第5話:勘違い…
「ただいまぁ」
「あ、お帰りなさい。早かったわね。あった?」
「あぁ、その辺の道具屋にごろごろしてたぜ」
「えぇ・・・何で・・・」
「さっきシフォンから昨日のことは聞いたよ。そう言うこともあるさ。ま、頑張って造ってくれ。えーっと、なんだっけ、何とかの卵・・・」
「うん、妖精の卵ね。頑張るわ。」
「店番は任せとけ。これでも多少は接客やったことあるんだ。」
「そう、わかったわ。そうしたら・・・・値段はこれに書いてあるから。シフォンも手伝ってあげて。何かあったら奥にいるから。」
「わかった。」
ジャニスが居てくれて助かったね。
頑張って造らなきゃ、明日までだもの。
ジャニスが工房に来る
「おぅ、セフィ!」
「・・・・・ちょっと待って・・・」
「・・・あぁ・・・」
「・・・・・あぁ、やっぱりだめだ。・・・何?」
「お客さんみたいなんだけど、セフィに用があるって。」
「え、誰?」
「さぁな。黒いマントのおばさん」
「えぇ〜。そんな人知らないよ。」
「でも、『セフィ、いる?』って。用事を聞いても直接じゃないと言えないってよ。」
「解った・・・」
「はい・・・あ、ママ!」
「あ、セフィ。元気にやってるみたいね」
「どうしたの?急に。パパは?」
「私1人よ。パパは仕事。」
「連絡くらいくれればよかったのに。」
「ちょっと別の用で近くまで来たから寄ってみたの。良いお店じゃない?」
「へへ、ありがと。頑張ったんだよ。」
「順調?」
「まぁ・・・ね。」
「何か作ってた所じゃなかったの?」
「あ、そうだ。今、妖精の卵を造ってるの。」
「へぇ、進歩したわね。そこまで作れるようになったなんて。」
「う〜ん。でも時間ばっかりかかっちゃって・・・」
「最初はしょうがないわよ。工房見せてもらっても良い?」
「うん!」
「へぇ、あなたには珍しく綺麗にしてるじゃない。」
「う、うん・・・」
まさか今日だけ綺麗だなんて言えないよ。
「どう?うまくいってる?」
「うん・・・アリタニーヤ河の石からうまくエレメントを出せないんだ。」
「ちょっとやってごらんなさい?」
「うん・・・」
石に手を乗せて・・・・だんだん暖かくなってきた・・・
「だめだめ。」
「え?」
「それじゃママでも出すのは大変よ。アリタニーヤ河の石はね、目があるの」
「目?」
「そう。ここから光をかざして・・・・ほら、このあたり。解る?」
「え?どれ・・・・??」
「ここに、こう・・・筋が見えるでしょ?」
「あ、うん・・・」
「この筋に沿って取り出さないと、なかなか出てきてくれないの。」
「ふ〜ん」
「さ、もう1回。頑張って。」
「うん」
目の向きを考えて、もう一回・・・
あ、簡単にするっと出てきた。
「そうそう。何でも力づくでは駄目なの。力でやろうとしては反発するわ。エレメントの力に逆らってはダメ。素直にやってあげるの。」
「そうか・・・うん。ありがと」
「頑張ってね。ちょっとは安心したわ。元気でやってるみたいだしね。」
「うん!元気だけはね」
「ふふ、いい人も見つかったみたいだし・・・」
ジャニスの後ろ姿を見ながらママ。
「ち、ちがうよ。ジャニスは・・・」
「ジャニス君ていうんだ。かわいいじゃない。ママも嫌いじゃないわよ。ああいう子。」
あ、勘違いしてる。
「じゃ、私はもう帰るわ。」
「送っていこうか?」
「いいわよ、仕事があるでしょ?」
「あ、うん・・・」
「じゃ、頑張って。」
「うん、ありがと。今度来るときはちゃんと連絡して。」
「わかった。今度はパパも連れてこないとね。たまにはこっちにも来なさい。」
「はーい。」
「それじゃ」
「ジャニス君、出来の悪い娘ですが宜しくね。」
「あ、はぁ・・・」
・・・・完全に勘違いしてるね。
〜夜〜
「ねぇ、セフィ・・・」
「・・・・・・ん・・・・」
「セフィってば・・・」
「うん・・・・」
「セフィ!」
「ほぁ?あ、シフォン。」
「あ、じゃないよ。出来たの?」
「うん、もうちょっと・・・おやすみ・・・」
「ちょっと、セフィってばぁ」
「いいよ、寝かせておけ。」
ジャニスが毛布を持ってきた。
「んな所で寝たら風邪ひいちまうぜ。」
「ジャニスもここで寝てるじゃない。」
「バカ、俺は鍛え方が違うんだ。」
「あぁ、バカは風邪引かないってヤツか。」
「こら、ここで争いは禁止だ。睡眠妨害は重罪だぞ」
「わかったよ。」
「しょうがねぇ、俺がメシ造ってやるよ。」
「食べれる物?」
「当たり前だ。びっくりして腰ぬかすぞ。」
「ふーん。楽しみにしてるよ。」
「あぁ、おとなしくそこで待ってな。」
「ふぁ、・・・あ、なんかいい匂い・・・そう言えば、お腹空いたな・・・」
「お、起きたな。」
「あ、ご飯つくってくれてるの?」
「あぁ、期待して待ってな。ジャニスシェフがおいしいモン造ってやっからよ。」
「あ、うん・・・」
へぇ、ちょっと以外・・・
料理なんか絶対しない人だと思ってたのに・・・
人は見かけによらないね。
「さ、あっちに行った。見てられると仕事がはかどらねぇや。」
「うん・・・」
「あ、セフィ。起きたの。」
「うん、おいしそうな匂いで起きちゃった。」
「匂いだけはおいしそうだね。」
「どんな物が出来るんだろ?」
「さぁ?」
シフォンと2人で食事を待つ・・・工房を始めてからはなかった光景。
なんだか落ち着かないね。
「あ、そうだ。これ。」
シフォンがテーブルの上の袋を指した。
「何?」
袋を開けてみる。
お金と、メモ。
メモを見る。
「・・・今日の売り上げの明細だ・・・」
「セフィは作ったことないでしょ・・・」
「うん・・・」
「ね、ジャニスって結構几帳面な人?」
「うん。少なくともセフィより几帳面だね。」
「何よ。それじゃ、私がいい加減な人みたいじゃない。」
「間違ってないと思うよ。」
「もぉ。」
とは言っても、まねできないなぁ・・・
「もっといい加減な人かと思った・・・」
「うん・・・確かに。」
「お待たせ!」
ジャニスが料理を運んできた。
いろいろ入ったスープにパン。
メニューは至ってシンプル。
「わぁ、いい匂いね。」
「バニーナ家特製シチューだ。これは・・・っと、おまえ用に冷ましておいたからな。」
シフォン用のもあるんだ・・・
「いただきま〜す。」
「うん!おいしい!」
「セフィには出来ない料理だね。」
「う、うん・・・」
「ははは、そんな事ねぇよ。誰にだって作れるさ。」
「そう、じゃぁ、今度作り方教えて!」
「あぁ、かまわねぇ。」
「ふぅ〜ごちそうさまでした。」
「いやぁ〜食った食った。」
「うん、おいしかったね。」
「ね、ジャニスってさ。」
「あ?」
「見かけによらないね。」
「何だよ、そりゃ。この見てくれで料理したら変か?」
「う〜ん・・・最初はね、もっと雑でいい加減な人かと思ったの。」
「け、悪かったな。こんな見てくれでよ。」
「あ、違うの。う〜ん・・・なんて言うのかな・・・」
「まぁ、しょうがねぇよ。この辺じゃどうか知らねぇけど。俺の田舎じゃ、兄弟多いから何でも1人でやらなきゃ生きて行けねぇんだ。何せ俺も6人兄弟だしな。だから、一通りのことは出来るようになっちまう。それに言葉遣いも荒い。」
「そうか・・・」
「まぁ、悪い気はしねぇよ。誉めてくれてるんだろうからさ。」
「うん!そうだよ。」
「ははは、まぁ、居候させてもらってるんだ。これくらいはやらないとな。」
「ふぁ〜っ・・・はぁ、なんか眠い・・・」
「しっかり休まねぇと、いい仕事できないぜ。後は俺が片付けておくから、あんたはもう休みな。」
「え、いいよ。悪いもの。私も片付けるよ。」
「メシ代と、宿代だ。気にするな。」
「そう、それじゃ、後は宜しくね。」
「あぁ」
ふぅ・・・