ。

 ある意味、アティラもS気があるかもしれない。

 しかも自覚がない分、ダイレクトに刺さってくる。


「ほ~、熊野君、お前アティラと知り合いだったか。ならお前にアティラの世話を任せよう」


 不意な先生の要望により、仁は、家だけでなく、学園でもアティラの世話する事になった。

 それに対しての教室中のブーイングの嵐。

 教室であまり目立たなかった仁は、一気に学園中に名を知られる事となる。

 仁はふと、思い出す。

 


 学園に着く少し前、アティラにもう一つ注意をしていた事。


「いいですか、アティラさん、学校ではお互い知り合いではない。他人の振りをするんですよ。知り合いだとばれれば、誰情報で同居している事も知られ、すっごく面倒な事になりますから……それだけは守って欲しい」


 何故それがいけないのですか、と言いたげそうな顔でアティラは首を傾げるが、すぐに頭を縦に振り頷いた。

 それなのに――


(そう~来ましたか~)


 仁が相手すべきは、アティラなのかもしれない。

 そう覚悟する男の涙が今、床に零れ落ちる。

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