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『こんにちは、京君。
今日はね、花火大会があったんだよ。あの浜辺でね、ドーンって凄い音させて花が咲くの。友達と浴衣着て行ったけど、花火がホント真上にあって圧巻だった。
いつか一緒に行こうね。でも、首痛くなるのはガマンだよ。
今日のは打ち上げだけだったから、また今度は手持ちの方でやる事にしたよ。仲良くなった友達が居てね、その子が誘ってくれたんだ。
京君の居る所では、花火とかってやらせて貰えるのかな? 火が危ないとか理由作られてやらないのかもしれないね。
あ、またひとつやりたい事が増えたよ。京君に其処で出来ない事がある時はあたしと一緒にやろう。
でも其処にしかないものっていうのも、ちゃんとあると思うからそれを大切にしてね。
もうすぐで夏も終わって京君に会ってから一年になるよ。花火大会でにぎやかだったあの浜辺も、また閑散として朝早くには誰も歩いてない静かな場所になる。
波の音だけが途切れない音楽で、羽根を失くしたあたしがまた散歩するだけの場所になるの。
ねぇ、あたし、まだ歩き続けてるよ。羽根は朽ちたけど、足があるから少しでもゆっくりでも進んでるよ。京君は、立ち止まったりしてないかな?
だけどきっと立ち止まる事もしゃがみ込む事も、眠ってしまう事もあたし達の時間の中には必要なんだよね。足を捨てない限りは、進む事を止めても良いんだと思う。まだ、歩き始める意志があるなら。
きっと今、立ち止まってる子は沢山居るんだと思う。子供に限らず大人も、歩き疲れてガクガクになった足を休めてるんだよね。あたしと同じでその背中に羽根がなくても足があるから、歩いて来た結果に。
誰も皆、片翼なのかもしれない。本当の本当に、子供だけが両翼を持ってるのかも。
あたしに見えた天使の京君は、どうなんだろう。生まれながらにしてボロボロだって言ってた羽根は、少しは良くなったのかな。
ねぇ、京君。君がどんなに否定しても、あの時の君は天使みたいだったよ。君の冷たい第一声も(あれは中々厳しい言葉だったね)、この世界の醜悪を見てしまったが故の言葉だって思ってるの。
こんな筈じゃなかったのに、って言ってる様な気がした。僕が生まれたかった世界は、生きたかった世界は、もっと綺麗な筈だったのにって。……クサいかな。
けどそれは多分、ほとんどの人がぶち当たる壁みたいなものじゃないかな。理想と現実を知って、絶望にも似た感情を味わって。
その先に行き着く場所は人それぞれだけど、あたしは『それでも生きてくしかないんだ』って結論付けた。京君が何処に行き着くかは分からないけど、もう二度と誰かの未来を奪わない場所である様にと思ってるよ。
誰かの未来を奪う事は、自分の未来も奪う事だから。
それじゃ、そろそろ書くスペースがないのでこの辺で。またね、京君。
──倉林紗愛』