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もしも、完璧世間知らず娘が現世に召喚されたら  作者: 神田優輝
漂流編 ~右も左も判らなかった件~
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第10話 どこまでも、不幸な熊さん

  12


 多くの偶然が重なり合って、アティラは、仁の家に住む事になる。

 仁の荷物を運び出すのに家族全員で協力して隣の――仁の実家――家に運び出した。

 丁度、部屋――仁の元の部屋――が空いており、荷物の運び出しは、スムーズに進んだ。


(はぁ~、まさか、またここに戻る羽目になるとは……)


 落ち込みつつ、仁は荷を降ろす傍で、アティラも同じく荷を運んでいた。


(考えようによっては、アティラさんと一緒に住むチャンス。そして、巡り巡って(ある)いは――)


 ふふ、と笑い始めた仁は、いつもの妄想に入る。


《妄想》


 アティラと住んで、一ヶ月が経った頃。

 すっかりと、仲良しになった仁とアティラ。

 一緒に朝食と夕食を食べ、一緒に学校まで行って、まるで恋人のように過ごしている。


「アティラさん、おはよう」

「おはよう、仁」


 名前を呼ぶアティラに仁は、高ぶる鼓動を抑えきれない。


「アティラさん、俺……もう……」


 仁は、アティラの後ろに手を叩きつけ、荒げる息でアティラに迫る。

 それに驚くアティラは、しばらくすると、そっと手を仁の頬に触れる。


「――いいよ……」


 優しい言葉使い、今までから連想できる――多少過剰しているが――アティラの姿と言動や行動などなど。

 それに毎回胸をときめかせ、まるで恋心を知った男の子みたいに。

 成すがまま、許可を得た仁が取った行動は、家族にばれる前のあのシーン。

 唇と唇が接触する寸前。

 ――しかし……


《妄想終了》


 強制的に妄想が終了される。

 誰から名を呼ばれたり、触れられたりではなく。

 単に、その行為の先を想像できないからこそ、妄想画像が真っ黒に染まる。


(あーあ!!何で俺は、こんな大事な時に……)


 悔しながらも、己の暴走に少し、羞恥を覚える。

 そんな妄想爆発後の仁の様子を見ながら、アティラは、何故あんなに頭を掻いているのか、と首を傾げる。


 引越しが完了し、広くなったもう一つの部屋が全てアティラの新しい家となった。


「ね、熊さん。あの景色がこれからも見られるのか?!」


 あの新鮮味に溢れた景色を独占事ができようとは、思いもしなかったアティラは、目を輝かせながら仁に尋ねる。


「ああ、全て、君のものさ」

(アティラさんの喜ぶ顔が見られただけでも、よしとしますか)


 が、しかし状況が一変、仁の母が部屋に乱入し、キレッキレの動作で仁に指を差す。


「仁!!貴方(あんた)、明日学校ないだろ。アティラちゃんの日常品、買いに入ってやんな」


 そうきたか、と(あらかじ)め予想がついていた仁は、手の平を裏返した状態で母に向ける。

 しかし、母、明日香は、その意味が判らず『何だその手は』と押し返す。


「お金だよ、お金。アティラさんに必要なものを買うお金をくれ」


 仕草で判らぬなら言葉で説明した仁は、期待を抱きながら、明日香が金を出すのを待った。


 しかし、何分待とうが一向に手の平に重さが圧し掛からない。

 瞑っていた目を開けると、呆れた表情の母が睨み付ける。


「あの~、母さん。何故そんな顔を?」


 恐る恐る尋ねると。


貴方(あんた)さ~、自分で女の子を連れ込んで、あたしに(すが)り付くつもりか!?男だったら根性を見せなさい!!」


 仁が予想していたもう一つの未来、一番なって欲しくない未来が今、直撃しようとしていた。


「それって?……つまり――」

貴方(あんた)が責任持って、アティラちゃんを支えなさい!!」


 雷が落ちる音と共に、仁の心が折れる音が重なり合う。


(――ですよね~)


 真っ白になる仁が灰になって消える姿が思いつきよう。

 そんな様子の彼を傍らでアティラは、経済の事情も全く知らず、両手で仁の手を握る。


「よろしくね、熊さん♪」


 トドメを刺された相手に、更に追い討ちを掛け、確実にその魂を燃やし尽くす。

 責任という重量が肩に圧し掛かり、プレッシャーが増す。

 しかし、と言い訳に仁は、ポケットに入っている財布を明日香に見せる。


「でも、今月の小遣い、全部使ってしまったから……貸して――」


 明日香は、仁に近づき、耳元で囁く。


「箪笥の上から二番目の奥、T―シャツ類が入っている所」


(――ッッ!!)


 急激に青ざめる仁の表情。

 それを見越した上で明日香は、更に仁の耳元に囁き掛ける。


「私が息子の隠し物を知らないと思った……もし、いう事を聞いてくれたらあの事をアティラちゃんにばらしたりしないから――後、お金の事なら大丈夫、貯金――しているのは知っていたからね……だから、それでアティラちゃんを喜ばしなよ」


(ぜ、全部ばれてる~)


 親に隠し事ができないとは、まさにこの状況を指し示すのだろう。

 こっそりと小遣いとバイト代の何割りかを貯金として貯め込んでいた。

 それに加え、あの事まで母に知られ、あれをアティラに見させるとまで脅してきた。

 仁は、手を思いっきり握り締め、歯も強く食いしばる。

 痛い損害を受ける仁だが、脳をできるだけポジティブに考え少しリラックスする。


(まあ、考えによっては、これで、アティラさんと再びデートができるチャンスかも!)


 こうして、仁とアティラの週末の買い物デート?が行われるのであった。

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