少年はたった一人を想う
三日目もベルダは文句一つ言わず、畑仕事や牛、馬の世話をした。
「結局最後まで同じ部屋かよ・・・」
就寝時間になりシンは片手で顔を覆う。
「ベルは嬉しいですわ」
「まあいい。寝るぞー」
シンが電気を消したその数分後。
「シュアン様」
「んー?」
「一緒に寝てもいいですか?」
「ハア!?」
シンはガバッと勢いよく起き上がりベルを見る。
「お前同室ってだけでもヤバイのに危機感持てよ!」
「シュアン様なら大丈夫なのでしょう?」
同じく起き上がり反論するベルに大丈夫じゃねえよ!と内心ツッコミを入れつつ、散々悩みため息をつき、上掛けをめくった。
「三日間ちゃんと頑張ったからな。わがまま一つぐらい聞いてやるよ」
ベルダは顔を輝かせすぐにシンのベットに潜りこんだ。
「ベルダ。お前今好みの奴が俺しかいねえから俺が好きってなってるだけだからちゃんといい奴探せよ」
「何故ですの?シュアン様だってとても素敵な方です」
「俺がずっと片思いこじらせてんの知ってんだろ?例えお前と恋仲になってもきっと俺の中にはアイツがいる。俺も嫌だしお前も嫌だろ?そんな思いさせたくねえ」
「ですが彼女は王の婚約者に・・・」
少しだけ答えるシンの言葉に間が空いた。
「知ってる。あの二人は付け入る隙がないくらいお互いを思いあってる。王はディーナのためだけに玉座を捨てたこともあったしな」
「え!?」
ベルダが盛大に驚いたことで以前の件の詳細は知らないのだと悟った。
「あ、これは内緒な。でも・・・全部捨ててもディーナを優先してくれるくらい愛してんだ。なら・・・何も心配することねえだろ」
ベルダはポタッと何かが落ちる音を聞き、顔を上げようとしたが不意に視界が手で遮られる。
「見んな・・・っ」
少し震えた声。泣いているのだとすぐに分った。同時に泣くほど彼女を愛していたのだと理解した。
ベルダはシンの服を握り締め口を開く。
「シュアン様。以前何故貴方を好きになったか告げる前、嫌いにならないからと言ってくださいましたよね?」
「おう」
「今からするのは愚痴になります。それでも・・・」
「大丈夫だよ。人間裏のねえ人間なんていねぇんだから」
ベルダはその答えに微笑んだ。
「ありがとうございます。・・・正直この村に着てドレスを着替えさせられるのも少し嫌でした」
「そりゃそうだ。今まで綺麗で豪華な服しか着てこなかったんだからな」
「水を運んだり、馬小屋の掃除をしたり、本当はとても嫌でした」
ベルダはマメだらけになった自分の手を見つめる。誰からも褒められる小さく白い、美しい手が自慢だったのに。
「じゃあ何で手マメができるまで頑張ったんだ?マメができるまでじゃねえ。潰れるまでだ」
シンはベルダの手を取り、月明かりで照らす。ベルダから見れば醜い手だ。でも。
「貴方はこの手を『頑張った』と言ってくださった。思い出したんです。兄様が気に入る歌姫の手も傷だらけで決して美しいとは言えないこと。そんな彼女を愛するシュアン様の意味を知りもっと頑張らなければと思ったんです」
下心を持ってずっと仕事をしていた。
「ずっと貴方に好かれるためだけに過ごしてきました」
「だから今俺しかいねえだけで探しゃもっといるんだから俺に好かれる必要ねえだろ」
ああ。まだ伝わらない。
ベルダは心の中で苦笑して続けた。
「でも、段々仕事が楽しくなってきたのです。馬や牛達がなついてくれるようになり、畑の作物の成長が見られ、知らないことを沢山知れる。辛い仕事の中に新鮮なことばかりが起きて、とても充実した三日間でした」
「そう考えられるお前はすげぇよ。村の仕事なんてキツいもんばっかなんだからな」
シンはポンとベルダの頭を撫でる。
「お前がどう生きたいのか分かんねぇし、王族って身分がどれほど足かせになるかも俺には分かんねえ。ついてくと決めた男の仕事に習うってんならそれもいいだろうよ。お前なら出来るだろうしな。俺はダメだから、明日フルールに帰ってしっかりいい男探せ。ほら、寝るぞ」
「・・・はい」
ベルダは様々な思いを秘めたまま、暖かさと幸せに包まれ眠りについた。