第8話:いざ!
「セフィ、まだ〜?」
「ちょっと待って。今行く〜」
冒険に行く準備って色々大変よね。
何があるか解らないじゃない。
取りあえず持っている中で一番丈夫そうな服を着る。
その上に革のジャケット・・・
足下は革のブーツと・・・
ん・・・・重たい・・・・
でもしょうがないね。
さて、行きますか。
ガチャ・・・
シフォンとジャニスが不思議な顔で立っていた。
時間が止まったような沈黙・・・
「ずいぶん勇ましいな。」
「ねぇ、セフィ。何しに行くの?」
「だって、冒険だよ?何が起こるか解らないじゃない。」
「まぁ・・な。」
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その頃工房の表では・・・
「あら、ずいぶんと早いのね。」
先に来て待っていたレオンに後から来たシェーンが話しかける。
「あぁ、いつもの城に行く時間に目が覚めてしまった。そういう君もずいぶん早いんじゃないか?」
「一人で出かけるときはもっと早いわ。」
話の続かない2人・・・
「ところで・・・」
「そういえば・・・」
なぜか同時に話し出す2人・・・
「あなたからどうぞ、大した話じゃないわ。」
「いや、お先にどうぞ。私も大したことではない。」
「そう、それじゃ一つ聞かせて。なぜ王立軍に?」
「いや、さしたる理由はない。親父が王立軍の騎兵隊で隊長をやっている。それだけのことだ。」
「そう、それで何故冒険に?」
「君は・・・セフィの父上のことは知っているかい?」
「いいえ、何も知らないわ。」
「そうか・・・セフィの父上も王立軍なんだ。王立軍装甲兵隊ファレリア城警備担当レイズ・フレストーム少将だ。」
「それじゃ、あなたの上官ね。」
「そういうことだ。そのフレストーム少将から直々に行ってくれと言われている。まぁ、私も昔から冒険家になりたかったこともあるからまんざらでもないがね。」
「そう・・・それだけ?」
「な、何のことだい?それ以外に何も・・・」
「それなら良いわ。」
「そ、それより今度は私が聞いても良いかな?」
「えぇ。」
「何故冒険家に?」
「そうね・・・・ちょっと長くなるけど。」
「構わない。まだ時間はあるさ。」
「もう20年くらい経つかしら・・・まだ私が小さかった頃の話よ。」
そのころシェーンの家族はウトルラ村に住んでいた。
麦や大豆を作っては町に売りに行き生計を立てていた一家は慎ましいながらも平和に、そして幸せに暮らしていた。
シェーンも物心付いた頃から仕事や家事を手伝っていた。
そんなある日、いつものようにシェーンが水場まで水を汲みに行っているときのことだった。
桶に水を汲み、ヤクの背中にくくりつけ家路につこうとしたその時。
「シェーン!シェーン!」
幼なじみの男の子が手を振り上げながら息も絶え絶えに走ってきた。
その表情はただならぬ事が起きたことを物語っていた。
「リュウ!どうしたの!」
「たいへんだ!シェーンの家が・・・お父さんと・・・お母さんが・・・」
荒い息を付きながら何とか喋るリュウの肩を激しく揺らしシェーンが問いただす。
「ねぇ!どうしたの!お父さんは?お母さんは?!」
「・・・・・・」
何も答えないリュウから目をそらしまっすぐに家の方角を見つめる。
「シェーン、今帰っちゃいけない。帰ったらシェーンも・・・あ!シェーン!待ってよ!」
一目散に駆け出すシェーン。リュウにそれを止めるすべはなかった。
「何も考えずに走ったわ。ただ、父と母の無事を祈って。」
「それで、ご両親は?」
決して同情するわけでもなく、無関心なわけでもなく、努めて冷静に質問するレオン。
「死んだわ。モンスターに襲われたんだって村の人はいってたわ。しばらくは涙も出なかった。家で一番大事な家宝も取られていたわ。」
「そうか・・・。」
「慰めや同情はいらないわ。その時村の人にどれだけの言葉を掛けてもらっても、どれにも心はなかったわ。」
「そうだな。その時のシェーンの気持ちは痛いほど解る・・・なんてのはそれこそ嘘だ。私には決して解らない痛みだろう。」
「そうね。結局周りの心ない対応にいたたまれなくなって村を出たわ。親戚の家を転々としながら・・・何処にいても扱いは同じだったけどね。」
ふぅ、とため息を一つつくと空を見てにっこりと笑った。
「決して敵討ちのために冒険家になったわけではないのよ。そう思われても仕方ないけど。ただ、家宝だったあの石だけは取り戻したいの。」
「そんなに大事だったのかい?」
「解らないわ。ただ、いつも暖炉の所にかっざてあって、それが家族の象徴の様な物だったから・・・かな?」
「そうか・・・」
しばらく考え込んでいるようなレオン
「悪いわね。暗い話になってしまって。」
「一つ大事なことを聞いていなかった。」
「何かしら?」
「シェーンのフルネームは?」
「何?突然不思議なことを聞くのね?シェリルよ。シェリル・ガードナー」
「そうか、やっぱり君だったのか。」
「え?何の事かしら?」
「以前、王立軍からスカウトが行かなかったかい?」
「えぇ、来たわ。ただ・・・」
「やっぱり!君のことは知っていたよ。いや、王立軍なら知らない者はいないと思う。」
「そんな・・・」
「いや、君は有名人さ。セフィの父上からよく話を聞かされたからね。幼くして家族を失った凄腕の女剣士の話さ。何せ、王立軍がスカウト、ってこと事態が珍しいことなのに加えて、白羽の矢が立ったのは女性だと言うことが前例のないことだそうだ。ましてやスカウトを断ったこと自体が前代未聞だと。」
「だって・・・あの王立軍の人、すごく怖かったし・・・それにあのときはとてもそんな気にはなれなかったわ。」
「あははは、その、王立軍の人、その人がレイズ・フレストーム、セフィのお父上だ。」
「え・・・・・・・」
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「セフィ、もうみんな集まってるぜ。表がずいぶん騒がしいや。」
「あ、もう・・・そっか。じゃ、出発ね。」
「あぁ、行こうぜ。」
ガチャ・・
工房のドアを開けて外に出る。
レオンさんとシェーンさんが何か話をしながら待っていた・・・
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「な、なに。この沈黙・・・」
二人の目線が何故か冷たいような・・・
「ねぇセフィ。あなた何処に行くつもり?」
笑いながらシェーンさんが聞いてくる。
「え?冒険・・・ですよね。」
「あなた、コムワードの森に行ったことないの?」
「・・・えぇ・・・」
「あそこはね、子供ずれの家族でも行く所よ。もっとも手前の方の話だけど。」
「まぁ、良いじゃないか。冒険に掛ける気持ちはよくわかったよ。」
レオンさんがフォローしてくれる。
そう言われてみれば2人とも軽装。
私だけ張り切りすぎたのかなぁ・・・
「あ、あたし・・・・着替えてきますっ!」
あわてて工房に飛び込んだ。
はぁ、バカみたい・・・