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覇王様の子守唄 第2章  作者: 日明
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少年を想う王女の言葉

 村を発つベルダを村の者達は皆見送りに集まった。


「ベルちゃんもう行っちゃうのか・・・」


 寂しいと涙ぐむシンの父にベルダは微笑む。


「短い間でしたがお世話になりました。とても充実した三日間を過ごすことができました」

「ベルちゃんこれ」


 シンの母に差し出された小さな紙袋を受け取り疑問符を浮かべながら中を覗き込む。すると甘い香りがフワリと漂った。


「キャラメル。前ベルちゃん美味しそうに食べてたから。馬車の中ででも食べて」

「お母様・・・」


 シンの母はそっとベルダを抱き締めた。


「ベルちゃん。もし何かあった時はいつでもうちに来ていいからね。私達は貴女のこと好きになっちゃったから。嫌なことも文句言わずにしてくれるとてもいい子だもの」


 温かい優しさに涙が滲んだ。いつの間にか自分も好きになっていたんだと実感する。この村と、この村の人達と離れるのがこんなにも寂しい。


「いつでも来ていいからって王族がんなヒョイヒョイこんな村に来れるかよ。今回は特別なんだよ。ほら行くぞ」


 シンがベルダの肩をポンと叩く。


 ベルダはシンの母と名残惜しそうに離れ、周りの村人達を見回しながら言う。


「この村で過ごした三日間はとてもステキな思い出です。この村を皆さんを、大好きになりました。ありがとうございます」


 頭を下げるベルダに皆からもありがとう!と声がかかった。いくつもいくつも。


 ベルダは嬉しさと寂しさから笑って涙を流した。


「あーほら!いつまでたっても終わんねえから!行くぞ」


 シンに促されベルダはもう一度頭を下げ馬車に乗り込んだ。


「シュアン様・・・。とても素晴らしい世界で生きてこられたのですね」

「ま、確かにいい環境ではあるかな。俺は人に恵まれたと思うよ」


 シンの満足そうな横顔にベルダは小さく微笑んだ。




「僕のエンジェルお帰り!!」

「ただいまですわ。お兄様」


 城ではナルシスが待ち構えており、到着したベルダを見つけるやいなや抱き締めた。


「何であの男がまたここに・・・っ」


 マルドアがそんなナルシスを見て額に青筋を浮かべている。


「妹迎えに来たんだろ?」

「従者だけで十分だろう」


 ギドはマル坊がここまで誰かを嫌うの珍しいなーと面白がって見ていた。


 妹を抱き締めていたナルシスはハッとしたようにベルダの手をとった。


「どうしたんだい!?この手!絹のように白かった手が・・・っ」


 ベルダの手を見てナルシスは嘆く。ベルダは思い出したように兄の手を振り払いディーナに駆け寄った。


「あの!この手を見てどう思われますか?」


 ディーナは突き出された白い手の平に並ぶマメを見て微笑む。


「凄く頑張ったんだね。痛かったのに、それでも頑張ったんだね。偉いよ」


 ディーナはそっとベルダの手を優しく包み込んだ。ベルダはその答えに泣きそうになり、無理矢理笑顔を作った。


「予想通りの方です!」

「え?」


 ベルダは疑問符を浮かべるディーナに問いを投げかける。


「昔のシュアン様がどんな方だったか教えていただけませんか?」

「何聞いてんだよ!」


 シンが恥ずかしそうに怒鳴るが、ディーナは意に介した様子もなく口を開く。


「シンは昔から面倒見が良くて責任感がある子だったよ。例えば、仕事して頑張ったご褒美にスイカをシンを含む三人がスイカを貰った時があったの。そのうち一人がスイカを落としちゃった。そんな子にシンは自分のスイカを迷うことなくあげるの。でも実は、スイカはシンの大好物だった。大好物を落として泣いちゃってる子にあげれるシンは凄く優しい人だと思ったな」

「ディーナ・・・頼むからやめろ・・・っ」


 真っ赤な顔を両手で隠したシンが消え入りそうな声で言う。


「そんなシュアン様にディーナ様がスイカを差し上げたのでしょう?」


 ディーナは少し目を丸くして驚く。


「凄い!何で分ったの?」

「分かりますわ。シュアン様と貴女はよく似てらっしゃいますから」


 ベルダのその言葉にはシンもディーナも首を傾げた。


 その後ナルシスに促され、ベルダはフルール向かう馬車に向かう。だが、一度振り返る。


「シュアン様。ベルは言葉が足らなかった気が致します」

「言葉?」


 ベルダはシンの目を真っ直ぐ見つめて微笑む。


「ベルはシュアン様という存在を心よりお慕いしております」


 シンは一瞬驚いた表情を見せたが、頭を掻きながら口を開く。


「だからそれは俺みたいなのにまだお前が会ってないからで・・・」

「これからベルはシュアン様に似た方を探して生き続けなければならないでしょうね。そして比べて落胆する。想像できますわ」


 ベルダはやがて涙を流しながら笑った。


「例え貴方の一番になれなくても、貴方の好きの一つになれればそれで構わないと思ったんです。今までずっと一番に愛されなきゃ許せなかった自分がです。でも・・・その理由はすぐに分かりました。一番には敵わないんです」


 ベルは唇を噛み、胸元を強く握り締めた。


「シュアン様に同じ思いは求めません。でもっ!シュアン様を好きでいることを許してください!ベルは・・・貴方が好きです・・・っ」


 震えながら俯く少女にシンは何も言わなかった。ベルは顔を上げて再び微笑み口を開く。


「それでは皆様ごきげんよう」


 そう言って馬車に乗り込み、シン達の方に目は向けなかった。

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