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覇王様の子守唄 第2章  作者: 日明
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少年が抱く疑問

 一方のガイア村では――


「ベルちゃーん。馬のところに水運んでくれるー?」

「はい!お母様!」

「ベルちゃん。悪いけど後で肩揉んでくれるかい?」

「勿論喜んで致しますわ!」


 とベルダは異常なほど馴染んでいた。


「待て待て待てーーー!!!」


 思わずシンが叫ぶほど。


「親父もお袋も何俺に頼むみたいに仕事頼んじゃってんの!?分かってる!?王族だよ!?王女様だよ!?」


「分かってるわよ。でもベルちゃんが自分からここでのこと学びたいって言ってくれてるんだから王女様扱いなんて逆に失礼でしょ」

「逆に王女様なのによく働いてくれてとてもいい子じゃないか」


 うんうんと頷くシンの両親。


 何で親父もお袋も王族の姫をそんな簡単に受け入れちゃってんだよ!!!


 とシンは心の中で怒鳴りながらベルダに向き直る。


「お前も!別に文句の一つぐらい言えよ!『私の仕事じゃありませんわ』とは『そんなこと下賤の者にやらせればいいのですわ』とか!」

「あら。何度も申しあげますが、貴方様と共にいれるなら何の障害もありませんわ」


 ベルダは胸に手を当てニコリと笑う。


「その服だって!お袋のお古だぜ!?嫌じゃねえの!?」


 ベルダは煌びやかなドレスでは動き辛いし汚れるからとシンの母の服を借りていた。


「不思議ですわね。全然嫌じゃありませんの。むしろ貴方様のお母様のものだと思うと少し嬉しいんです」


 ベルダの笑顔が少しディーナに重なった。


「心配ならあんたがベルちゃんについてあげなさいよ」

「そうだね。よろしく。シン」

「え!?」

「まあ!嬉しいですわ!よろしくお願い致します」


 断れない状況に追い詰められ、シンは頷くしかなかった。




「んじゃ、馬小屋の掃除の仕方教える。けど、本当にいいのか?馬小屋の掃除つったら糞とか尿で臭くなった藁とか片付けんだぞ?」


 シンはベルダと共に馬小屋を訪れていた。馬は移動手段と共に出荷物を運ぶための重要な役割もあるため大事な動物だ。


「旦那様はいつもやってらっしゃるんでしょう?」

「だから旦那って呼ぶんじゃねえよ!まあな。村の奴らはある程度の年になったら皆やってる。馬は大事な移動手段だし、荷物運ぶのにも重宝するからな」

「ならば私も貴方様が経験したことをしたいですわ」


 シンはため息をつき分かったよと声を掛ける。


「んじゃ、掃除の仕方教える。馬のいる小屋の中に入って中に敷いてる藁を通路に置いてる押し車に乗せる。あんまり汚れてなかったらそのままでもいい。んで、一杯になったら村の餓鬼共が運んでくれっから乗せるだけでいい。馬に足踏まれねえように。背後にも絶対回るな。斜め後ろにもな。馬にとって真後ろだけが視覚だ。馬は基本臆病な動物だから自分の視界に入らない背後に回られると本能的に攻撃する。馬の蹴りは余裕で骨が折れる。本気で気をつけろ。あと尻尾のビンタな。あれ思った以上に届くからびっくりするしいてぇ」


 ベルダは驚いたように瞬きを繰り返していた。


「どうした?一気に話しすぎて分かんなかったか?」

「いえ・・・。とてもお詳しいのですわね。馬の視界まで・・・」

「村の奴らなら餓鬼でも知ってることだ。人間必要なことは嫌でも覚えるもんだからな。んじゃするぜー」

「はい」


 二人で作業を始めた数分後。


「旦那様ー!」

「だからそれやめろって!休みたいならうろついてる餓鬼共に頼んでいいから!」


 シンは馬の部屋から顔を出して叫ぶ。ベルダは隣の部屋の掃除をしている。


「違いますわ!馬が動いてくれなくて困っているんですの」


 シンが覗き込めばベルダが大きな馬相手に動揺しているのが分かった。


「ああ。それなら前から馬の横に回って、掃除が終わった方に押せ。そしたら馬も分かってくれて移動すっから」

「分かりましたわ」


 それからまた数分後。


「旦那様ー!」

「やめろってば!今度は何!?」


 シンとベルダの掃除速度が桁違いのため、現在シンはベルダの目の前に来ている。


「馬が前に詰めていて、更に壁際に完全に寄ってしまってますの」


 馬の部屋の前には馬が飛び出さないよう鉄の棒で柵代わりにしてある。その鉄の棒にぴったり馬がひっついていれば前から横に回りこむのは難しい。


「ああ。そいつに関しては一旦出て、首のとこトントンって軽く押すように叩いたら移動するから」

「何でも知ってらっしゃるんですわね。素敵ですわ」

「だから。村の人間なら誰でも知ってることだって。普通」


 シンが苦笑すればベルダは続けた。


「それでも。私にはとても素敵に映りますわ」


 そう言って綺麗に笑うものだからシンはまた少し赤くなりながら作業を続けた。


 掃除が終わって、続いて新たな藁を敷いてやり、ひとまず仕事が終わった。


「もう夕方だな・・・。家に戻って飯にするぜ」

「分かりましたわ」


 歩き出したシンを追いかけるベルダ。だが、目の前でひらつきベルダの髪が気になった馬がベルダの噛みを咥えた。そのせいでビンッと後ろに引かれ、ベルダは体勢を崩す。


「っ!!!」


 シンは反射的に動き、ベルダが床に頭を打つ前に後頭部に手を回し、クッションにはなった。


「大丈夫か!?」


 問いかければベルダとは至近距離で、しかも押し倒すような形だ。真っ赤な顔のベルダと目が合い、思わず釣られて赤くなる。すぐさま離れ、ベルダの髪を噛んでいた馬を叱る。


「ルイ!駄目だろうが!!お前はイタズラ好きなんだから・・・」


 白毛の馬は叱られたことを理解し、落ち込むような素振りを見せた。


「ルイ・・・と言うのですね」

「ん?ああ。寂しがり屋で構って欲しくてよくイタズラするんだ」


 シンが顔を撫でると気持ち良さそうに擦り寄った。習ってベルダも顔を撫でる。


「初めまして。次からはしっかり編んで来ますわ」


 文句一つ言わない少女に違和感さえ覚えた。




 ベルダは夕飯も文句言わずに食べ、風呂もベットも文句を言わなかった。


 シンと同じ部屋でも。


「何で同じ部屋なんだよ!」

「ベルは嬉しいですわ」

「お前はもうちょっと危機感持て!!」

「ベルは貴方のお嫁さんになりにきたのです。何をされようと構いませんわ」


 シンはハアとため息をつき、ベットに座るベルダの隣に腰掛けた。


「なあ。何で俺なんだよ」

「ですからあの時「その前の話だよ」

「前?」


 首を傾げるベルダの手をとり、シンは手のひらを見た。


「綺麗で白い手だ。けど、馬掃除の時マメ出来て、それでも文句言わず、潰れるまでやったんだろ。何で?」

「貴方に好かれたいですから」

「俺である理由はあの時出会ったからか?あの時出会ったのが王でもギドでも惚れてたか?」


 その問いに一瞬ベルダは凍りついた。


「・・・いいえ」

「その理由が知りたい。どんな理由であっても怒ったり、引いたりしねぇよ。嘘だって言っても構わねえ。俺自身王族に好かれるなんて思ってねえし「本気です!!」


 ベルダはシンの方に身を乗り出す。

 

「私は本気で!貴方をお慕いしているんです・・・っ」

「・・・俺の何が良かったの?」


 ベルダの表情が一瞬止まり、俯いた。そんなベルダの頭をシンはポンと撫でる。


「別に責めねえし、怒らねえから。嫌うこともない」


 最後の言葉を聞き、ベルダは意を決めたように口を開いた。


「貴方に・・・何もないから・・・っ」


 その声は震えていた。

 

「一国の王。兵を一瞬で倒す腕を持つ騎士。けど・・・貴方は力を持たない平凡な人だった」

「そんな凡人に何で惚れたんだ?」

「・・・ベルは、お姫様に憧れてました」

「姫っつか、王女だろ?」


 ベルダはええと頷く。


「でも、未来は城という籠に永遠に捕らわれ、飼い殺しされるだけです。でも、絵本の中のお姫様は自分を愛してくれる、自分の好きな王子様と出会って結ばれるんです。それが・・・羨ましかった」

「確かに、あれは女の子の夢だよな」


 うんうんと頷くシンにベルダは小さく笑う。


「そんな時、貴方が現れた。何の力も持たないのに、ただ一人のために危険を顧みず飛び込んできた貴方に。貴方は地位も名誉も関係なく、愛した者のために必死になってくれる方なんだと感じました。そんな風に愛されたいと・・・そう思ったんです・・・っ。貴方に愛されたいがために、貴方を愛しているんです」


 つまり、シン個人を愛しているのではなく、ベルダはただ一人を無条件で愛するシンという形を愛したのだ。


「そっか・・・。なら、俺個人じゃなくてもいい訳だ」

「え・・・」

「お前、予想外にいい子で驚いた。最初は高飛車で嫌味ったらしいタイプなのかと思ったけど、真面目だし、すっげー純粋。いいと思うぜ。そんなお前なら俺よりもっといい奴見つかるから。俺なんかで妥協すんなよ」


 シンはそう言ってくしゃりとベルダの頭を撫でた。


「怒って・・・いらっしゃらないんですか・・・?」

「何に怒るんだよ?全部本当のことだし。寧ろ、俺の性格好きになってくれてありがとうな。嬉しいよ」


 シンはベルダの頭を再び撫でる。


「今日はゆっくり休め。疲れたろ?んで明日また考えろ。協力して欲しいなら力貸してやるからさ」


 最後にポンと撫でシンは自分のベットに潜って行った。


 ベルダは自分の胸元に手を当て強く握り締めた。

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