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覇王様の子守唄 第2章  作者: 日明
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少年は愛を語る

 翌朝ベルダはリビングに入り、甘い香りに気付いた。甘いということは分かるが、今まで嗅いだことのない香りで、好奇心からその香りを辿った。香りの根源はすぐに分かった。


「あら、おはようベルちゃん。早いわね」

「おはようございます。お母様。何を作られているのですか?」


 台所ではシンの母が作業をしており、鍋らしきものをかき混ぜているのが分かった。


「これはね、牛のお乳と砂糖で作るキャラメルってお菓子なの。アメと思ってくれればいいかしら」

「キャラメル・・・?」

「朝ごはんの後にあげるわ。ちょっと待ってね」


 ベルダは言われた通り手伝いをしながら大人しく待ち、家族揃って食事を済ませた。その後シンの母が小さな籠をテーブルに置く。その中にはベージュより少し濃い色の四角い物が入っていた。


「おお!キャラメルじゃないか!」


 真っ先にシンの父が手を伸ばし口に放り込んだ。そして、顔をほころばせる様を見て、シンも習う。


「うん。やっぱお袋のキャラメルが美味いな」

「愛情こめてますから。ベルちゃんも食べて」

「あ、はい」


 シンの母に促され、ベルダは食べた事のない物に不安と期待を込めて口に運ぶ。そして目を見開いた。


 フワリと広がるクリーミーさと、舌を包むような甘み。


 感じたことのない美味しさに驚く。


「美味いだろ?」


 シンの問いにベルダは大きく頷く。


「はい!とても・・・」


 目をキラキラと輝かせながらキャラメルを頬張るベルダに両親は和んでいた。


キャラメルを堪能した後、村の仕事もベルダはしっかりとこなした。


「あのよぉ・・・。もう別に俺に好かれる必要なんてねえんだからサボッてもいいんだぜ?」

「いえ。純粋に楽しいのです。城ではひたすら無駄な時を過ごしてきましたから、自分で動いて得られる結果は新鮮ですわ」

「お前・・・本当にいい子だな」


 シンはベルダの頭を撫でた。直後村の子供に呼ばれ歩いていった。ベルダはそんなシンを見送った後自分の頬に両手を当て、熱を鎮めていた。


「ベルダー!」

「ひゃい!?」


 シンに呼ばれ思わず声が裏返る。


「ちょっと来てくれ」

「わ、分かりましたわ」


 ベルダはシンに駆け寄りそのままついて行った。山の奥へ奥へと説明もないまま進んで行く。


「あの・・・何処に行かれるのですか?」

「いいとこだよ」


 シンはニッと笑い、ベルダを連れて草むらを抜けた。


「シン兄おせーよ!」

「あ、ベル姉ちゃんが一緒だー」


 少し拓けた場所に出たかと思えばそこには村の少年が二人いた。


「ニーク、ケリー。ちゃんと我慢出来たみたいだな」

「俺らそこまで餓鬼じゃねえよ!」


 ニークが頬を膨らませ、シンが笑いながら頭をポンポンと叩く。


「悪い。悪い。それじゃ食べていいぞ」

「「やったー!」」


 二人は喜び、木になっている赤い実をとっては口に運んだ。


「あの・・・」

「ん?あ、ちなみに二人が食べてんのは木苺だ。勿論無毒だし、結構うまいぜ。あと、何で俺が呼ばれたかってーと、こういうもん見つけた時は大人がいねぇと食べちゃいけねえ決まりなんだ。木苺は毒性があるもんは聞いたことねえが、キノコや草は毒を持ったやつも多いからな。あと採り尽くしちまったら種が広がらねえからな」

「種が広がる?」


 どういうことかと聞き返せばシンはああと頷いて続ける。


「大体果実をつける種類の多くは鳥に食べてもらって、種を鳥に運んで貰うんだよ。種は消化されねえからフンと一緒に地上に落ちる」

「植物は動物を利用しているのですね・・・」

「実をつけるのも蜂なんかを利用してるしな。ま、タンポポなんかは種広げんのは風の力だけだけだがな」

「何でも知ってらっしゃるのですわね・・・」


 ベルダが尊敬の眼差しで見ればシンは苦笑した。


「だから村の奴らだったら皆知ってるって」


 シンはふと少年二人を見てに声をかける。


「お前らーそろそろやめとけー」

「えーまだ結構あるじゃん」

「ダメっつったらダメなの」

「「はーい」」


 シンは言いながら一つ木苺をとった。


「あー!俺らにはダメっつったのに!」

「ズルいー!」


 ニークとケリーは頬を膨らませて抗議する。


「阿呆。俺は一個も喰ってねえだろうが」


 シンはとった木苺をベルダに差し出した。


「え・・・?」

「食べたことないだろ?木苺。食べてみろよ」


 ベルダはそっと受け取り少し慎重に口に運んだ。そして、目を丸くする。


「美味しい・・・」

「だろ?」

「「でしょー?」」


 子供達は自慢げに鼻を鳴らす。


「甘みはしっかりしてっけど強くねえし、酸味がほんのり効いてうまいんだよな」

「ベル姉が食べるなら文句言わなかったのに」

「盛大な差別してくれてんじゃねえか」


 シンはニークの頭に両拳を当てグリグリといじる。そんなシンをケリーが必死に止めていた。その様子があまりにも楽しそうでベルダは思わず笑った。


「ん?何かおかしかったか?」

「いえ・・・。楽しそうで羨ましくて・・・」


 クスクスと笑うベルダの元に少年二人が駆け寄る。


「ダメだよ!ベル姉はシン兄みたいに乱暴者になっちゃ!」

「ベル姉は優しい人だから大丈夫だよ」


 ね?と笑うケリーにベルダははいと微笑み返した。




 1日畑仕事や牛の世話などに精を出し、しっかりご飯も食べ、就寝時間に。


「だから・・・っ。何でまだ部屋一緒なんだよ・・・っ!」


 シンは昨日と同じ光景に片手で顔を覆って唸った。


「シン様さえよろしければ私は構いませんわ」


 ニコリと笑うベルダの言葉を聞いて、シンはそんなベルダの額を指で突いた。いきなりのことで訳がわからず困惑するベルダにシンは口を開く。


「バカヤロウ。男とんな簡単に二人きりになるんじゃねえよ。男ってのはな、女の子と二人きりになったらエロいことしか考えねえような生き物なんだよ」

「シン様もですか?」

「俺は中でも珍しい据え膳を食えねえ男だから違うんだよ」

「なら安心でしょう?」

「それでもだ。お前は自分が可愛いってこと自覚してんだかしてねぇんだか・・・」


 シンはハァとため息をつく。ベルダはサラリと可愛いと言われ、慣れている言葉なのに何故か顔に熱が集まった。


「あ、そう言えば皆がシンって呼ぶからそれで定着してっけど俺の本名はシュアン。シュアン・クルドアだ」

「では私も改めましてベルダ=フェア=フルール。フルール王国の弟4王女です」


 第4王女という言葉にシンはへえと声を漏らす。


「姉貴3人もいるのか」

「下に妹も一人いますわ」

「それにあの兄だろ?」

「お兄様はナルシスお兄様以外にも二人。弟も二人います」

「ってことは・・・10人兄弟か!すげぇな」


 シンは一人っ子。村は多くて4人兄弟だ。その倍以上となると正直想像ができない。


「ほとんどが異母兄弟ですわ。王族での兄弟の数はどこも似たようなものです」

「なるほどなぁ・・・」


 シンは布団に寝転がり、ポツリポツリと言いだした。


「いきなりだけどよ。俺、ずっと惚れてた奴がいたんだ」

「存じてます。お兄様も気に入っておられた歌姫でしょう?」


 シンはああと頷く。


「あいつさ、昔っから弱虫でよく泣いて、ビクビク怯えてたんだ。俺より年上なのにってよく思ったよ」

「シュアン様は女性はか弱い方がやはりお好みですか?」

「いや、強い方が好きだ」

「では何故彼女を?」


 強い方という割に話に出てくる彼女に強さは見られない。その疑問を素直にぶつけるとシンは答える。


「あいつ、芯はすげぇ強ぇんだよ。ここぞって時はぜってぇ泣かねえんだ。だいぶ昔なんだけどよ。ディーナが一番上だったんだが、村の餓鬼共で夜の山を探検しようって話になったんだ。ディーナは危ないから止めようって散々言ったけど、俺達は聞かなかった。だからディーナは付き添いで一緒に来たんだ。そしたら見事に迷子になっちまって皆大泣き。俺もな。けど・・・ディーナだけは泣いてなかった」


【大丈夫。ちゃんと村に帰れるから】


「ずーっと皆励まして山下ってた。そしたら、野犬に囲まれたんだよ」

「野犬に・・・ですか?」

「ああ。しかも一匹だけじゃねえ。複数だ。完全に狩りの対象にされてた。やべえって皆思ったよ。ディーナが俺らを庇って前に出てた。けど・・・その背中が震えてた。やっぱり怖かったんだよ。ディーナも。それでも気丈に振舞ってた。いつくるかって野犬待ち構えてたんだけどよ、逆に野犬達は後ずさりすんだよ。どうしたんだと思ったら何かに怯えてる風だった。その視線は俺らの背後。そっと振り向いたよ。そこに・・・熊がいた」

「え!?だ、大丈夫だったのですか?」


 ベルダは自分のことではないのに思わず青くなる。


「今度はディーナが熊の前に立ちはだかって俺らを守ってくれた。そしたら熊は何もせずに去ってったよ。おかげでぴんぴんしてる。んで、どうにか村に帰れたところで、皆の両親が待ってた。勿論ディーナもな。そして、ディーナは両親に抱きついた途端声を上げて泣いた。きっとずっと怖くて不安でたまらなかっただろう。だが、俺達を不安にさせないために必死に耐えてたんだ。本当は怖くて大声出して泣くような女の子なんだって思ったら守ンねぇとって強く思った。そっからずーっとだ」

「・・・素晴らしいです」

「確かにスゲー女だよ。アイツはほんと」


 いいえ。私が素晴らしいと思ったのはたった一人を思い続けている貴方です。


 この言葉は口には出さなかった。

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