第01話 入学前々夜
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どんなに凄い人間がいようが、驚きはしなかった仁だが――
それが、自分の家族からでたら、それはもう、至極な驚愕を誘う。
この一日で何があった。
パーティーの計画の事は、知っていた。
しかし、転校までしてくるとは読み切れなかった。
だが、それを可能とすればそれは、母――明日香の力である。
明日香は、結婚する前、年齢でいうと二十歳を越す前、そう高校生から様々な業界に携わり、多くの権力者達と交友関係を結んできた。
その真実は、未だに息子に言わないでいる明日香は、勿論、仁の通っている学校にもコネがあり、アティラの入学がスムーズに済んだのも、彼女が学校の何かしらの弱みを握っているに違いないからだ。
友好関係、とんでもない!!
明日香は、旅先に勤めた会社から工場、企業、その他諸々に必ずって言える程、全ての業界の偉い人の弱みを握っている。
仁の父も、同じ手引きで誘い出され、結婚したという話を――小さかった仁が直接、父から聞いたという。
これで、説明になっただろうか?
何故、熊野家が同じマンションに二部屋も所有している意味を。
それとも、ワンフロア全体を所有しているのかも――
考えないでおこう。
明日香の気迫に負け、おそらく仁の学校の校長は、已む無くアティラの急な転入を受理したのだろう。
しかし、本当に恐ろしい母親だ。
彼女がにっこりと笑う笑顔の裏にある全ての出来事が身に染みて表にまで出てきているのだろう。
その話を聞いて、何故仁が怯えるのもお分かりになっただろうか?
ともあれ、全ての準備を済ませた明日香が手にしている女性用の制服。
仁が通う私立星ノ宮学園は、各国から集められた優等生のエリート校である。
勉学上々、才能さえあれば、その学園に通えるシステム。
しかし、勿論その中に在籍続けるのも実力のうち。
失格と見なされたら有無を言わさず、即退学となる。
その中にアティラを通わせるという明日香の判断は、どう考えても凡人の斜め上を行く。
エリート校に入れるという事は、それなりに実力を示さないといけなくなる。
それを、字も知識がないアティラにとって、どれだけ過酷な試練になりえるだろうかは、至極明白である。
「母さん、何でそんな無茶な事を!!」
「ええ~、だって、アティラちゃんには、この世界を知るいい機会だと思って……」
反発する仁に子供染みた真似をする明日香は、頬杖をついて拗ねる。
最難校故に、学ぶ環境として、これ以上ないチャンス。
それを与えられたアティラにとって、この世界をもっと知るいい機会にもなり得る。
だが、やはり一番の問題は、在学できるかどうかに掛かる。
定期的にその能力を測るためのテストが行われる。
それに対応だできるなら、仁だってアティラに入学して欲しい。
しかし、こんなエリート校でも弱い者にいじめを繰り返す連中もいる。
そして、アティラは、彼らのかっこうの餌だ。
それを知った上でアティラを行かせるべきかどうか、悩みに悩んで出す筈の答えだが、明日香の行動によって、全てが無になった。
週末明けにアティラの転入が決定された。
そう、これは決定事項なのだ。
なら、と仁は弁えて行動に移す。
「決まってしまったものは仕方がない――アティラさん、こうなったら、月曜日までの一日、できる所まで教えて上げますから、覚悟はいいですか?」
話の流れについて来ているのか、少し不安だった仁は、アティラに問いかける。
「何かよくわかりませんが、精一杯頑張ります!!」
(やっぱりか~)
何を頑張るのかを一から説明しなきゃならないアティラは、両手でガッツポーズして頑張るぞ~アピールを見せる。
仁は、苦笑をして。
「さぁて、こっちも、頑張りますか~」
「おう」
ノリで良太も何かに対して叫んだ。




