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空中軍艦  作者: ミルクレ
30/41

火力

 迎撃機は既に展開していた。数は一〇〇を軽く超えており、艦隊に触れさせぬ気迫に満ち満ちている。

 村田重治中佐は操縦桿ではなく、咽頭式マイクに手を当てていた。彼は矢継ぎ早に指示を飛ばして、五〇〇機以上の攻撃隊を操ろうと努力した。

 彼が乗る天山は攻撃隊より高い位置から、攻撃隊全体を見渡せる。

「〈赤城〉制空隊、太陽に注意せよ。〈蒼龍〉制空隊は前進。〈瑞鶴〉制空隊、直衛を維持」

 舌がもつれて巻き舌になる。水を飲みたい。頭は冴えているが、目玉が飛び出るほどの忙しさに、身体の方が追いつかない。

(こうなる事は分かっていたんだ)

 村田の頭の片隅では、空中管制をひとりでこなす重責に対して、怒りに近い感情が沸き立っていた。陸攻でこなす任務を、彼は狭い艦攻の中から遂行している。戦闘機の指揮に徹するも、それでも三〇〇機近いのだから、乱戦になればどうしようもない。

 機載電探は深山でもいっぱいいっぱいの重さだ。軽量化しても天山で使えるまでは相当掛かるだろう。それまではこの二つの目玉が唯一の探知機だ。一空母につき一機は管制機が必要だと、村田は上層部に具申する事を決意した。

〈蒼龍〉〈飛龍〉〈大鳳〉の紫電改が間もなく敵機の群れとぶつかる。一〇〇機以上の前衛が、足止めし攻撃隊本隊を艦隊まで守るべく、水エタノール噴射による青い炎を排気筒から吐き出した。

 空にいくつもの火球が生まれる。火球を免れた機体も少なからず煙を引いている。黒い煙や白い煙に塗れた機体は、ふらふらと千鳥足だ。

 正面からぶつかった紫電改とヘルキャットが、子供の遊んだ粘土のようにひとつの塊と化し、無念を撒き散らして落下していく。

 二〇ミリの弾幕がヘルキャットのピストンや冷却器を叩き潰し、プロペラをどこかへ切り飛ばした。滑空しながら高度を落としていくが、赤く染まった操縦席は開かない。

 一二.七ミリに自ら突っ込み穴だらけにされ、燃料が霧状に噴き出す紫電改。加圧されたゴムが塞ぐには多過ぎる弾痕を火が舐めると、内側から弾けるように木っ端微塵となる。実家にはシャリも残らず戦死の報だけが伝わる事になる。

 開く落下傘はアメリカのものが多く見えるが、味方の落下傘も少なくない。落下傘を開く間もなく戦死したり、飛び出したが流れ弾に絡め取られた者もいるだろう。

 幸いにして、前衛を掻い潜り攻撃隊を狙う敵機は少ない。ほとんどのヘルキャットが背後から襲い掛かる紫電改に対し、自分が生き残るために空戦に引き摺り込まれたからだ。ダイブ、ズーム、ロール。其処彼処で死の舞踏が繰り広げられた。

 それでも数の多いヘルキャットは強引に突破し、攻撃隊を狙って突撃を開始している。

「敵機〈瑞鶴〉雷撃隊に向かう!」

 偵察員席の中尉が叫ぶ。硝子に頬を付けて下方を覗き込んでいる。同時に村田の眼は、太陽に黒い影が差すのを捉えた。

「〈赤城〉隊、太陽に注意!」

 奇襲を企図した敵機に対して、警告を受けた直衛機が迎え撃つ。間をすり抜けるヘルキャットを数機が周知して翼を煌めかす。

 紫電改の二〇ミリ機銃は弾幕を張るほどは弾薬が多くない。装甲を突き通す為には高威力が求められ、弾数は二の次とされたからだ。それだけに重装甲のアメリカに対しても、二〇ミリ炸裂弾は有効である。

 太陽を背にして突入してきたヘルキャットは、奇襲から強襲に変わった事に気が付くのが遅れた。その遅れは彼等自身の命で贖われる。

 たちまち翼を叩き折られ、木の葉のように落下したいくヘルキャット。脱出の落下傘は咲かず、海面に飛沫を立てて突き刺さった。

 動力降下の体勢で直進する機体は、風防が失われていた。操縦桿を握る人間もおらず、緩やかな角度で着水するのだろう。

 村田は自身の出来る限り指示を出し続けた。彼の戦場を見定める能力は高く、それ故に限界が存在する。ひとりの人間である以上、限界があるのだ。

 前衛、直衛をすり抜けた青い巨体が、その姿に似合わない機敏な動きでくるりと回る。ヘルキャットが一閃すれば、その先にいる天山や彗星は翼下に武器を吊り下げたまま、艦隊に触れる事もなく落ちていく。

 ヘルキャットの後を追いかける紫電改に対して、ヘルキャットは逃げるだけだ。しかし直衛が追跡に意識を取られ位置を変えると、そこに生じた間隙を素早く突く別のヘルキャット。

 徐々に削り取られるように、攻撃隊は数を減らしていく。前衛の戦場とひとかたまりになった空戦は、最早村田の指揮でどうにか出来るものではなくなった。

 操縦席から声が飛ぶ。

「敵艦隊です!十二時!」

 村田も風防に頬を付け、前方の海面に眼を凝らす。白い航跡が円を描き、黒い煙が影を作っていた。

「全機突撃せよ、突レ!」

 同時に手が電鍵を短く連打する。第三艦隊に向けて、攻撃開始を伝えるものだ。

 村田の眼下で天山や彗星が戦果を上げるまで、そう時間は掛からないはずだ。損害は計り知れないが。

 戦闘機の指揮も出来ず、戦果確認をする孤独な任務が始まった。


 天山の通信席からは戦場が後ろ側しか分からない。背後を向いて敵機が忍び寄っていないか、襲い掛かった敵機を撃ち落とすべく引き金を引くか。彼の判断は彼自身だけでなく、操縦席と偵察席の二人の命を左右する。

「田端あ、少し大回りするぞ!」

 操縦席から上飛曹が火星発動機の爆音を打ち消そうと大声を出す。掻き消えそうな声をどうにか理解した通信員の田端は了解と叫んだ。

 途端、上飛曹が垂直尾翼を操作。身体が左に押し付けられた。後続する天山が右手に流れる。

 通信席に座る田端上飛兵が顔を顰めている一方、大谷上飛曹は自機含め四機の天山を、如何に勝利に繋げるかを考えていた。

 最初に見定めていた目標は巡洋艦であったが、主砲までもが対空射撃を行っており接近出来ない。強引に突撃した天山や彗星がいくつも火球を残して消えた。

 大きく迂回した天山の右に、炎と煙が立ち昇る艦が現れた。曳光弾を撒き散らしてはいるものの、ただ出鱈目にばら撒いているだけに見えた。

 大谷は決心した。

「三時の巡洋艦を抜ける!」

 煙の中を突っ切る四機の天山は、大谷の目論見通りに弾幕射撃を突き抜けた。正面にはのっぺりとした艦影にちょこんと乗った艦橋が見えた。

 高度を下げ続け海面を這うように飛ぶ。飛沫が翼を叩き、大波が立てば墜落せんばかりの高さだ。

「二番機被弾!」

 上飛兵の叫び声は部下の死を知らせたが、彼の頭とは関係なく手足は動いていた。

 空母から押し寄せる光跡が天山を揺らす。操作を誤れば海面に叩き付けられるか、光跡に絡め取られて砕かれる。脳が痺れたような感覚の中、大谷は冷静に舷側を狙っていた。

 偵察席からちょい右やちょい左の指示に従い微調整を行う間はとても短い。雷撃最適距離はあっという間に過ぎ去った。

「てっ!」

 軽い金属音が尻の下から響き、機体がふわりと浮き上がりかける。操縦桿を押し込み、かつ海面に突入しないようにしながら、空母の尻を抜けるように操舵した。

 空母を通り過ぎた直後、

「三番機突入!」

 の声が突き刺さる。被弾したのだろう。対空砲に体当たりした三番機は古参の山河一飛曹が操っていた。操作を誤ったとは考えられない。

 二機六人の命を代償にした攻撃は、二本命中の戦果をそそり立たせた。


 護衛への雷撃に成功した天山。それに触発されたのか、被弾した護衛艦艇のそばを抜ける機体が増えた。一部の艦攻は黒く燻された巡洋艦を雷撃し、艦爆が本丸への道を駆逐艦を爆撃することで啓いた。

 空母の前に増速した巡洋艦が立ち塞がるが、雷撃に貫かれて早々に落伍した。

 村田が傷口を抉るように誘導した機体が、最重要目標を次々と叩いた。落城間近の会津城の如く、炎と煙に包まれた空母は五隻。艦爆艦攻の正確に空母と戦艦を叩いた手腕に、流石は第三艦隊だと誇りに思った村田であった。



〈大鳳〉の艦橋は〈赤城〉や〈加賀〉に比べて洗練されているが、それでも一種の窮屈さを感じざるを得なかった。

 源田が見上げる空には低く雲が立ち込めている。遠くでマーシャルの残存機である零戦が、増槽を吊った姿でゆったりと飛んでいた。戦闘中とは思えない長閑な雰囲気が漂う空に、源田はしばし脳を休ませた。

 攻撃隊は目標の乙に向かって突き進み、母艦はがらんとした格納庫で予備機を組み立てている。敵は一〇隻以上のアメリカ空母だ。いくら飛行機があっても足りることはない。

 ゆっくりと動揺する甲板。二五ミリや四〇ミリの機銃は水平を保ち、敵機襲来を知らせるのは艦橋から突き出た鉄骨、電探だけであった。

「敵機発見!大鳳より六時!」

 伝声管から伝わる声はくぐもっている。しかし内容が艦橋の緊張感を刺激した。

「距離は?」

「一〇キロほど!」

 源田が発言する前に、電探管理を行う電信室から別の声が割り込む。

「零戦を二機向かわせました」

〈大鳳〉飛行長の高橋赫一の声だ。源田と同じく航空の専門家であり、ついこの間まで操縦桿を握っていた点では、知識の新しさで上回っている。

 彼の指揮は正しかったが、偵察の米軍機は第三艦隊を既に見つけていた。

「電信傍受」

 艦橋の視線が司令長官に向く。塚原が低く、はっきりとした声で指令を下した。

「全戦闘機を発艦させる。今すぐだ」

 風上に艦首を向けた全空母の甲板に、温存された紫電改が並ぶ。一部は零戦の華奢な機体が発動機を唸らせている。エニウェトクに退避した搭乗員の内、発着艦が可能な者がそれらに乗り込んだ。

 増援を含めると第三艦隊全体での運用機数を超えているが、攻撃隊の損耗が余剰分を上回るとの悲惨な試算によって許可された。

 それでも合計で一〇〇機前後。耐えられるかどうか不明だ。それでも第三艦隊は米軍が珊瑚海で見せた輪形陣を模した、穴だらけの陣形で米軍機を待ち構えた。



「菅野、離れるなよ」

 林喜重の注意に従い、菅野直は林機の斜め後ろにぴたりと着いた。その後ろには二〇機の紫電改が固まっている。

 鴛淵孝は〈龍驤〉生え抜きの搭乗員と組み、別の中隊二二機を指揮している。

「林さん、零戦が来ましたよー」

 妙な間延びした声の菅野は興味無さげだ。目を皿にして低空を探り、電探を掻い潜る雷撃機に備えている。横目で零戦がエニウェトクから来るのを捉えたのだろう。

 ガリガリと雑音を立てながら、高橋赫一飛行長の声が通信機から命令を下す。

「こちら〈大鳳〉。未確認機、林中隊より五時。高度は同程度。上がりつつ確認せよ」

「林イチ、了解」

 機首を上向ける林。菅野はせっつくように速度を上げている。昔ならば既に突撃していたかもしれない。

「〈大鳳〉より林中隊、同じ方位に未確認機が多数」

「林イチ、こちらでも捉えた」

 風防の塵のような影がちらちらと見え始めた。やがてそれらは形を変え、こちらに突撃するヘルキャットやヘルダイバー、アヴェンジャーと認識出来る距離まで至る。

 思いの外数が少ないのは、一個艦隊分が壊滅したからだろうか。更には戦闘機の比重が大きいようだ。戦闘機掃討を意図しているのかもしれない。

「〈大鳳〉より林中隊。敵機は一五〇機前後。目算にて大差あるや?」

「こちら林イチ、一五〇機前後に相違無し。戦闘機多し」

「宜候」

 林の見ている中、ヘルキャットの半数ほどが分離すると、高度を上げ始めた。明らかにこちらにぶつかるつもりだ。林の周囲には空母艦載機の紫電改が五〇機ほど。数では劣勢かもしれないが、こちらも歴戦の戦闘機乗りだ。それに零戦が残った攻撃隊を叩くため、林達は戦闘に集中出来る。

「林イチより全機、突撃開始」

 絞られた弓弦から撃ち出されるように、紫電改の排気筒から青い炎を閃かせて、林中隊は戦闘に突入した。

 菅野は掬い上げるような機動で速度を上げ、機首を上げているヘルキャットの死角から突く。二〇ミリに二〇〇〇馬力級の発動機を砕かれた一機は、もんどり打って墜落した。落下傘が開く。

 ヘルキャットを突き抜けて攻撃隊に殺到すると見せかけ、僚機の囮になる機体もある。桜の撃墜マークに彩られた後部は、間違いなく撃墜王岩本徹三の機だ。

「流石ッスね、岩本飛曹長」

 軽口を止めない菅野も、林の為に囮役を引き受けている。バックミラーの中でヘルキャットが二機、水平旋回を掛けてこちらに追い縋っていた。

 敢えて速度を上げずに接近を許す。ヘルキャットはジャク、新人搭乗員が乗っているのだろう。好機とばかりに突撃してきた。ヘルキャットの馬力に任せて射程に捉えんとした直後、一機の右主翼から破片が飛び散る。林機の放った四条の二〇ミリが外皮を貫き炸裂し、鋼索を断ち切られた動力系が固まる。

 くるりと半回転すると風防が開き、搭乗員が転がり出た。落下傘の白い布が展開する頃には、もう一機のヘルキャットは逃げ出して射程外だ。僚機を落とされ驚いたのか、動力降下で逃げの一手である。基本を忘れない良い手だ。

 林が一機撃墜しもう一機を脱落させている間、菅野は緩やかな弧を描いて戦場を離脱していた。速度は六〇〇以上を保ちつつ、再突入の機会を窺っている。林も水エタノール噴射で空域を突破して菅野に追いつく。

 飛行帽のスピーカーが騒ぎ出し〈大鳳〉飛行長の声を伝えた。

「零戦隊が到着した。空戦に加わるがヘルキャットではなく雷爆撃機を落とす。紫電改は戦闘機に専念せよ」

 攻撃隊を叩くのに焦ってヘルダイバーに機首を向けた結果、背後を敵機に襲われる機体は多い。任務は少ない方がいい。

 ヘルキャットの網をすり抜けて攻撃隊を襲おうとした紫電改は、直衛機に目標を変えた。横合いから妨害しようとしていた直衛は自分に目標が移った事を認識した直後、風防に飛び込んだ銃弾に命を絶たれる。パイロットの亡骸と共に墜落した機体が海面に飛び込み、小さな墓標を波立たせた。

 その一方で視野狭窄に陥り、眼前のヘルキャットに突っかかった初陣の搭乗員は、日本軍機にしては厚い装甲ををも突き抜けた弾丸に蜂の巣にされる。不用意に腹を晒したらために、操縦席を下から撃ち抜かれたのだ。

 別場所では雨のように撃ち掛ける一二.七ミリを避け切れず、胴体に穴を穿たれた紫電改がバランスを崩す。尾翼に繋がる鋼索を引き千切られ操縦不能になった機体は、空中目標にしかならない。なんとか操縦しようと悪戦苦闘している間に、更なる被弾で着火、燃料に引火して爆散した。

「林さん、後ろに来ました」

 他者に気を取られて自分が落とされていては初心者と同じだ。林はフットバーを蹴り飛ばし機体を滑らせた。それを追い掛けるように菅野が、更にその後ろに濃紺の機体が動く。

 菅野と林は機織戦法を取るべく、一旦編隊を解いた。するとヘルキャット二機両方が、菅野目掛けてズームする。菅野を組み易しと見たのか。囮役が技量に劣るのが二機編隊の定石だからだ。

 菅野の負けん気が弾けた。林からはそう見えた。

 垂直旋回からの捻り込み、正対すると失速。水エタノールで強引に立て直し、追い越された瞬間で二番機に一連射。

 ふらついた二番機は林が止めを刺した。一番機は怒り狂って林に向かうが、その時にはもう菅野が食い付いている。菅野は共同一、単独一の戦果だ。最近は各人の戦果を考慮しない風潮が強いが、先ほどの岩本など撃墜マークを付ける撃墜王もいる。

 空戦は徐々に艦隊に接近するが、攻撃隊と分離させられた護衛機は合流する事が出来ない。零戦に襲われるヘルダイバーとの間に紫電改が割り込み、侮れぬ強敵との空戦に引きずり込まれるのだ。

 それでも少なくない直衛に守られ、ヘルダイバーやアヴェンジャーは輪形陣に突入した。林達にはどうしようもない。母艦の幸運を信じて空戦を続けるだけであった。


〈龍驤〉艦長の杉本丑衛の操艦は、松田千秋考案のものを適切に利用したものであった。取り舵ならば取り舵のみ、面舵なら面舵のみを使う。〈龍驤〉は小型空母とはいえども排水量は一〇〇〇〇トンを超える。転舵するまでの時間は無防備であり、反対に転舵すれば時間はより長くなる。急な転舵で急降下爆撃や雷撃を肩透かしさせるのが、この回避方法の要点だ。

〈龍驤〉は無理な設計のためにトップヘビー気味であり、目一杯転舵すると転覆せんばかりに傾く。両舷の対空砲から空薬莢が転がり出て、海面や飛行甲板に飛び込む。

「降爆三、正面!」

「舵戻せ、最大戦速!」

 直進しつつ艦爆の下に潜り込む動きを取った。急降下爆撃の際、身体が浮かんで操縦が難しくなるそうだ。

 高角砲が射撃し、黒い爆煙が空に咲く。

〈龍驤〉には四〇ミリ機関砲を装備していない。他の母艦〈赤城〉〈加賀〉〈蒼龍〉〈飛龍〉〈翔鶴〉〈瑞鶴〉の内、〈加賀〉も同様だ。松田少将が始めた対空砲研究は千早正隆大佐、茂木明治大尉により発展した。その結果、四〇ミリと二五ミリの混載より二五ミリのみに絞って、満遍なく砲火を浴びせるより一五〇〇メートル前後から弾幕射撃を行う方が、撃墜数及び雷爆撃の妨害に効果的との判断がなされたのだ。謂わば対空砲のアウトレンジ戦法は現状、効果的とは言えないとされた。

 それでも四〇ミリ砲架を二五ミリに戻すのが間に合ったのは〈加賀〉のみで、元々〈龍驤〉は九六式一三ミリ四連装機銃のみ装備していたためだ。また茂木大尉発案の照準器を取り付けた対空砲も、艦隊全体の半分程度だ。

〈龍驤〉は六基の対空砲を二基の射撃指揮装置が統制している。一三ミリ(実径十三.二ミリ)は威力こそ二五ミリに劣るが、低伸性や発砲速度に秀でている。弾倉は三〇発入りで、二五ミリ新式弾倉の二五発入りに比べて遥かに軽い。重防御を誇る米軍機でなければ、かなりの撃墜数を稼げただろう。

 その一三ミリ機銃が先頭の敵機に対して、追従射撃を行う。射撃指揮装置からの入力に同期した機銃座が、自動的に敵機に指向する追従射撃は、各個射撃に比べて命中精度に優れる。〈龍驤〉の指揮装置に詰める士官は、杉本が引っ張ってきた者だ。結果、〈龍驤〉の対空砲は雷撃機を寄せ付けず、降爆を許さなかった。

 三度の雷撃を防いだところで襲い掛かってきたヘルダイバーに対して、俯角を掛けていた機銃は旋回が間に合わなかった。急激な旋回はサーボモーターを焼き、追従が出来なくなってしまう。

 一三ミリ単装機銃が必死に曳光弾を撃ち上げるが、茂木式照準器をもってしても、目視による点射は命中率が低い。青い機体に当たる弾は確認出来ない。

「爆弾投下!」

 爆風にぐらぐら揺らいでいたヘルダイバーから、黒い塊が飛び出した。切り離された爆弾は急激に大きくなっていく。

「衝撃に備え!」

 杉本は命中を覚悟する。爆弾が丸く見えるということは、まっすぐ此方に落ちているということ。これが楕円であれば逸れる可能性が高くなる。しかし先ほどの影は、ほぼ真円であった。

 辺りに風切り音が響き、飛行甲板直下の艦橋は緊張感に包まれる。応急長は天井の鋼板を見上げた。

 極大になった風切り音が唐突に消え去った直後、水柱が両舷にそそり立った。艦底を爆圧が苛み、〈龍驤〉が金属音を立てた。

「至近弾多数なれど、命中せず!」

 見張員が全身から水を滴らせ破顔している。海水が甲板を洗い流し、艦橋の床に溜まっていた。

 これが第一次空襲における〈龍驤〉への最後の攻撃であった。

 杉本はため息を吐く。敵は前衛の戦闘機を除いて、五月雨式に襲ってきた。回避は容易くなるが、対空要員の疲労はかなりのものだろう。電探が安全を確認し次第、休ませてやらねば。

 紫電改も補給が必要になる。杉本は電信室からの報告を待った。恐らく被弾した空母の分も、〈龍驤〉が補給する必要がある。そのためにも早めの準備をしたかったのだ。


 被弾したのは防空巡洋艦〈古鷹〉、空母〈加賀〉〈飛龍〉〈大鳳〉であった。

〈古鷹〉は後部主砲塔を爆砕され大破。一二.七センチ砲弾が若干の誘爆を起こしたものの、二〇センチ艦砲程の威力はないのが、老嬢である〈古鷹〉には救いになったかもしれない。

〈加賀〉の被弾箇所は艦首近く、というより艦首であった。飛行甲板の縁を穿ち、艦首の菊の御紋を脱落させた爆弾は、爆風によって錨鎖を断ち切るなどの損害を出した。しかし二五ミリ連装及び三連装機銃に損傷は無く、高角砲からも故障などは報告されていない。仮修繕で飛行甲板も使用可能になると、艦長の古村啓蔵は司令部に伝えていた。

 残念ながら〈飛龍〉には、そこまでの幸運はなかったようだ。至近弾により左舷の艦橋が損傷し、艦長の鹿岡円平が負傷した。指揮が混乱している間に投下された二〇〇〇ポンド爆弾が、甲板中央部に突入する。 空の格納庫で炸裂した爆弾は、そのサイズに見合った威力で破壊をばら撒いた。飛行甲板を巻き上げた後、可燃物を焼き尽くさんと四方に広がった。壁の塗料や飛行甲板の木材を炭に変えていく炎に対して、現在も悪戦苦闘しているらしい。炎が〈大鳳〉からも見る事が出来た。

 また〈大鳳〉に命中した魚雷は不発。喫水線下に凹みを付けただけであった。

「〈飛龍〉は無理かもしれん」

 塚原二四三の独白は納得せざるを得ないものだった。不燃処理の甘さを指摘されていたが、それを作戦の遅延を理由に先延ばしにしたのは、第三艦隊の総意であったからだ。

「鹿岡艦長を移乗すべきでしょう」

 参謀長の大林末雄が提案する。〈飛龍〉は炎に包まれつつある。怪我人を早く移さねば、逃げ遅れる恐れがあった。

「〈朝凪〉に移乗させるように命じよう」

「長官、攻撃隊は既に帰路についています。直衛の補給を急ぐ必要が」

 源田は不安を押し込めるように大きな声で提案する。それに同意する各人達。だが、当の塚原が首を縦に振らない。

「零戦もエニウェトクに帰還する。艦隊上空をカラにしてしまうのは危険ではないか」

「電探がありますし、零戦にも少し粘ってもらいましょう。直衛が減りますが無防備というほどでも」

 しばし思案した塚原は了承した。

 三〇分後、電探が強力な反応を捉えた。零戦がゆっくりと近付き、機影を確認する。零戦からの打電の内容は「攻撃隊長機を確認す」であった。


「村田中佐によれば空母全てを撃破、複数の巡洋艦にも相当な損傷を与えたと」

 源田の報告は誇らしげだ。しかし塚原は油断を戒めるように、厳しい言葉を浴びせた。

「此方は〈飛龍〉を失いつつある。それにまだ敵艦隊は残っているのだぞ。まずは甲目標を見つける必要がある。通信から更にもう一つ程度、艦隊を運用している可能性がある」

 海図には甲目標の位置を予想した円と、第三艦隊を意味する駒が置かれている。塚原の視線は三つ目の艦隊を捜すように、海図の上を舐めていた。

 司令部要員が経験則などから良策を捻り出そうとしている最中、見張りの兵が叫ぶ。

「敵機直上!」

 艦隊は攻撃隊を収容するため、風上に向けて三〇ノットで進撃している。収容中は回避もままならず、また味方と敵の区別も難しくなる。

「零戦は!?」

「低空にて雷撃機を迎撃中!」

「取り舵一杯!」

 ぬかった。五月雨式に襲い掛かる米軍機だが、既に全て防いだと思い込んでいた。帰還する攻撃隊に紛れていたのかもしれない。

「急降下!」

 三機のヘルダイバーは母艦を屠るべく翼を翻した。爆弾槽の蓋を開き、黒い爆弾の影が切り離される。その放物線の先には〈赤城〉の艦影があった。

 飛行甲板の破片が飛び散り、煙が上がった。煙はどす黒い色から赤く燃え上がる炎に変わった。がくんと速度を落とした〈赤城〉は小爆発を起こしながら、徐々に煙の量を増やしていった。

 着艦した数機ばかりの天山や彗星は小爆発の原因となり、補給するはずの燃料が艦を炙っている。

「〈赤城〉が……」

 絶句する司令部の中、源田が小さく呟く。

「〈赤城〉には艦の保全に努めよ、と伝えよ。〈赤城〉の分は〈大鳳〉と〈加賀〉で受け持つ」

 補給を急げ、と塚原は命じた。最低でも甲目標を無力化しなければならない。

 伝声管から報告が来た。電信室からの声は切迫している。

「第一空中艦隊からです!」

「第一艦隊ではなく、空中艦隊から?」

 首席参謀の城英一郎が内心を吐露した。第一空艦はトラックに退がったと聞いていたからだ。

「発第一空中艦隊、宛第三艦隊。我、敵艦隊に接触せり。砲撃戦に突入す。位置は……」


 草鹿任一は第三艦隊への電信の直後、〈筑紫〉を先頭として輪形陣へ突入を命じた。〈筑紫〉の直後に〈相模〉が続き、〈浅間〉〈常盤〉〈吾妻〉〈松島〉〈厳島〉〈橋立〉と続く。〈八雲〉が大破、〈筑紫〉と〈常盤〉が中破、〈松島〉が小破しているが、〈八雲〉以外は主装甲部や砲撃に被害はない。草鹿は〈八雲〉を除いた八隻で、突入作戦を開始した。

 敵艦隊は空母四隻と戦艦又は巡洋艦が六隻、駆逐艦多数である。戦艦は前回のマーシャル海戦にてクェゼリンを砲撃した〈サウスダコタ〉級か、その前級の〈ノースカロライナ〉級だろう。

「戦艦と撃ち合いたいが最大の敵は空母だ。空母を叩く」

 草鹿の言に原田覚参謀長も賛意を示す。大野竹二砲術参謀と千田貞敏航空参謀は特に推している。

「〈相模〉型こそ一六インチを有しますが、向こうは三隻とも一六インチ程度の主砲です。空中艦と水上艦で撃ち合えば、命中精度に優れる水上艦に分があります。数的優位で押すにしても、相当の被害は免れますまい」

 空中艦は戦艦を上回る時間と金が掛かる兵器だ。ここで使い潰す訳にはいかない。大野はそう言外に語っていた。

 千田は別の考えで同じ結論に至っていた。

「第三艦隊が一個機動艦隊を撃破し、残るは恐らく二個艦隊です。ここで空母を潰せば敵は一個艦隊分の航空戦力になり、作戦中止に至る可能性もあります」

 希望的観測も含まれるが、十分有り得る可能性だ。

 草鹿は裂帛の声で宣言した。

「よし、合戦用意!目標は航空母艦だ!」


 降下と増速により〈筑紫〉は三五ノットを超え敵艦隊へ進撃する。〈相模〉は四〇ノットを出せるが、〈筑紫〉も同速程度は出ているのではなかろうか。

 一六インチ搭載艦では此方が連装四基八門。アメリカ艦は三連装三基九門。防御では対一四インチでしかない〈相模〉型は勝ち目はない。直進して一太刀の内に空母を撃破する。曲芸染みた作戦であった。

 駆逐艦が主砲を振りかざして、空中艦の周囲に高角砲弾の黒い華が咲く。巡洋艦は大きいもので八インチ、小さいものなら五インチの徹甲弾を撃ち、空中艦を撃墜せんとする。しかし戦艦級の主砲と撃ち合う前提で設計された空中戦艦に、その砲撃はあまりにも非力であった。

 二五ミリ機銃や四〇ミリ機関砲が防護壁を抜けた八インチに潰され、一二.七センチ高角砲が同じ高角砲の至近弾で砲身を千切られる。それでも主防御区画を抜く事は適わず、艦尾に位置する主推進プロペラも快調に回り続けた。

〈サウスダコタ〉級の主砲はまだ発砲していない。対空砲員の退避が終わるまで、空中艦隊は無事だろう。

「空母、退避せず。輪形陣を維持」

「下手に動かず耐えるか。最善策だな」

 小刻みな振動の中、草鹿が独語する。原田は狂騒に近い司令塔の中、司令長官の声を反芻した。

「最善策か」

 戦闘間際や戦闘中に陣形を変える事は、戦史から悪手と理解出来る。しかし防衛目標である空母を、護衛を付けた上で退避させたい欲求に駆られるはずだ。こちらが空母より優速であると理解した上で、陣形を維持しているに違いない。つまり敵司令官は空中艦に対して、一定の理解や運用経験があるのだろう。

 強敵だ。原田は自然と手摺を掴む腕に力を込めた。

「間もなく射程に空母を捉えます!」

 大野が興奮した声で報告した。四一センチが届く位置に、空母がいる。初期の空母戦術で想定された、空母に対する砲撃という状況が現出したのだ。

「〈筑紫〉と〈相模〉は砲撃開始。一四インチ砲の艦はまだ待て」

 艦の傾斜は一八度だが、連装砲も仰角を掛けている。計算上、最接近すると砲の俯角が限界を超えるために、艦艇は事前に傾斜を強くしてあった。一応二〇度まで傾斜が可能だが、被弾で煽られた場合に、危険な程度まで傾くと転覆してしまう。

 単胴型で安定性に劣る日本の空中艦では、四五度を超すと水平に戻る為には、牽引や着陸するしかない。戦場での滞空を想定したフランスやイタリアの空中要塞は双胴艦体(カタマラン)を採用している。〈デヴァスタシオン〉級と〈イタリア〉級がそうだ。

 司令塔の警告灯が点滅し耳障りな音が二度響く。轟音に麻痺した聴覚でも聴こえるように調節された、苛つかせる音が二度、しばし間を置いて長くブザーが鳴ると発砲だ。

 司令塔に居ても感じる衝撃と、艦橋頂部と電探の報告のみが、命中かどうか確かめる手段だ。観測機は危険が大き過ぎるので、第三艦隊やエニウェトクからは飛来していない。

「全弾遠弾!」

 大野の声に原田は唸る。初弾命中の奇跡は望むべくもないが、騎馬隊として敵陣に突入している以上、早期の命中弾を願わざるを得ない。

 電探を覗く電探操作員の顔が強張る。それと同時に伝声管が喚き立てた。

「敵戦艦発砲!」

 遂に恐れていたものが来た。草鹿の顔を盗み見ると、原田と同じく眉間に皺を寄せている。何かに耐えるような表情だ。

 焦りが他にも伝播したのか、後方の〈浅間〉ら六隻が発砲を始めた。射程限界ぎりぎりだが、向こうも焦っているのだろう。

 敵艦(戦後判明した艦名は〈サウスダコタ〉であった)の射弾は高度に発達しつつあった電探により、〈筑紫〉の下を通過し三隻後ろの〈常盤〉を掠めた。〈筑紫〉と〈相模〉が主砲の関係から少し離れる航路であるのに対して、〈浅間〉以下はより近付いて砲撃をする。その為に〈浅間〉の方が狙われたのだろう。

〈浅間〉に対しては別の戦艦が砲撃する。〈吾妻〉も同様だ。〈松島〉〈厳島〉〈橋立〉には重巡洋艦らしき数隻が浴びせ掛けている。

 三〇〇〇〇メートルを切ってからは重巡洋艦の砲撃が空中艦に命中し出す。艦体が揺らぐために、空母に対して命中弾は期待出来ない。推進機も削り取られ始めると、〈松島〉以下は重巡に対して砲口を向けると、司令部に対して報告した。

「退避中の航空母艦に対し砲撃するも命中する期待極めて少なし。第二空中戦隊は支援に徹するなり」

 これで空母を狙う艦は五隻に減る。全速前進しているのだから仕方がないが、命中率は極めて低い。ここで三隻の離脱は大きい。

 焦れた〈浅間〉型三隻が更に接近した。二一〇〇〇メートルに至り、遂に待ちわびた報告がなされた。

「敵空母一番艦に命中炎上中!」

「よし……」

 拳を握り原田は喜びの声を上げた。しかし、次の報告が彼の歓喜を押し潰した。

「〈吾妻〉被弾、続けて〈常盤〉被弾!〈常盤〉墜落します!」

「な……なんだと……」

〈常盤〉が墜落したという事は、戦艦の主砲が命中したのだろう。艦橋に駆け上がり、この目で確かめたい衝動に駆られた。

「参謀長。見てきてくれないか」

 はっと草鹿の顔を見返す。原田の焦燥を見て取った草鹿が、気を回してくれたのだろう。原田は敬礼するとタラップを蹴った。


〈吾妻〉への命中弾は〈インディアナ〉のもので、二発が同時に主防御区画(ヴァイタルパート)を突き刺さした。

 第一主砲塔を下から突き上げるように命中した一発は、弾薬庫に阻まれて炸裂した。浮遊機関を動かす右舷機械室が全滅、缶室もひとつが破壊された。左舷機械室が無事であれば浮遊機関は動くが、主推進機を兼ねる必要があり減速は免れない。ここで減速すれば蜂の巣になるのは明白だ。

 二発目の一六インチ砲弾は左舷を掠めるように突入し艦を貫いた。左舷の偶数番高角砲が一掃されて、左舷の装甲が切り裂かれた。装甲の表面を滑るような軌跡に、〈吾妻〉は堪らず艦を水平に戻される。

 それに対して〈常盤〉への命中弾は三発。主防御区画を貫くと、前後を缶室に挟まれた機械室で炸裂した。機械室と缶室が破壊されたのは〈吾妻〉と同様であったが、〈常盤〉に不利だったのは残りの二発も艦内に飛び込んだことであった。

 機械室全てを破壊された〈常盤〉は推進機を空転させつつ、空中で静止状態になる。

 浮遊機関自体を破壊されると、急速に浮力を失った空中艦は燃え上がった飛行船のように墜落する。機械室の破壊であれば緩やかに浮遊機関が停止し、艦内から脱出する時間が稼げる。〈常盤〉は総員退艦を命じられた。落下傘を背負った者は飛び込み、落下傘を失った、又は燃やされてしまった者は着水するまで待機する。待機する側は気が気でないが、少しでも早く降りてくれるように〈常盤〉に祈るだけであった。

 推進機が無事な〈吾妻〉艦長の佐薙毅は高度維持を捨て、緩やかに降下しながら艦速を維持した。偵察艦橋が波を被る高さまで降りて撃沈を偽装、〈インディアナ〉の凶刃を避ける事に成功した。その後〈吾妻〉は一時的に消息不明になるが、マーシャル諸島への帰還に成功する。


 原田が〈筑紫〉艦橋に駆け登り見たのは、燃え上がる〈吾妻〉、〈常盤〉、そして敵空母であった。

〈筑紫〉の砲弾は未だ命中弾を出していない。しかし〈浅間〉が敵空母を撃ち降ろし甲板に大穴を拵えていた。〈浅間〉は更に接近すると、もう一隻の大型空母に狙いを変えた。

〈浅間〉の後部主砲塔が閃光を放ち、砲身の細い影が甲板から転がり落ちた。近付き過ぎた〈浅間〉に対して、戦艦二隻が集中し始めた。〈松島〉型三隻には重巡洋艦と判明した四隻と、軽巡洋艦が絶え間ない射弾を送り続けている。重巡に対しては数発の命中弾を与えているが、向こうも必死に空母を守っているのだろう。ひるむ様子もなく立ち向かっている。

 草鹿の声が艦内に響く。スピーカーは撤退を命じていた。

「〈浅間〉の後退を援護し、〈浅間〉が下がり次第我々も避退する」

 空母は一隻が大破確実。もう一隻にも〈浅間〉の最後の命中弾により、飛行甲板を破壊した。残りは小型空母であり、見逃してもよいとの判断だろう。

 恐らくあの二隻は生き残り、再び我々の前に立ち塞がるだろう。アメリカ海軍はダメージコントロールが巧みだ。

 日本海軍も応急長と応急班を新設したが、本家の技術には敵わない。開戦以来の喪失艦が物語る。

 もし、もし戦争が終わって日本海軍が残っていれば、と原田は思う。彼等の技術を直接学ぶ機会は出来るだろうか。

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