神の使い
がんばります!
もう一度周りを見渡すと、今も僕に向かって周りの人々が平伏している、けど、嫌々しているとか誰かに強制されてるとかではない事は分かる(この街で一番偉い侯爵のおじさんも、目の前で平伏してるし)、けど、いつまでもこうしていられないので、平伏したままのおじさんに小声で事情を聞く。
おじさんの話によると、30年ほど前に魔物の異常発生が世界規模で起り、どの種族もかなり人口を減らしてしまったそうだ。
その時に神の使いと名乗る者が一人現れて、魔物の発生源を全て一人で潰していき、世界を以前の状態に戻してくれたのだそうです、その後神の使いに各種族のトップ達がなにか御礼をしたいと伝えたところ、”今後、黒髪で黒い瞳をした者が現れたらオレの仲間だから、そいつに良くしてやってくれ”とだけ言って何処かに行ってしまったという事があり、更に30年しか経ってないのと、各種族を挙げて大々的に神の使いの事が伝えられているので(今だに発信している様で、小さな子供でも知っている話らしい)、広く一般の人々にも浸透していて、そこへ僕が現れたものだから今の状況になったという事らしい・・・。
あと、あの水晶玉はその話が世界中に広がっていくにつれそれを悪用しようとする者が多く現れた為に作られた物で、偽の黒髪黒目を見破る機能と、以前から有った犯罪者を見分ける機能二つを兼ね備えたスグレモノだそうです(黒髪黒目を偽った者と犯罪者は赤く光るらしい)、なので水晶玉に触れて青く光った僕は、神の使いの言っていた仲間に間違いない!のだそうです。
そして、おじさんの話を聞き終わった瞬間、頭の中に神兄ちゃんの声が聞こえてきて・・・。
「その話に出てきた神の使いってのはオレのことだよ、勿論神の使いというのは嘘だけどね。それで、その世界の魔物出現率が突然おかしくなってしまった事があって、オレが直接出向いてバランス調整したんだよ。その時に、たまたまその世界では生まれてくる事のない、黒髪黒目の姿でオレは居たし、日本語を神字にしている事もあって、もしかしていずれ日本人を連れて来る可能性もあると考えああ答えただけでね・・・まあ、丁度良かったよ、その設定も含めて楽しんでくれればいいからね、じゃあ、また」
そういう事らしい・・・でも、世界を救った神の使いの仲間って微妙なポジションだよね・・・、僕は何もしていない訳だし。
ん?・・・でも、よくよく考えてみると、神の使いの仲間なら、事情を知らない人からすれば僕も神の使いだと思われてるって事なのかな?
なるほど、それなら周りの人達が僕に向かって平伏してしまうのは仕方の無い事なんだと思うけど・・・どうしよう・・・。
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「あの!、周りにお集まりの皆様方、僕は河合 ひかりと申します。30年前の話に出てくる神の使いは確かに僕の知り合いで、その知り合いはああ言い残していますが、僕がこの世界を救った訳では無いのですし、そこまで畏まられても困ってしまいます。ですから、もっと普通に接して頂けたら僕としても嬉しいです」
思い切って僕がそう話すと、地面に顔を向けていた人達が徐々に顔を上げていき・・・。
「「「「「「「「「「ウオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」
と、一斉に歓声?が挙った。え?何事?周りの人達が何を叫んでるのか聞いてみると・・・。
「私達に御声を掛けて下さったぞ!」「本物だー!」「長年待ち続けた御方が、遂に、遂に!来て下さった!」「可愛い・・・」「謙虚な御方ですわ!」「何と美しい御方なのでしょう・・・」「これで御恩をお返しできます!」「ひかり様!」「ちっこ可愛い・・・」「声まで可愛いよ!」「何と神々しい!」「凄く良い子ですー!」「僕っ子!」「ばぶー!」「長生きはするもんじゃー!」「優しい御方」「早く皆に知らせないと!」等々・・・・・・。
若干気になるワードも有ったけど・・・。要約すると、長年神の使いに恩返しをしたいと願っていたが、その対象が30年も現れなかった事で変な鬱憤が溜まっている、と。(適当な解釈)
「おじさん!このままだと周りの方々にも悪いから、領主権限で何とかして下さい!」
周りと一緒になって「私は、もう一度助けてもらったぞー!!!」とか叫んでいた、侯爵のおじさんに(何してんの・・・)事態を収拾してもらう事にした。
「皆の者聞いてくれ!、私はこの街を治める、セーグ・マークィス・サンスだ。見ての通り、ひかり様は間違い無く我々が待ち望んでいた御方だ、だが、ここへ来て初めてその事を御知りになった様で、今は混乱されておる、皆の気持ちはこの私もよく分かるが、いずれ国を挙げて全国民で歓迎する、だからその時が来るまでは静かに見守って貰えないだろうか?」
さすが領主のおじさん、皆さん静かに聞いて下さってます。
すると、”ひかり様に迷惑は掛けられない”とか口々に言って、まわりの方々は納得してくれた様です。
はぁ・・・皆、僕の事様付けがデフォになってるよ・・・、でもこの雰囲気で否定は難しそうだね・・・。
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さっきの場所から再び馬車に乗り15分程で、おじさんの屋敷(豪邸)に着いた。
おじさんが執事のマートンさんと少し言葉を交わして直ぐに応接間に通され、おじさんの奥様の紹介を受け(ライア・サンスさん、落ち着いた感じの美人さん、僕を見て目が点になってた)、それと、ルシードさん以外にあと二人の娘さんと息子さんが一人居るらしいけど、今は遠くに出ていて直ぐには紹介できそうもないとのことでした。
「改めて私共の命の恩人でもあり、神の使いが言い残した黒髪で黒い瞳の方でもある、ひかり様を家へ招待出来て嬉しく思う、自分の家だと思ってゆっくりしていって欲しい」
と、おじさん。
「突然の訪問に驚いてしまい、申し訳御座いません・・・」
と、ライアさん。
「いえいえ、気にせずに、此方こそ突然押し掛けて驚かせてしまいました、申し訳ないです。そして、改めまして河合 ひかりと申します、宜しくお願いします」
「此方こそ宜しくお願い致します。それと、身内の者を助けて下さり感謝の言葉も御座いません」
と、挨拶や御礼を言い合ってると、突然おじさんの腹が盛大に鳴った。
「これは申し訳ない、今日は色々有り過ぎてな、私と娘はまだ何も食べてないんです。今も予定よりかなり早く帰ってきたから準備が殆ど出来てない次第で、マートンには急ぐ様に指示はしたがお茶しか出せずに申し訳ないです、それで、ひかり様は大丈夫ですか?」
あらら、そりゃお腹も鳴るね。
「僕はお昼食べましたから大丈夫ですよ。それで、良かったら何か食べ物出しましょうか?直ぐに出せますけど?」
最初は三人とも凄く遠慮してたけど、ルシードさんまでお腹を鳴らしたところで観念したみたいです。
何が良いかな?お腹が凄く空いてるみたいなので、ガッツリ系の・・・これに決めた!(○ケモン風)
日本に住んで居た頃によく食べに行ってた、近所のラーメン屋”みんなのラーメン”のラーメンセット(ラーメンとチャーハンと餃子)を、ついでにライアさんの分まで三人分テーブルの上に出した、まだ時計を二つしか出した事がなかったけど上手く出来たみたいでほっとした。あと、食事について自分の食べる物は基本旅館で天使さん達が作ってくれた物を食べる事にしてます(厨房事情は気になるけど……)。
「どうぞ召し上がって下さい、美味しいですよ」
箸は使えないとのことで、フォークを急遽取り出して食べていただく。
最初は未知の食べ物という事で中々食べ始めなかった三人だったけど、おじさんがラーメンを一口食べた後、モーレツに食べ始めたのを見て他の二人も食べる決心がついた様です。
気が付くと、お腹が凄く空いてた二人はモチロン、別にお腹を空かしてなかったはずのライアさんまでラーメンセットをモーレツに消費していた・・・。
ちょっと怖かったです。
読んで下さり誠にありがとう御座います。