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Letters~朽ちた羽根の贈り物~  作者: 江藤樹里
紗愛からの手紙
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1-3



 『こんにちは、京君。

 今日はね、花火大会があったんだよ。あの浜辺でね、ドーンって凄い音させて花が咲くの。友達と浴衣着て行ったけど、花火がホント真上にあって圧巻だった。

 いつか一緒に行こうね。でも、首痛くなるのはガマンだよ。


 今日のは打ち上げだけだったから、また今度は手持ちの方でやる事にしたよ。仲良くなった友達が居てね、その子が誘ってくれたんだ。

 京君の居る所では、花火とかってやらせて貰えるのかな? 火が危ないとか理由作られてやらないのかもしれないね。

 あ、またひとつやりたい事が増えたよ。京君に其処で出来ない事がある時はあたしと一緒にやろう。

 でも其処にしかないものっていうのも、ちゃんとあると思うからそれを大切にしてね。


 もうすぐで夏も終わって京君に会ってから一年になるよ。花火大会でにぎやかだったあの浜辺も、また閑散として朝早くには誰も歩いてない静かな場所になる。

 波の音だけが途切れない音楽で、羽根を失くしたあたしがまた散歩するだけの場所になるの。


 ねぇ、あたし、まだ歩き続けてるよ。羽根は朽ちたけど、足があるから少しでもゆっくりでも進んでるよ。京君は、立ち止まったりしてないかな?

 だけどきっと立ち止まる事もしゃがみ込む事も、眠ってしまう事もあたし達の時間の中には必要なんだよね。足を捨てない限りは、進む事を止めても良いんだと思う。まだ、歩き始める意志があるなら。

 きっと今、立ち止まってる子は沢山居るんだと思う。子供に限らず大人も、歩き疲れてガクガクになった足を休めてるんだよね。あたしと同じでその背中に羽根がなくても足があるから、歩いて来た結果に。

 誰も皆、片翼なのかもしれない。本当の本当に、子供だけが両翼を持ってるのかも。

 あたしに見えた天使の京君は、どうなんだろう。生まれながらにしてボロボロだって言ってた羽根は、少しは良くなったのかな。


 ねぇ、京君。君がどんなに否定しても、あの時の君は天使みたいだったよ。君の冷たい第一声も(あれは中々厳しい言葉だったね)、この世界の醜悪を見てしまったが故の言葉だって思ってるの。

 こんな筈じゃなかったのに、って言ってる様な気がした。僕が生まれたかった世界は、生きたかった世界は、もっと綺麗な筈だったのにって。……クサいかな。


 けどそれは多分、ほとんどの人がぶち当たる壁みたいなものじゃないかな。理想と現実を知って、絶望にも似た感情を味わって。

 その先に行き着く場所は人それぞれだけど、あたしは『それでも生きてくしかないんだ』って結論付けた。京君が何処に行き着くかは分からないけど、もう二度と誰かの未来を奪わない場所である様にと思ってるよ。

 誰かの未来を奪う事は、自分の未来も奪う事だから。

 それじゃ、そろそろ書くスペースがないのでこの辺で。またね、京君。

──倉林紗愛』




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